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諦めたくない、まだ……諦めない
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……手が、顔が痛い。小石だろうか。顔を上げたことでぱらぱらと落ちていく。皮膚にめり込むみたいにくっついていた欠片が、ひび割れた石造りの床に。
身体は動く……みたいだ。鈍く重いけれど、感覚はある。腕も足もちゃんと。
「……キョウヤ、さ……」
黒い輝きとの衝突から庇ってくれた彼、俺に覆い被さっている長身は呼びかけに答えてくれない。
「随分と手こずらせてくれたな」
代わりに答えた声。苛立つしゃがれ声が、力なく横たわる彼の首根っこを掴んで吊り上げた。
だらりと垂れ下がる長い四肢。目の前の光景があの時のアサギさんと重なる。
「キョウヤさんッ!」
素早く見回し見つけた白銀。
手元を離れてしまっていた唯一の対抗手段に、手を伸ばそうとして防がれた。鈍い光沢を帯びた大きな足に踏み潰され、右手が嫌な音を立てて軋む。
「っあ……ぐ……ぅ……」
「やらせるとでも? 大人しくそこで見ているといい。我らが神の復活を、世界の終わりをな!」
キョウヤさんの胸元に鎧兜が手をかざす。すると白い輝きが、見覚えのあるハート型にカットされた宝石が現れた。
「……愛の、輝石」
白い煌めきを手中に収めた鎧兜が感極まった声を上げる。
「なんと神々しい……ああ、ようやく君に会えるんだな……待っていてくれ、セレネ……」
……このままじゃ、世界が終わってしまう……皆が影にされてしまう。
ヒスイ……コウイチさん……ダイキさん……アサギさん……キョウヤさん……博士……
なくなっていく手の感覚と一緒に瞼が落ちていく。全身を蝕んでいく重さと絶望感に身を委ねかけようとして、ぽつりと浮かんだ。
……イヤだ。
イヤだ、イヤだ! 諦めるもんか! まだだ、まだ終わっちゃいない!
無理矢理動かした身体からブチブチと固いものを割くような音がする。でも構わない。あと少しで届くんだ。
「……ッ」
握り締めた白銀を構え、黒い巨体目掛けて放つ。
眩い輝きに巻き込まれようがどうってことない。皆を失う恐怖に痛みに比べたら。
「ガ、ぁっ!?」
まともに受けた鎧兜が後方へと数歩分よろめいた。手放され、地面に転がったキョウヤさんの胸元で愛の輝石が煌めいている。
「キョウヤ、さ……」
反動からか、身体に上手く力が入らない。
動け……動け、動け!
伸ばした腕が引き摺る足が痛いとか重いとか、もうよく分からない。唯一感じていた鉄の味に砂利が混ざる。地面を藻掻くように這いずりながら彼の元へ。
辿り着いたキョウヤさんの瞳は固く閉じられたままだった。けれども音がする。呼吸が、鼓動が……命の音が聞こえる。
「良かった……まだ、生きて……」
「貴様……」
直撃させたハズだ。ゼロ距離で。その証拠にやつの鎧には大きな亀裂が、脇腹を中心に胸元まで届いている。なのに。
「ッ……」
黒く光る棍棒を手に、俺達に影を落とす鎧兜に銃口を向ける。瞬間、視界を真横に過ぎった黒い影。
「あっ……?」
影にしか見えなかったやつの一振りにより、白銀が甲高い音を立てて俺の手を離れていく。背後でカン、カラカランと絶望の音が地面に転がった。
「残念だったな……だが、最期まで大切な者の為に戦うその雄姿、敵ながら天晴であったぞ」
容赦なく振り下ろされようとしている黒い線。俺はただ、まだ温かいキョウヤさんの身体を抱き締めることしか出来なかった。
身体は動く……みたいだ。鈍く重いけれど、感覚はある。腕も足もちゃんと。
「……キョウヤ、さ……」
黒い輝きとの衝突から庇ってくれた彼、俺に覆い被さっている長身は呼びかけに答えてくれない。
「随分と手こずらせてくれたな」
代わりに答えた声。苛立つしゃがれ声が、力なく横たわる彼の首根っこを掴んで吊り上げた。
だらりと垂れ下がる長い四肢。目の前の光景があの時のアサギさんと重なる。
「キョウヤさんッ!」
素早く見回し見つけた白銀。
手元を離れてしまっていた唯一の対抗手段に、手を伸ばそうとして防がれた。鈍い光沢を帯びた大きな足に踏み潰され、右手が嫌な音を立てて軋む。
「っあ……ぐ……ぅ……」
「やらせるとでも? 大人しくそこで見ているといい。我らが神の復活を、世界の終わりをな!」
キョウヤさんの胸元に鎧兜が手をかざす。すると白い輝きが、見覚えのあるハート型にカットされた宝石が現れた。
「……愛の、輝石」
白い煌めきを手中に収めた鎧兜が感極まった声を上げる。
「なんと神々しい……ああ、ようやく君に会えるんだな……待っていてくれ、セレネ……」
……このままじゃ、世界が終わってしまう……皆が影にされてしまう。
ヒスイ……コウイチさん……ダイキさん……アサギさん……キョウヤさん……博士……
なくなっていく手の感覚と一緒に瞼が落ちていく。全身を蝕んでいく重さと絶望感に身を委ねかけようとして、ぽつりと浮かんだ。
……イヤだ。
イヤだ、イヤだ! 諦めるもんか! まだだ、まだ終わっちゃいない!
無理矢理動かした身体からブチブチと固いものを割くような音がする。でも構わない。あと少しで届くんだ。
「……ッ」
握り締めた白銀を構え、黒い巨体目掛けて放つ。
眩い輝きに巻き込まれようがどうってことない。皆を失う恐怖に痛みに比べたら。
「ガ、ぁっ!?」
まともに受けた鎧兜が後方へと数歩分よろめいた。手放され、地面に転がったキョウヤさんの胸元で愛の輝石が煌めいている。
「キョウヤ、さ……」
反動からか、身体に上手く力が入らない。
動け……動け、動け!
伸ばした腕が引き摺る足が痛いとか重いとか、もうよく分からない。唯一感じていた鉄の味に砂利が混ざる。地面を藻掻くように這いずりながら彼の元へ。
辿り着いたキョウヤさんの瞳は固く閉じられたままだった。けれども音がする。呼吸が、鼓動が……命の音が聞こえる。
「良かった……まだ、生きて……」
「貴様……」
直撃させたハズだ。ゼロ距離で。その証拠にやつの鎧には大きな亀裂が、脇腹を中心に胸元まで届いている。なのに。
「ッ……」
黒く光る棍棒を手に、俺達に影を落とす鎧兜に銃口を向ける。瞬間、視界を真横に過ぎった黒い影。
「あっ……?」
影にしか見えなかったやつの一振りにより、白銀が甲高い音を立てて俺の手を離れていく。背後でカン、カラカランと絶望の音が地面に転がった。
「残念だったな……だが、最期まで大切な者の為に戦うその雄姿、敵ながら天晴であったぞ」
容赦なく振り下ろされようとしている黒い線。俺はただ、まだ温かいキョウヤさんの身体を抱き締めることしか出来なかった。
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