上 下
96 / 122

絶望を打ち破る声

しおりを挟む
 とん、とん、とんと弾むような足音に続けて勢いよく扉が空いた。

「お疲れーサルフ。交替の時間だよー」

 眩しい笑顔を振りまきながら、ソルがわざとらしいくらいに明るい声で部屋に入ってくる。

 けれどもその優しげな目元は真っ赤に腫れていた。頬にも薄っすらとだが、涙の跡が残っている。またずっと声を殺して泣いていたのだろう。

「……ありがとうソル。だが、もう少しだけここにいてもいいだろうか」

「へ? ……そりゃあオレは全然構わないけどさ。無理しちゃダメだよ?」

 心配そうに細められたオレンジの瞳が、俺の顔色を窺うようにじっと見つめている。

 こんな時にでも俺を気遣ってくれるソルは本当に強い男だと思う。何も出来ない俺と違って。

「……あんまりいじいじしてても状況は変わらないんだからさ、無理でも笑おう? オレ達が楽しそうにしてたらさ、シュンちゃんも気になって起きるかもよ?」

 相変わらず見透かされているようだ。的確に俺の心情を汲み取ってくる。

 ほらほら笑って? スマイル、スマイル、とソルが俺の頬を両手で包み込む。されるがままにしていると、細い指が無理矢理俺の口角をぐいっと引き上げてくる。

 傍から見たら明らかに歪な笑顔を浮かべているんだろう。想像すると何だか可笑しくなってきた。思わず目元を緩めた俺に、ソルは満足そうに口元を綻ばせる。

「……失礼するよ。おや、何だか楽しそうなことをしているね」

 グレイ先生がビニール袋を片手に部屋を訪れる。

 差し入れ、冷蔵庫に入れておくね、と台所へ向かっていくその背中は、何だか少し小さくなったように感じた。

「いつもありがとうございます、先生。その……何か進展はありましたか?」

 俺の質問に、今まで無反応だったダンの肩が僅かに動く。

 俺達は固唾を飲んで先生の返答を待つ。

 先生は顔を曇らせると俺達から目線だけを逸らして口を開いた。

「……すまない。私の方は何も」

 分かってはいた。

 だが、この時だけはいつも期待してしまう。

 たとえ何度絶望しようとも……何か少しでも、この状況が変わるんじゃないかと。

 部屋に重たい沈黙が訪れて息が苦しくなる。

 ……誰か、誰でもいい……俺の全てを渡すから、だからどうか、シュンを助けてくれ……

「……全く、実に辛気臭いな。どうなってるんだこの部屋は!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

闘乱世界ユルヴィクス -最弱と最強神のまったり世直し旅!?-

mao
BL
 力と才能が絶対的な存在である世界ユルヴィクスに生まれながら、何の力も持たずに生まれた無能者リーヴェ。  無能であるが故に散々な人生を送ってきたリーヴェだったが、ある日、将来を誓い合った婚約者ティラに事故を装い殺されかけてしまう。崖下に落ちたところを不思議な男に拾われたが、その男は「神」を名乗るちょっとヤバそうな男で……?  天才、秀才、凡人、そして無能。  強者が弱者を力でねじ伏せ支配するユルヴィクス。周りをチート化させつつ、世界の在り方を変えるための世直し旅が、今始まる……!?  ※一応はバディモノですがBL寄りなので苦手な方はご注意ください。果たして愛は芽生えるのか。   のんびりまったり更新です。カクヨム、なろうでも連載してます。

学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき
BL
 族の総長と副総長の恋の話。  アルビノの主人公――聖月はかつて黒いキャップを被って目元を隠しつつ、夜の街を駆け喧嘩に明け暮れ、いつしか"皇帝"と呼ばれるように。しかし、ある日突然、姿を晦ました。  その後、街では聖月は死んだという噂が蔓延していた。しかし、彼の族――Nukesは実際に遺体を見ていないと、その捜索を止めていなかった。 「どうしようかなぁ。……そぉだ。俺を見つけて御覧。そしたら捕まってあげる。これはゲームだよ。俺と君たちとの、ね」  学園と夜の街を巻き込んだ、追いかけっこが始まった。  族、学園、などと言っていますが全く知識がないため完全に想像です。何でも許せる方のみご覧下さい。  何とか完結までこぎつけました……!番外編を投稿完了しました。楽しんでいただけたら幸いです。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

異世界召喚チート騎士は竜姫に一生の愛を誓う

はやしかわともえ
BL
11月BL大賞用小説です。 主人公がチート。 閲覧、栞、お気に入りありがとうございます。 励みになります。 ※完結次第一挙公開。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

処理中です...