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マッチョな先輩と恋人同士になった件(サルファールート)

あーんしても、いいですか?

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 俺が不可抗力な二度寝をしている内に、先輩は一人で後始末をすませてしまっていた。

 とはいえ、勝手にパンツを履き替えさせるのは躊躇ったらしい。起きてすぐに身体の調子を心配されながら、水を手渡されながら「後で着替えてくれ」と謝られた。

 俺としては、先輩に着替えさせてもらうのも大抵の内に入るみたい。想像しても、一切イヤじゃなかったからな。だから、言葉で伝えて行動でも、俺の下着が入っている引き出しの場所を教えたんだが。 

「っ……そんな大切なことを平然と頼まないでくれ……嬉しいんだが、君は俺のことを信用し過ぎだぞ! 俺が君の寝込みを襲うとか……考えないのか?」

「俺の寝込みを先輩が? ……襲ってくれるんですか?」

「ぐ、ぅ……そんな嬉しそうな顔もしないでくれ……っ」

 俺的には美味しいシチュエーションなんだが。勘弁してくれと、今でも必死に抑えてるんだぞと。顔を真っ赤にして涙目で請われてしまえば、一旦引かざるをえなかった。

 また別の機会に提案してみることにしよう。先輩の反応的には好感触だし。俺の為に我慢してるって感じだし。

 そんなやり取りをしている内にお腹が空いて。そう言えば何時だっけと端末で時間を確認すれば、すでに十時を回っていた。

「ちょっと多めに食べておきます? 朝ご飯兼昼食になっちゃいますし」

「そうだな。食べて、少しゆっくりしたら出かけようか……その、デートに……」

「はいっ」


 本日のラインナップは冷凍炒飯に、グラタン。それから、買ってて良かったサラダチキン。

 先輩は、その筋骨隆々な身体を維持しているだけあって、やっぱり食生活も出来るだけ気を遣っているよう。サラダチキンを見せれば、嬉しそうに目を輝かせていた。

 レンジでチンして、グラスにお茶も注いで準備万端。さり気なく隣に座ろうと、お皿を隣同士に並べようとして、先輩から先を越された。

「シュン……隣、座るだろう?」

 ローテーブルの左端に寄って座った先輩から、手招きされたのだ。そんでもって、空いている右側に来てくれと言わんばかりに、カーペットをぽん、ぽんっと叩いて示してくれたのだ。

「はいっ」

 俺は二人分のお皿を手に、喜び勇んで隣に腰を下ろした。一緒にいただきますをしてから、先輩は早速サラダチキンの包みを開け、俺は熱々のグラタンをスプーンで掬った。

 エビの入ったシンプルなグラタンは、相変わらず普通に美味しい。チーズの塩気とホワイトソースのまったりとしたコクを味わいながら、ふと思う。

 先輩から直々に招いて頂けたのだ。今ならば、憧れのアレが出来るかもしれない。させてもらえるかもしれない。

「サルファー先輩……お願いがあるんですけど……」

「ん? なんだ?」

 サラダチキンを片手に先輩が微笑む。

 少し膨らんだ頬をもくもくと動かしながら俺を見つめる眼差しは、何でも言ってくれと言わんばかり。応えてくれる気満々だ。

 まだ俺が、どんなお願いをするのかも知らないのになぁ……

「先輩に……あーんってしたいんですけど……」

 先輩の優しさにほっこりしつつ切り出した途端、一気に彼の頬が色づいていく。

 幅広の肩が大きく跳ねたかと思えば、入ってはいけないところにチキンが入ったのか。行儀正しく伸ばしていた背を曲げ、むせ始めた。

「だ、大丈夫ですかっ?」

 筋肉で盛り上がった背を撫でながら、お茶を差し出す。

 幸いなことに、そこまで酷くはなかったらしい。お茶を一息に飲み干した時には、もう咳は収まっていた。

「ありがとう……その、すまない……君があんまりにも可愛いことを言うもんだから……」

「じゃあ……してもいいですか?」

「あ、ああ……よろしく頼む」

 言い出しっぺのくせに、いざ出来るとなったら緊張してしまう。背筋を伸ばして待つ、先輩の口元へ運ぶスプーンが震えてしまう。

 それでも何とか差し出せた銀の匙を、エビを乗せたグラタンを先輩がゆっくり口に含んだ。

 高鳴る鼓動が煩い。つい俺は見つめ続けてしまっていた。頬が、尖った喉が動く様を、瞬きも忘れて。

「……美味しいですか?」

 蜂蜜色をした瞳が微笑んだ。

「ああ、美味いな……君に食べさせてもらっているから、余計に美味しく感じるよ」

 こういうところがズルいのだ。さっきは、むせるほど慌てていたのに。

「ははっ照れているのか? 可愛いな……」

 嬉しい言葉をくれるどころか、頭まで撫でてくれるのだから。蕩けるような笑顔を向けてくれるのだから。

「なぁ、シュン……今度は俺がしてみてもいいか?」

「は、はい……お願いします」

 いそいそとスプーンを手に、グラタンを掬った先輩が「ほら、あーん」と俺の口元へと運んでくれる。

 ……確かに。自分で食べた時は普通の美味しさだったのに。先輩からっていう特別が加わった途端に、幸せな味が口いっぱいに広がったんだ。
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