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今度こそ、両手に花だ!

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「いや、そうじゃなくて……鍵、かけてないから」

 真っ赤な瞳がぱちくり瞬く。誤解? が解けたんだろう。申し訳なさそうに男らしい眉をひそめ、頭を下げてきた。

「すまねぇシュン! また、俺やっちまった……」

 手首を握っていた手が離され、握り直される。今度は俺の手を包み込むように、優しく。

 大きな手は少し震えていた。握り返すと幅広の肩と一緒にびくりと跳ねる。

 おずおずと見つめてくる眼差しに、俺なりの精一杯で微笑みかける。

「いいよ、全然気にしてないから」

「……先輩と一緒だったってことは、上手くいったんだよな?」

「うん、ちゃんと話せたよ。先輩に、俺のこと。ダンが応援してくれたからだよ、ありがとう」

 やっと笑顔が戻った。強張っていた頬がふにゃりと緩んで、目尻がとろんと下がっていく。

「へへっ……本当にシュンは俺がいないとダメだよな。まぁ、ずっと側にいてやるから、大船に乗ったつもりでいろよ!」

 分厚い胸板を張り、ニカッと開いた口から覗く白い歯。得意げに笑うダンに釣られて俺も笑っていた。

 手を繋いだまま、クスクス見つめ合っていると、後ろでチリンと鈴の鳴る音がする。

「鍵、これで合ってるかい?」

 振り向いた先にはサルファー先輩が、俺の部屋の鍵を差し出し立っていた。

「はい! ありがとうございます、先輩」

「はいこれ、鍵はかけといたから」

 柔らかく微笑む先輩が、俺の手を取り鍵を乗せてくれる。鍵に付けていた銀の鈴のキーホルダーが、再びチリンと音を立てた。

「すみません、助かりました」

「……気にしないでくれ。元はと言えば、ダンのことを煽った俺が悪いから」

 俺を見つめていた黄色の瞳がチラリとダンの方を見る。

 やっぱり、先輩のことが苦手なんだろうか? 握っている手に力を込め、身を固くしながら、目を三角にしている。

「俺も、君達に同行してもいいだろうか?」

 苦いものを噛んだみたいに、ますますダンの表情が渋くなる。俺としては、三人で登校したいんだけどな……

 ふと、不満気に細められていた赤とかち合う。何か言いたそうに開いたり閉じたりしていた口から、重く長い溜め息が漏れる。

「……勝手にしろよ」

「え、いいのか?」

 吐き出すような肯定に、思わず尋ねていた。不意に伸びてきた大きな手が、俺の頭を撫で回す。

「……シュンは、一緒が良いんだろ? だったら俺もそれで良い」

「ありがとう、ダン!」

「感謝するよ」

「俺の、相棒の、シュンの為だ!」

 先輩の為じゃねぇっ!! と俺の手を取り繋いだダンが吠える。意にも介していないのか、笑みを崩さずに先輩が空いている方の手に指を絡めてきた。

 これこそ、まさに両手に花だ! 会話に花は咲かなかったけれど。どちらかと話していると、片方が割り込んで、言い合いになって……の繰り返しだったけれど。とにかく、二人と手を繋いで歩けたんだから万々歳だ。

 校門に着くとグレイ先生から、今日は仲良しさんだね、良かったね、と微笑まれ、頭を撫でてもらえた。
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