上 下
375 / 435
細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

じゃあ、コレでちゃらってことで

しおりを挟む
 鼻を擽るシャボンの香り。馴染みしかない、日頃俺が使っているものと同じ香り。

 不思議だな……一緒のボディーソープを使ったハズなのに。先輩の方が、いい匂いがする。甘くて、柔らかくて、スゴく落ち着く。

 もっとくっついていたくて広い背中へと腕を回した。

 驚かせてしまったんだろうか。密着してしまっている鍛え抜かれた逞しい長身から、僅かな震えが伝わってきた。今、先輩、どんな顔をしているんだろう。

 一度気になってしまえば、前向きなそわそわ感と、少し後ろ向きな不安感とに同時に襲われてしまう。消化不良に似たモヤモヤ感を解決すべく顔を上げようとしていたところで、擽ったそうな笑い声が頭の上から降ってきた。

「……可愛いなぁ……もー……そんな風に甘えてもらえちゃったら、何にも言えなくなっちゃうじゃん」

 蕩けるような笑顔だった。どこもかしこも、ふにゃりと綻んでいた。細長い眉も、タレ目の瞳も、スッと通った眼尻も、形の良い唇も。

 まるで、愛しさが、慈しみがあふれているような。その笑顔を向けてもらえるだけで、俺は温かさに包まれていくような感覚を覚えていた。

「……ん? どうしちゃったの、ぽかんとしちゃって……あー……もしかして、また、オレに見惚れてくれちゃってたり?」

 最初は不思議そうに。何かを察した途中からは楽しそうに。明るい調子で尋ねながら、先輩が俺の背中を宥めるみたいに、ぽん、ぽんっと軽く叩き始める。

 はたと気付いた俺は、図星を突かれたことよりも、申し訳無さが勝っていた。呑気に抱きついてしまっていた腕を慌てて離す。

「あっ、ごめんなさい、俺……」

 寂しい思いをさせておいて、自分だけ甘えるなんて。そう思うものの、ただ謝罪の言葉を述べることしか俺には出来ない。いや、それしか浮かばなかった。

「先輩が呼んでくれていたのに気付けなくて……寂しい思いさせちゃってホントにごめんな、さ……い?」

 先輩は、途中までは柔らかく微笑んで、俺の言葉を受け止めてくれるように静かに聞いてくれていた。

 聞いてくれていたんだが、急に指先でちょんちょんと俺の頬をつついてきた。不思議に思っている間に今度は唇を、続いて自分の口を指し示してきた。えっと、これって、もしかしなくても?

「あ、えっと……あの……」

 お詫びに俺からキスして欲しいってこと、だよね?

 意図は分かったものの、急に実行出来る勇気が出ない。何の目的もなく、胸の前で両手をわたわたさせてしまっていると、どちらも大きな手のひらに掴まってしまった。

「う、ぁ……」

 ゆるりと片方の口端だけを持ち上げて、先輩が微笑む。掴まれた俺の手が、先輩の頬に添えるように導かれていく。しっとりと柔い温もりが、手のひらに触れた。

「シュン……」

 俺を呼んでくれた声は、僅かに掠れていて。小さな囁きだったのに、頭の中に響くくらいに大きく聞こえた。

 くらくらする。こだまみたいに響いている、甘さを含んだ先輩の声と、騒ぎ始めた心音とが混ざって聞こえて。熱くもないのに、熱に浮かされているみたい。

 身体はすでに白旗を上げかけていた。でも、魅力的な先輩の引力は凄まじいもので、その艷やかな微笑みに吸い寄せられるに俺は顔を寄せていた。自分から、先輩へと口付けることが出来ていた。

「ん……イイ子……よく出来ました」

 甘く食んだり、擦り寄せたり、先輩みたいに上手くは出来ていなかった。単に押し付けただけだったのに、先輩は嬉しそうに微笑んでくれている。頭をよしよしと撫でてくれている。

「……あ、ありがとう、ございます」

「フフ、じゃあ、コレでちゃらってことで。もう気にしなくてイイからね」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

処理中です...