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考えないようにしてたけど……俺って惚れっぽい……のか?
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無事に帰り着き、いつもの検査も滞りなく済んだ。
そうして訪れたシンプルな部屋。まだそんなに過ごしていないのに、帰ってきたなって気がする。この部屋で黒野先生とコーヒーを飲んでいると。
マグカップたっぷりのコーヒー風味な砂糖液を楽しんでいた先生が、耳にタコが出来ているとは思うが、と切り出す。
「……自分の身を優先しなさい。仲間を大切に思う気持ちは尊重するがね」
「はい……博士にも言われました」
意外……でもないか。赤木さんとの時だって、心配してくれてたし。今回も、ダメだよ……その気持ちは大切だけど、ダメだからね、と静かに諭されてしまった。優先順位を考えなさい、と。
博士の言葉は正しい。掴みどころのない人だけれど、ブレていない。世界を救うことを第一に行動している。それがあまりにも合理的だから冷たく感じてしまっていただけで。
「とはいえ、君のことだ。同じ状況に陥れば迷わず同じ行動を取るだろう」
「うっ」
気怠げな紫の瞳に的確に図星を指されてしまった。短く呻いた俺を見て、憂いを帯びた端正な顔が困ったように笑う。仕方がないな、とでも言いたげに。
「そこで、次の任務からは君専用の武器を試験的に導入することになった」
「え、じゃあ俺でも影を倒せるってことですか?」
「過信は禁物だがな。上手く扱えれば……二、三体は消せるだろう。外しても、確実に怯ませることは出来る」
懐から取り出され、テーブルに置かれたのは俺のジャケットカラーと同じ筒。ピンクみたいな紫みたいな。
大きな手に促され底面のスイッチを押せば、カシャカシャカシャンと金属音。瞬く間に俺の手には白銀の銃が握られていた。
重々しい光沢を放っているのに羽のように軽い。ボディから銃口に向かって走るラインが、ヒスイ達の武器みたいに淡くピンクな紫色に光っている。
「これが……俺の……」
「引き金を引けば輝石の輝きが放たれる。今の出力だと精々三発が限度だ。いざという時にだけ使いなさい。君を、仲間を守る為に」
「はいっ」
これで、もっと俺も役に立てる。悲しませなくて済むハズだ。
大きな問題が解決すれば、小さな問題が気になってくるものだ。
「どうした? 気がかりなことがあるなら話して欲しい……どんな些細なことでも構わないからな」
流石、心理カウンセラー。お悩みを抱えていることもお見通しらしい。
「その……引かないって約束してくれます?」
「私は最善を尽くしてくれている君に深い敬意を表せど、失望したりはしないよ」
「……ありがとうございます」
柔らかい笑みと包容力のある言葉に安堵する。騒がしくなってきた心音と一緒に震える声を叱咤して、俺はとある疑いを告白した。
「その、俺……多分ですけど、キス魔みたいで……あ、抱きつき魔でもありそうなんですけど……」
「……何故、そう思い至ったのか聞いても?」
「誰としても、嬉しいなって思っちゃうんです……訓練だって分かってるし、変身する為なのは……分かってるんですけど……だから、そういう行為自体が好きなのかなって」
先生は変わらず冷静だった。
いや、冷静過ぎた。なんせ、無意識に目を逸らしていたことを的確に指摘してきたんだから。
「……君が、彼ら全員に好意を抱いている可能性は?」
「うっ……」
そう、そうなのだ。単純に俺が惚れっぽいだけっていう可能性もあるのだ。
口では四股なんて、とか言っておいて。ちゃっかり、あっさり惚れてしまっている可能性が。
「ふむ……では、私ともしてみるか? 君さえ良ければだが」
「へ?」
「私として嫌だと思ったならば、君はキス魔ではない、ということになるだろう?」
淡々とされた提案。確かに、すればすぐに分かるだろう。でも。
「……嫌じゃ、なかったら?」
「君の思った通りか、それとも私のことも好いてくれているかのどちらかだろうな」
どっちに転んでも悲惨じゃないか?
……って何で俺、嫌な可能性の方、する前から自分で消してんだよ!?
「どうする?」
「あ……」
音もなかったから気づかなかった。
いつの間にか側で見下ろしていた長身が跪き、整った顔が近づいてくる。黒く長い髪がサラリと頬を擽った。
「……どうだ? 嫌だったか?」
「………すか」
「ん?」
「ど、どうしてくれるんですか!? 嫌じゃなかったんですけど!? むしろ嬉しかったんですけど!?」
なんてことをしてくれたんでしょう! こっちはイエスもノーも言ってなかったのに!! 勝手に奪ってくれちゃって! ドキドキさせてくれちゃって!
もう確定じゃないか! 俺がとんでもな癖か、先生にまで惚れてるちょろっちょろなのかが!!
「じゃあ、もう一回するか?」
「何でそうな……んっ」
抗議の言葉は上機嫌に微笑む唇に遮られた。
まただ、また心臓が高鳴り浮かれてしまう。心も頭もぽかぽかふわふわして、ずっとこのままがいいなって思ってしまう。相手はからかってるだけなのに。
「嫌だったか?」
「は……だから……嫌じゃないって……言ってるじゃないですか……」
「そうか」
「……何で嬉しそうなんですか?」
「君のことを好ましく思ってるから、かな?」
意味ありげに微笑みながら、大きな手が俺の頬を撫でた。
「へ? …………はぁっ!?」
「で、どうする?」
「どうするって……」
「今度は君が抱きつき魔かどうか、試してみなくていいのか?」
絶対、からかってる。だって楽しそうだ。分かってるのに。
「う……」
「ほら、おいで? レン」
「うぅー……」
勝てなかった。しなやかな腕を広げた甘く柔らかい誘いにあっさり俺は乗ってしまったのだ。
そうして訪れたシンプルな部屋。まだそんなに過ごしていないのに、帰ってきたなって気がする。この部屋で黒野先生とコーヒーを飲んでいると。
マグカップたっぷりのコーヒー風味な砂糖液を楽しんでいた先生が、耳にタコが出来ているとは思うが、と切り出す。
「……自分の身を優先しなさい。仲間を大切に思う気持ちは尊重するがね」
「はい……博士にも言われました」
意外……でもないか。赤木さんとの時だって、心配してくれてたし。今回も、ダメだよ……その気持ちは大切だけど、ダメだからね、と静かに諭されてしまった。優先順位を考えなさい、と。
博士の言葉は正しい。掴みどころのない人だけれど、ブレていない。世界を救うことを第一に行動している。それがあまりにも合理的だから冷たく感じてしまっていただけで。
「とはいえ、君のことだ。同じ状況に陥れば迷わず同じ行動を取るだろう」
「うっ」
気怠げな紫の瞳に的確に図星を指されてしまった。短く呻いた俺を見て、憂いを帯びた端正な顔が困ったように笑う。仕方がないな、とでも言いたげに。
「そこで、次の任務からは君専用の武器を試験的に導入することになった」
「え、じゃあ俺でも影を倒せるってことですか?」
「過信は禁物だがな。上手く扱えれば……二、三体は消せるだろう。外しても、確実に怯ませることは出来る」
懐から取り出され、テーブルに置かれたのは俺のジャケットカラーと同じ筒。ピンクみたいな紫みたいな。
大きな手に促され底面のスイッチを押せば、カシャカシャカシャンと金属音。瞬く間に俺の手には白銀の銃が握られていた。
重々しい光沢を放っているのに羽のように軽い。ボディから銃口に向かって走るラインが、ヒスイ達の武器みたいに淡くピンクな紫色に光っている。
「これが……俺の……」
「引き金を引けば輝石の輝きが放たれる。今の出力だと精々三発が限度だ。いざという時にだけ使いなさい。君を、仲間を守る為に」
「はいっ」
これで、もっと俺も役に立てる。悲しませなくて済むハズだ。
大きな問題が解決すれば、小さな問題が気になってくるものだ。
「どうした? 気がかりなことがあるなら話して欲しい……どんな些細なことでも構わないからな」
流石、心理カウンセラー。お悩みを抱えていることもお見通しらしい。
「その……引かないって約束してくれます?」
「私は最善を尽くしてくれている君に深い敬意を表せど、失望したりはしないよ」
「……ありがとうございます」
柔らかい笑みと包容力のある言葉に安堵する。騒がしくなってきた心音と一緒に震える声を叱咤して、俺はとある疑いを告白した。
「その、俺……多分ですけど、キス魔みたいで……あ、抱きつき魔でもありそうなんですけど……」
「……何故、そう思い至ったのか聞いても?」
「誰としても、嬉しいなって思っちゃうんです……訓練だって分かってるし、変身する為なのは……分かってるんですけど……だから、そういう行為自体が好きなのかなって」
先生は変わらず冷静だった。
いや、冷静過ぎた。なんせ、無意識に目を逸らしていたことを的確に指摘してきたんだから。
「……君が、彼ら全員に好意を抱いている可能性は?」
「うっ……」
そう、そうなのだ。単純に俺が惚れっぽいだけっていう可能性もあるのだ。
口では四股なんて、とか言っておいて。ちゃっかり、あっさり惚れてしまっている可能性が。
「ふむ……では、私ともしてみるか? 君さえ良ければだが」
「へ?」
「私として嫌だと思ったならば、君はキス魔ではない、ということになるだろう?」
淡々とされた提案。確かに、すればすぐに分かるだろう。でも。
「……嫌じゃ、なかったら?」
「君の思った通りか、それとも私のことも好いてくれているかのどちらかだろうな」
どっちに転んでも悲惨じゃないか?
……って何で俺、嫌な可能性の方、する前から自分で消してんだよ!?
「どうする?」
「あ……」
音もなかったから気づかなかった。
いつの間にか側で見下ろしていた長身が跪き、整った顔が近づいてくる。黒く長い髪がサラリと頬を擽った。
「……どうだ? 嫌だったか?」
「………すか」
「ん?」
「ど、どうしてくれるんですか!? 嫌じゃなかったんですけど!? むしろ嬉しかったんですけど!?」
なんてことをしてくれたんでしょう! こっちはイエスもノーも言ってなかったのに!! 勝手に奪ってくれちゃって! ドキドキさせてくれちゃって!
もう確定じゃないか! 俺がとんでもな癖か、先生にまで惚れてるちょろっちょろなのかが!!
「じゃあ、もう一回するか?」
「何でそうな……んっ」
抗議の言葉は上機嫌に微笑む唇に遮られた。
まただ、また心臓が高鳴り浮かれてしまう。心も頭もぽかぽかふわふわして、ずっとこのままがいいなって思ってしまう。相手はからかってるだけなのに。
「嫌だったか?」
「は……だから……嫌じゃないって……言ってるじゃないですか……」
「そうか」
「……何で嬉しそうなんですか?」
「君のことを好ましく思ってるから、かな?」
意味ありげに微笑みながら、大きな手が俺の頬を撫でた。
「へ? …………はぁっ!?」
「で、どうする?」
「どうするって……」
「今度は君が抱きつき魔かどうか、試してみなくていいのか?」
絶対、からかってる。だって楽しそうだ。分かってるのに。
「う……」
「ほら、おいで? レン」
「うぅー……」
勝てなかった。しなやかな腕を広げた甘く柔らかい誘いにあっさり俺は乗ってしまったのだ。
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