上 下
279 / 435
細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

とある恋の決着

しおりを挟む
 ライと別れてから先輩の様子がおかしい。浮かない顔で黙りこくってしまっている。

 行動もだ。てっきり俺は、このまま上の階にある俺の部屋へと場所を移すのかと。しかし先輩は、俺の手を引きながら寮を後にしているのだ。

 何やら深刻そうな様子に、俺は何も言えずにいた。ただ黙々と歩んでいく彼に連れられるがまま、足を進めていた。

 険しそうに細められ、どこか遠くを見つめている眼差しが、ようやく俺を見てくれた。固く引き結ばれていた唇が僅かに綻んでいく。

「……シュンちゃん」

「……はい」

 尋ねてきた声は小さかったけれども、芯のある声だった。

「……オレも、報告したいやつがいるんだけど、いい?」

 すかさず頷くと、先輩は「ありがとう」と微笑んでから再び前を向いた。目指している方向から察するに学園、だろうか。この時間まで残っているとなると、先輩が報告したい相手は何らかの部に属している可能性が高いけれど。

 そこまで考えて、思い至ってしまった。というより、彼としか思えない。だって、俺が知る限り、ソレイユ先輩にとって一番に報告したいほどの大事な人って。

 駆け出し始めた鼓動は、全身に響くほど。繋いだ手から、確実に伝わってしまっていそうだ。

 俺を導く長い足に迷いはない。正門を抜け、一直線に練習場へと歩いていく。すでに人がまばらなそこに、静かに佇んでいる人影が一つ。軍服姿のがたいのいい青年が、夕焼け色に染まりながらただ黙々と剣を振るっていた。

 俺達に気付いたんだろう。練習用の剣を慣れた手つきで腰の鞘に納めると、骨ばった手で額の汗を拭い、爽やかな笑みを浮かべた。

「どうしたんだソル? 今日は大事な用事があったんじゃ……」

 青年、サルファー先輩の黄色い瞳が、俺を捉えた。はたと見開いた眼差しが、ゆっくりと下りていく。

 俺達の手元を見つめて、また俺の顔を、ソレイユ先輩の顔を見てから、彼は納得したように小さく頷き、口端を僅かに持ち上げた。寂しそうな微笑みだった。

「そうか……シュンは、ソルを選んだんだな……ソル、貴様……覚悟は出来ているんだろうな?」

 地を這うような声と共に向けられた眼差しは、彼の剣筋のように鋭かった。見つめられていない俺でも、身体が強張ってしまったのに、ソレイユ先輩は真っ向から受け止めていた。繋がれた手に力が込められる。

「ああ、オレはシュンちゃんを……シュンを愛してる。この気持ちは誰にも負けない。絶対に、シュンを離さない」

 こみ上げてきた熱が胸を満たしていく。喉が震えて言葉が出ない。声にならない。

 せめて応えようと温かい手を握り返した。柔らかな眼差しが俺に微笑みかけてくれる。また握り返してくれる。

「そうか……それが、貴様の答えか」

 腕を組んだまま、先輩の宣言に耳を傾けていたサルファー先輩が大股で俺達に迫ってきた。先輩の目前で、ゆらりと拳を振り上げた。

 咄嗟に手を伸ばしていた俺の悪い想像は外れた。握られた拳が振るわれることはなく、ソレイユ先輩の胸にとんっと優しく置かれた。

「あ、あれ? 殴んないの?」

「む? 何で俺が貴様を殴るんだ?」

 目を白黒させているソレイユ先輩に、サルファー先輩が太い首を傾げた。

 どうやら、ソレイユ先輩も勘違いしていたらしい。しかも、受け止めるつもりだったみたい。気持ちは分かるけど。友達の話という体で、大まかな事情を知ってしまっている俺は。

「いやいや、だって俺……サルフの事応援するっていったのに……なのに、シュンちゃんのこと」

「だが、好きになったんだろう? 本気で」

「うん、大好き……愛してる」

 サルファー先輩の問いかけに、先輩は間髪入れずに俺への想いを紡いでくれた。もう供給過多もいいとこだ。ひたむきな言葉を捧げられ続けた俺の心臓は壊れそうなくらいに暴れ狂ってしまっている。

 顔にも出てしまっていたんだろう。俺を見つめるサルファー先輩の瞳が楽しそうに細められている。ソレイユ先輩に向けて、白い歯を見せニカッと笑った。

「だったら、迷うことは何もないだろう。絶対にシュンを幸せにしろ。もし泣かせてみろ、貴様のことを……」

「ぶっ飛ばす?」

「ああ、分かっているならそれでいい。おめでとうソル」

「ありがとう……サルフ」

 笑い合う二人の拳が軽く合わせられる。サルファー先輩は「ソルのこと、頼んだぞ」と俺の頭をひと撫でしてから俺達に背を向け、部室の方へと歩いていった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

小さい頃、近所のお兄さんに赤ちゃんみたいに甘えた事がきっかけで性癖が歪んでしまって困ってる

海野
BL
小さい頃、妹の誕生で赤ちゃん返りをした事のある雄介少年。少年も大人になり青年になった。しかし一般男性の性の興味とは外れ、幼児プレイにしかときめかなくなってしまった。あの時お世話になった「近所のお兄さん」は結婚してしまったし、彼ももう赤ちゃんになれる程可愛い背格好では無い。そんなある日、職場で「お兄さん」に似た雰囲気の人を見つける。いつしか目で追う様になった彼は次第にその人を妄想の材料に使うようになる。ある日の残業中、眠ってしまった雄介は、起こしに来た人物に寝ぼけてママと言って抱きついてしまい…?

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

孕ませねばならん ~イケメン執事の監禁セックス~

あさとよる
恋愛
傷モノになれば、この婚約は無くなるはずだ。 最愛のお嬢様が嫁ぐのを阻止? 過保護イケメン執事の執着H♡

保育士だっておしっこするもん!

こじらせた処女
BL
 男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。 保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。  しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。  園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。  しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。    ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

童貞が建設会社に就職したらメスにされちゃった

なる
BL
主人公の高梨優(男)は18歳で高校卒業後、小さな建設会社に就職した。しかし、そこはおじさんばかりの職場だった。 ストレスや性欲が溜まったおじさん達は、優にエッチな視線を浴びせ…

バイト先のお客さんに電車で痴漢され続けてたDDの話

ルシーアンナ
BL
イケメンなのに痴漢常習な攻めと、戸惑いながらも無抵抗な受け。 大学生×大学生

処理中です...