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細マッチョな先輩と恋人同士になった件(ソレイユルート)

カッコよくて、キレイで、純粋な先輩に比べて俺は

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「フフ、次は嫌いな物だっけ? 嫌いっていうか、鳥が苦手になっちゃったかなー」

「……鳥、ですか?」

「うん、アイツらさー……平気でオレのバイクにフン落としてくんだよねー。バッチリ対策はしてるんだけどさ……定期的にやられるせいで、やんなっちゃった」

 肩をすくませ大きな溜め息を吐いてから、先輩は口をむいっと尖らせた。子どものように拗ねた顔をする先輩が可愛くて、知らず知らずの内に笑みがこぼれてしまう。

「あーっ今笑ったでしょ? シュンちゃんひどーい」

 からからと笑いながら先輩が俺の頬を両手で包みこんでくる。じゃれついてくれているんだろうか。ほっぺをむにむにと引っ張っられたけれども、全然痛くない。擽ったいくらいだ。

「ふは、ふふ、ごめんなひゃい」

「ん、いいよー、許してあげる」

 俺が先輩の腕を軽く叩きながら謝ると頬を解放してくれた。最後にもう一度俺の両の頬に手を添え、パン生地でもこねるように優しく撫で回してから、右手を俺の手の甲に重ねてきた。

「最後は……シュンちゃんにして欲しいこと、だっけ?」

 大本命の質問に固唾を飲んで先輩の答えを待つ。真っ直ぐな眼差しを受け止めていると、急に周りの音が遠退いていった。相変わらず騒がしい俺の心臓の駆け足だけが聞こえている。

 ほんの僅かな間だったけど、長く感じる沈黙の最中、心なしか真剣だった先輩の表情がニコリと微笑んだ。

「……特にないかな」

「へっ?」

 まさかの回答になんとも間の抜けた声が俺の口から飛び出していた。先輩の答えを飲み込めずに、口を開けたまま固まってしまっていた俺の頭を温かい手のひらが、ぽん、ぽん、と撫でてくれる。

「シュンちゃんが、こうしてオレの側で笑っていてくれるだけで幸せだからさ」

 とびきり柔らかな声で紡がれた言葉は、先輩の気持ちは、嬉しくて堪らない。それは、ホントだ。なのに、俺は言葉に出来ない寂しさを感じていた。

 ……やっぱり、先輩は俺とそういうことをしたくないんだろう。

 本当に幸せそうに瞳を細める先輩に対して、自分の心が汚れているような気がして。気がつけば俺は目を逸らしてしまっていた。

「……シュンちゃん?」

 俺を呼ぶ声は不安そうだった。でも、ホントのことを言う訳には。

「ごめんなさい、何でもないですから」

 自分の心に蓋をしてから向き直る。先輩の表情はすっかり沈んでしまっていた。俺が曇らせてしまった。彼の笑顔を。

 物言いたげに見つめてくる瞳が悲しげに揺れている。

「遠慮しちゃイヤだって……オレ、言ったよね?」

「でも……」

「オレって、そんなに頼りない? ……オレじゃなくて、サルフにだったら、話せてた?」

「そんなこと……って、何でそこでサルファー先輩が出てくるんですか?」

「じゃあ、教えて? オレを頼ってよ……オレに甘えてくれるんじゃ、なかったの?」

 勢いよく肩を掴んできた先輩の手は震えていた。

 心の底まで見透かされてそうな、夕焼けに似たオレンジの瞳。鋭く細められた眼差しに射抜かれてしまっては、とてもじゃないが逃れられそうにない。俺は観念して重たい口を開いた。

「……先輩に嫌われちゃうかもしれないから、我慢しようって思ってたんですけど……」

「だったら全然大丈夫! オレがシュンちゃんのこと嫌いになることなんてありえないから! で、どうして欲しいの?」

 ぱぁっと顔を輝かせ、先輩は自信満々に微笑んだ。俺を心配させないようにしてくれているんだろう。こんな時でも気づかってくれている彼の優しさに胸が温かくなると同時に申し訳なくなる。

 俺の言葉を待ってくれている眼差しは柔らかい。俺は意を決して、逃げずに先輩を見つめた。

「……俺のこと抱いて、欲しい、です」

「……ん? ……それなら今もしてるし、足りないんだったら、いくらでもぎゅってしてあげるよ?」

 お膝の上で抱いてくれている俺を今よりも抱き寄せて、先輩が微笑む。でも、俺は気づいてしまった。少しタレ目な彼の瞳が少しだけ、左右に泳いでいたのを。

 それに加えてあからさまな誤魔化しに、内心俺は落胆した。

 とはいえ、ここまで言ってしまったら引き下がるわけにいかない。毒を食らわば皿まで、当たって砕けるんだったら、とことん砕けきった方が後悔はしないだろう。今度は、より直接的な言葉を投げ掛けてみた。

「……そうじゃなくて……先輩と、エッチしたい、です」

 まるで石になってしまったみたいだった。笑顔のまま固まってしまった先輩を見ていられなくなって、今度は顔ごと背けていた。

 終わったな……やっぱり、引かれたよな……

 前言撤回だ。もう、後悔しちゃってる。鼻の奥がツンと痛んで、だんだん視界がボヤけてきてしまう。

 溜まりに溜まって、ついにあふれてしまった。ぽろりとこぼれた熱い滴が頬を伝っていく。口の端からちょっと入ってきて、イヤなしょっぱさが広がっていった。

 更には顎まで流れ落ちてきて、震える拳の上にもぽつぽつと。本格的に止まらなくなってきた時、涙で滲んでいる視界がぐわんと回った。

 すとんと背中に当たったのは固い床の感触。どうやらカーペットへと押し倒されたらしい。軽い衝撃により、あふれていたのが横へとこぼれていって、少しクリアになった視界に天井を背に見下ろす先輩が映った。

 その表情は感情が削ぎ落とされたかのように酷く無機質で、いつもの優しい笑顔がウソのよう。勝手に身体が縮こまって、声が震えてしまう。

「ソレイユ、先輩?」

「シュンちゃん、ゴメンね……そんなこと言われちゃったら、オレ、優しく出来ないかも……」
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