109 / 122
戻ってこれたんだ……二人で
しおりを挟む
目を覚ますと見慣れた天井が広がっていた。
……戻って、これたのか?
身体の節々が重く、痛い。ぼんやりと瞬きを繰り返していた視界にひょこりと水色の髪が揺れた。
「……セレストさん」
「お疲れ様、万事上手くいったようだね」
ニコニコ笑いながら俺の胸元を指し示す。釣られて見ると、俺の胸に顔を埋めるようにしてライが抱き付いていた。
戻ってこれたんだ……二人で……
「ライ、大丈夫か?」
細い身体を抱きながら上体を起こす。小さな頭をそっと撫でると丸い瞳がゆっくり開いた。良かった……気がついたみたいだ。
「う……シュン、ここは?」
「ここは俺の」
「シュンちゃんお帰り! キミがライくん?」
遮ってきた弾んだ声。ソレイユ先輩だ。駆け寄り、膝をついた長い腕がライごと俺を抱き締めてくる。
「やったな! さすが俺のシュンだ!」
「お帰り、シュン。おいダン、勝手にシュンを君のものにするな」
「お帰りなさい、二人ともよく頑張ったね」
俺達の周りに皆が一斉に集まってくる。
ダンとサルファー先輩が言い合いをして、ソレイユ先輩が二人を止めて、グレイ先生とセレストさんが目を細めて見守っている。
穏やかで、温かいざわめきに包まれて俺とライは顔を見合わせ、笑った。
◇
甲高い電子音が俺の鼓膜を揺さぶってくる。けたたましくて煩わしい枕元のそれを、手探りで探し出し音の発信源を断つ。
よし……これで、ゆっくり眠れる……
ほっと一息つき、またベッドに潜ろうとすると誰かに掛け布団を剥がされた。
「シュン、起きないと遅刻しちゃうよ?」
「うー……後5分、5分だけだからぁ」
「可愛くごねても駄目だよ! ダン達に頼まれてるんだから! ほらっ」
頬を膨らませたライに両手をぐいぐい引っ張られ、無理矢理身体をベッドから引き離される。こんなに細いのに……意外と力、有るんだな……
「朝ごはんの準備出来てるから、早く顔を洗っておいで?」
まだぼやぼやする視界の中で、小柄な背中が台所へと向かっていくのが見えた。
気怠い身体を渋々動かし洗面所へ、冷水で顔を洗うと徐々に思考がクリアになっていく。
「戻ってきたんだな……俺」
あの後、俺とライは病院で検査を受けたが幸い何も異常は見られなかった。
ただ、俺は二日間寝たきりだったこともあって……念の為にもう一日様子を見て休むことになったんだ。
そのせいで、誰が俺の面倒を見るかでまたダンと先輩が言い争いになったんだけど。
どういう訳か、普段は止めてくれるソレイユ先輩やグレイ先生までもが参戦してしまったんだ。
誰も譲らず、混沌としたが……結局行くあての無かったライが泊まるということで皆納得してくれた。
俺達が休んでいる間にグレイ先生とセレストさんが、俺の復学申請と一緒にライを転入生という形で学園に通えるよう手続きを済ませてくれたらしい。
生活費はライが用意してたものを二人で分け、ライは寮の空き部屋の準備が済み次第、そこに住むことになっている。
今度こそ、万事解決……だよな。
歯を磨いてから戻ると香ばしいパンの匂いが俺の鼻を擽った。二つのグラスに牛乳を注いでくれながら、ライが微笑みかけてくる。
「目玉焼き、半熟で良かったんだよね?」
「うん、ありがとうライ。いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
焼いたパンの上に目玉焼きをのせて一緒に頬張る。
「ん、美味しい」
「良かった。僕も、いただきます」
小さな口でパンをかじるライをぼんやり見つめていると、不思議そうな茶色の瞳と目が合った。
「どうしたの? まだ眠い?」
「いや、ライがいるなって」
「ふふふ、そうだね。ちゃんとここにいるよ?」
「うん、本当に良かった」
噛み締めるように呟く俺に、ライは花が咲くような笑顔を浮かべた。
……戻って、これたのか?
身体の節々が重く、痛い。ぼんやりと瞬きを繰り返していた視界にひょこりと水色の髪が揺れた。
「……セレストさん」
「お疲れ様、万事上手くいったようだね」
ニコニコ笑いながら俺の胸元を指し示す。釣られて見ると、俺の胸に顔を埋めるようにしてライが抱き付いていた。
戻ってこれたんだ……二人で……
「ライ、大丈夫か?」
細い身体を抱きながら上体を起こす。小さな頭をそっと撫でると丸い瞳がゆっくり開いた。良かった……気がついたみたいだ。
「う……シュン、ここは?」
「ここは俺の」
「シュンちゃんお帰り! キミがライくん?」
遮ってきた弾んだ声。ソレイユ先輩だ。駆け寄り、膝をついた長い腕がライごと俺を抱き締めてくる。
「やったな! さすが俺のシュンだ!」
「お帰り、シュン。おいダン、勝手にシュンを君のものにするな」
「お帰りなさい、二人ともよく頑張ったね」
俺達の周りに皆が一斉に集まってくる。
ダンとサルファー先輩が言い合いをして、ソレイユ先輩が二人を止めて、グレイ先生とセレストさんが目を細めて見守っている。
穏やかで、温かいざわめきに包まれて俺とライは顔を見合わせ、笑った。
◇
甲高い電子音が俺の鼓膜を揺さぶってくる。けたたましくて煩わしい枕元のそれを、手探りで探し出し音の発信源を断つ。
よし……これで、ゆっくり眠れる……
ほっと一息つき、またベッドに潜ろうとすると誰かに掛け布団を剥がされた。
「シュン、起きないと遅刻しちゃうよ?」
「うー……後5分、5分だけだからぁ」
「可愛くごねても駄目だよ! ダン達に頼まれてるんだから! ほらっ」
頬を膨らませたライに両手をぐいぐい引っ張られ、無理矢理身体をベッドから引き離される。こんなに細いのに……意外と力、有るんだな……
「朝ごはんの準備出来てるから、早く顔を洗っておいで?」
まだぼやぼやする視界の中で、小柄な背中が台所へと向かっていくのが見えた。
気怠い身体を渋々動かし洗面所へ、冷水で顔を洗うと徐々に思考がクリアになっていく。
「戻ってきたんだな……俺」
あの後、俺とライは病院で検査を受けたが幸い何も異常は見られなかった。
ただ、俺は二日間寝たきりだったこともあって……念の為にもう一日様子を見て休むことになったんだ。
そのせいで、誰が俺の面倒を見るかでまたダンと先輩が言い争いになったんだけど。
どういう訳か、普段は止めてくれるソレイユ先輩やグレイ先生までもが参戦してしまったんだ。
誰も譲らず、混沌としたが……結局行くあての無かったライが泊まるということで皆納得してくれた。
俺達が休んでいる間にグレイ先生とセレストさんが、俺の復学申請と一緒にライを転入生という形で学園に通えるよう手続きを済ませてくれたらしい。
生活費はライが用意してたものを二人で分け、ライは寮の空き部屋の準備が済み次第、そこに住むことになっている。
今度こそ、万事解決……だよな。
歯を磨いてから戻ると香ばしいパンの匂いが俺の鼻を擽った。二つのグラスに牛乳を注いでくれながら、ライが微笑みかけてくる。
「目玉焼き、半熟で良かったんだよね?」
「うん、ありがとうライ。いただきます」
「どうぞ召し上がれ」
焼いたパンの上に目玉焼きをのせて一緒に頬張る。
「ん、美味しい」
「良かった。僕も、いただきます」
小さな口でパンをかじるライをぼんやり見つめていると、不思議そうな茶色の瞳と目が合った。
「どうしたの? まだ眠い?」
「いや、ライがいるなって」
「ふふふ、そうだね。ちゃんとここにいるよ?」
「うん、本当に良かった」
噛み締めるように呟く俺に、ライは花が咲くような笑顔を浮かべた。
27
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説

俺の妹は転生者〜勇者になりたくない俺が世界最強勇者になっていた。逆ハーレム(男×男)も出来ていた〜
七彩 陽
BL
主人公オリヴァーの妹ノエルは五歳の時に前世の記憶を思い出す。
この世界はノエルの知り得る世界ではなかったが、ピンク髪で光魔法が使えるオリヴァーのことを、きっとこの世界の『主人公』だ。『勇者』になるべきだと主張した。
そして一番の問題はノエルがBL好きだということ。ノエルはオリヴァーと幼馴染(男)の関係を恋愛関係だと勘違い。勘違いは勘違いを生みノエルの頭の中はどんどんバラの世界に……。ノエルの餌食になった幼馴染や訳あり王子達をも巻き込みながらいざ、冒険の旅へと出発!
ノエルの絵は周囲に誤解を生むし、転生者ならではの知識……はあまり活かされないが、何故かノエルの言うことは全て現実に……。
友情から始まった恋。終始BLの危機が待ち受けているオリヴァー。はたしてその貞操は守られるのか!?
オリヴァーの冒険、そして逆ハーレムの行く末はいかに……異世界転生に巻き込まれた、コメディ&BL満載成り上がりファンタジーどうぞ宜しくお願いします。
※初めの方は冒険メインなところが多いですが、第5章辺りからBL一気にきます。最後はBLてんこ盛りです※

小悪魔系世界征服計画 ~ちょっと美少年に生まれただけだと思っていたら、異世界の救世主でした~
朱童章絵
BL
「僕はリスでもウサギでもないし、ましてやプリンセスなんかじゃ絶対にない!」
普通よりちょっと可愛くて、人に好かれやすいという以外、まったく普通の男子高校生・瑠佳(ルカ)には、秘密がある。小さな頃からずっと、別な世界で日々を送り、成長していく夢を見続けているのだ。
史上最強の呼び声も高い、大魔法使いである祖母・ベリンダ。
その弟子であり、物腰柔らか、ルカのトラウマを刺激しまくる、超絶美形・ユージーン。
外見も内面も、強くて男らしくて頼りになる、寡黙で優しい、薬屋の跡取り・ジェイク。
いつも笑顔で温厚だけど、ルカ以外にまったく価値を見出さない、ヤンデレ系神父・ネイト。
領主の息子なのに気さくで誠実、親友のイケメン貴公子・フィンレー。
彼らの過剰なスキンシップに狼狽えながらも、ルカは日々を楽しく過ごしていたが、ある時を境に、現実世界での急激な体力の衰えを感じ始める。夢から覚めるたびに強まる倦怠感に加えて、祖母や仲間達の言動にも不可解な点が。更には魔王の復活も重なって、瑠佳は次第に世界全体に疑問を感じるようになっていく。
やがて現実の自分の不調の原因が夢にあるのではないかと考えた瑠佳は、「夢の世界」そのものを否定するようになるが――。
無自覚小悪魔ちゃん、総受系愛され主人公による、保護者同伴RPG(?)。
(この作品は、小説家になろう、カクヨムにも掲載しています)

これはハッピーエンドだ!~モブ妖精、勇者に恋をする~
ツジウチミサト
BL
現実世界からRPGゲームの世界のモブ妖精として転生したエスは、魔王を倒して凱旋した勇者ハルトを寂しそうに見つめていた。彼には、相思相愛の姫と結婚し、仲間を初めとした人々に祝福されるというハッピーエンドが約束されている。そんな彼の幸せを、好きだからこそ見届けられない。ハルトとの思い出を胸に、エスはさよならも告げずに飛び立っていく。
――そんな切ない妖精に教えるよ。これこそが、本当のハッピーエンドだ!
※ノリと勢いで書いた30分くらいでさくっと読めるハッピーエンドです。全3話。他サイトにも掲載しています。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい
おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。
生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。
地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。
転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。
※含まれる要素
異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛
※小説家になろうに重複投稿しています

【完結】討伐される魔王に転生したので世界平和を目指したら、勇者に溺愛されました
じゅん
BL
人間領に進撃許可を出そうとしていた美しき魔王は、突如、前世の記憶を思い出す。
「ここ、RPGゲームの世界じゃん! しかもぼく、勇者に倒されて死んじゃうんですけど!」
ぼくは前世では病弱で、18歳で死んでしまった。今度こそ長生きしたい!
勇者に討たれないためには「人と魔族が争わない平和な世の中にすればいい」と、魔王になったぼくは考えて、勇者に協力してもらうことにした。本来は天敵だけど、勇者は魔族だからって差別しない人格者だ。
勇者に誠意を試されるものの、信頼を得ることに成功!
世界平和を進めていくうちに、だんだん勇者との距離が近くなり――。
※注:
R15の回には、小見出しに☆、
R18の回には、小見出しに★をつけています。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる