【完結】気が付いたらマッチョなblゲーの主人公になっていた件

白井のわ

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チャンスは一度きり

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「合図はどうするんだい? 上手くいっても術を解くタイミングが分からないと」

 グレイ先生が不安そうに瞳を細めた瞳で俺を見つめ、セレストさんに尋ねる。

 そうだ。仮に俺がライを見つけ出せたとして、術を解いてもらえなければ一緒に脱出することが出来ないのだから。

 俺達の疑問は折り込み済みだったらしい。セレストさんは得意気に微笑んだままだ。

「そこでこいつの出番だ」

 懐から取り出されたのは、二つの小さな水色の石。その内の一つを俺に差し出してくる。

 俺の手のひらの上にちょこんと収まり、神秘的な輝きを湛えている。これも、何か術が施されていたりするんだろうか。先生からもらったブレスレットみたいに。

「シュン君、光を灯す魔術は使えるかね?」

「はい! 以前にダンといっぱい練習しましたから大丈夫です!」

「この石は対になっていてね、片方に光を灯すともう一方も光るようになっている。今でも簡易な連絡方法として用いられているものだ」

 セレストさんが念じて石に光を灯した瞬間、俺の手の中の石も共鳴するように淡く光り始めた。

「彼を見付けたらこれで合図を送るんだ。それから一番大切なことなんだが……」

「……何ですか?」

 いつにもまして真剣なセレストさんの様子に、俺も皆も固唾を飲んで彼の言葉を待つ。

「何があっても絶対に彼を離すな。しがみついてでもいい、離せば君だけ帰ることになる。恐らくチャンスは一度きりだ……なんせ次元に穴を開けようというんだからね。君の魔力のほとんどは枯渇するだろう」

「そんなに魔力を使ってシュンの身体に影響は無いのか?」

「過剰だったものが無くなるだけだ。彼にもともと有った分は残るから何も心配はいらない」

 浮かない顔で俺を見つめるサルファー先輩にセレストさんが安心させるように断言した。

「シュン君もそれで構わないね?」

「はい! ライを助けられるならいくらでも使って下さい! お願いします!」

「よし、君達は少し離れていたまえ。穴は一瞬しか開かないが、万が一巻き込まれては元も子もないからね」

 セレストさんは俺の手を引いて部屋の真ん中に移動する。ダン達は壁際によって事の成り行きを見守った。

「セレスト、君は大丈夫なのかい?」

「私の身体は術ですでにこの空間に固定してある。私の足元を見たまえ」

 いつの間にか床から伸びていた何本もの水色の鎖。それらが命綱の様にセレストさんの両足と腰に絡み付いている。

 水色の瞳が真っ直ぐに俺を見た。

「シュン君、準備はいいかな?」

「……はい!」

「シュン! バシッと決めてこい!」

「いってらっしゃい、シュン君」

「きっと君なら出来るさ、行ってこいシュン」

「シュンちゃん、頑張ってね!」

 俺に向かってダンが拳を突き出し、グレイ先生がそっと手を振る。

 サルファー先輩が柔らかく微笑んで、ソレイユ先輩が声を張り上げた。

「……皆、行ってきます!」

 頼もしく心強い応援を背に受け俺はセレストさんに向き直る。

「では、始めようか。君の幸運を祈っている。必ず二人で帰ってきなさい」

 セレストさんが俺の両手を握りながら何やらブツブツと唱え始めた。

 風もないのにざわりとした感覚が肌を撫でていく。不意に金属同士が打ち合ったような高い音。釣られて見上げた俺の頭上には、十円玉位の小さな穴が開いていた。

 突如俺の身体が霧散していくように水色の光の粒子に変わっていく。そのまま穴へと吸い込まれていく。

 怖くはなかった。皆が居てくれるから。少し驚きつつも、すぐに安心させるような笑顔で俺を見守ってくれていたから。

 だから皆の顔が見えなくなるまで、笑っていれたんだ。
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