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いやいや、何で二人共そんなに謝るんだ?

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 さっきから二人が何かを言い合う度に、体が左右にがっくんがっくん引っ張られてるせいだ。ただでさえ、尽きない疑問でぐるぐるしている頭が、ますますくらくらしてきた。

 ……ちょっと、マズいかもしれない。

 何だか視界の方までぐわんぐわん回り始めていた時だ、

「君達、少し落ち着きなさい。シュン君が困っているだろう?」

 ダンディーな低音が助け舟を出してくれたのは。

 どうやら気付かない内に俺達は、校門の前まで来ていたらしい。グレイ先生が咎めるような視線を先輩達に投げつけている。

「少し、顔色が悪いようだけど……大丈夫かい?」

 海よりも深い青をした先生の瞳が、心配そうに細められる。大きな身体を少し屈め、労るように俺の頬をゆるりと撫でてくれた。

「あ、ありがとうございます……ちょっとだけ……くらくらしてる、だけなんで……」

 途端に、ダンも先輩も弾かれたように俺の方を見た。大丈夫かな? 二人共、顔色が真っ青だ。

「シュン……俺としたことが感情的になってしまって……いや、これは言い訳だな。俺のせいで君に不快な思いをさせてしまった……本当にすまない……」

「ごめんな、シュン……俺、ついムキになっちまって。先輩に、相棒のこと取られちまった様な気がしてさ……俺が悪かった! 頼む、許してくれ! 俺のこと……嫌いに、ならないでくれ……」

 片や眉間にシワを刻み、苦しげに声を震わせ。片や男らしい眉を下げ、悲痛なくらいに声を滲ませる。

 ……怒涛の謝罪の言葉に、今度は違う意味で頭がくらくらしてきたんだが。

 おまけに二人共、勢いよく頭を下げて、そのままだ。深いお詫びの姿勢のままで停止してしまっている。

 いやいや、確かに二人の剣呑な雰囲気に気圧されてはいた。いたけど、別にちょっと怖かっただけだし、大袈裟過ぎないか?

 というか、傍からみたら……二人が俺にめちゃくちゃ酷いことしたみたいに見えるんだが?

 ヒソヒソと囁く声にくるりと見回す……周囲の生徒達からの視線が痛い。

「せ、先輩、そんな謝らないで下さい! 俺、全然平気ですし! 気にしてないんで! ダンも頭を上げてくれよ! これくらいで、俺がダンのこと嫌いになる訳がないだろ? 大丈夫だから、な?」

 本当に、頼むから……これ以上頭を下げるのを止めてくれ!! 

 俺のせいで推し達が悲しむとか……自分で自分を殴りたくなる。推しには笑顔でいて欲しいんだよ……頼むよ……

「もう、二人共顔を上げなさい。ほら……また、シュン君を困らせてしまうよ?」

 俺達の様子を見かねたんだろう。先生が諭すように二人に向かって話しかける。ようやく、二人が頭を上げてくれた。

 ……今日の先生は、俺にとって救世主だな。幅広の背中から、後光が差して見える。

「ありがとうシュン……やっぱり、君は優しいな」

「ありがとな、シュン! もうこんな風にならないように俺、強くなるからな!」

 明るい笑顔が戻った二人に、自然と息が漏れていた。

「無事、解決したみたいだね。もうすぐ予鈴が鳴るから急ぐといい」

 いつの間にか、周囲には誰もいない。俺達と先生だけだ。先生にお礼を言ってから、俺達は足早に校舎を目指した。
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