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マッチョな先生と恋人同士になった件(グレイルート)

セレストさんが、夜這いをしろと提案してくるんだが?

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「で、実際のところ、どうだったんだね?」

 頬をもぐもぐと動かしながら、フォークを咥えたままセレストさんが俺に尋ねる。

「どうって……別に、その……」

 ……言える訳がない。

 詳しい内容は勿論だが、ひたすらに先生に、イイ子だね、可愛いよって優しくしてもらって、俺だけが……なんて。

 俯いて口ごもっていると甲高い音。セレストさんが、フォークを皿の上に置きながら目をしばたたかせた。

「……まさか、一夜を共にしておきながらまだヤってないのかね?」

「う……」

 胸の辺りにグサリと刺さった気がした。呆れたような声で、さも有り得ないと言いたげに尋ねられた一言が。

 俺が胸元を押さえながら唸っていると、セレストさんが寄ったシワを押さえるように、眉間に指を当てた。肩を落とし、口から漏れたため息は重く深い。

「全く……さっさと既成事実を作って縛りつけておけ、と再三説得したのだがね……あの頑固者め」

「……俺は先生から離れたりなんかしませんよ? 先生自身が、どう思ってるかは知りませんけど」

「彼が君を手放すことの方が、有り得ないと私は思うがね」

 ……何で、そんなに自信満々で断言出来るんだろう。

 胸がチクリと痛んだ。ほんの少しとはいえ不安が滲んでしまった俺との違いに。垣間見えた、俺にはない二人の信頼関係に。

 俺は、またしても俯いてしまっていた。隣で溜め息が聞こえたかと思えば、頭を軽くぽん、ぽんと叩かれる。宥めるような手つきだった。

「……ほら、またそうやって私ごときに心を乱されない為にも、肉体的な繋がりが必要なのではないのかね?」

 浅ましい独占欲をあっさり見抜かれ、居たたまれなくなってしまう。

 っていうか……に、肉体的な繋がりって……確かに先生と、そういうことがしたいなって……出来たらいいなって下心満載でお泊り計画を立てましたけど。昨晩は俺だけで、消化不良気味ですけど。

 いざ言葉にされてしまうと顔から火が出そうになってしまう。背中に変な汗が伝う。

 今度は背中を叩かれた。気合を入れるみたいにペシペシ叩きながら、セレストさんが声を大にする。

「これくらいで恥ずかしがっていてどうするんだね君! そんな体たらくでは夜這いなんて出来んぞ!」

 今、とんでもない単語が聞こえたような。

「よばって……え? もしかして、俺に先生を襲えって言ってます?」

 弾かれたように顔を上げれば、いたく真面目な表情をしたセレストさんと目が合う。

 どうやら俺の聞き間違いではなかったらしい。しかも、巫山戯ている訳ではなさそうだ。さっきみたく俺をからかい、楽しんでいる訳でも。

 俺の背を軽く撫でてから、セレストさんが背もたれに寄りかかる。

 俺ではない誰かを見ているような眼差し。水色の瞳が、僅かに伏せられる。

「……当然だろう。それくらいの強硬手段に出ない限り、彼は君と一線を越える気がないみたいだからね」
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