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真夜中の来訪者
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先生と別れて自室に戻り、適当に夕食を済ませてのんびりしてると端末からポインと少し間抜けな通知音がした。
「ん……ダンからか……『今部屋にいるか?』ってどうしたんだろう」
俺が返信をしようと端末の画面に触れた時、丁度玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう? 不思議に思いながら恐る恐るドアを開けた先で、赤い髪の青年が幅広の肩を落とし俯いたまま佇んでいた。
「ダン!? こんな時間にどうし」
俺が言い終わるより先に筋肉質な太い腕が伸びてきて俺の身体を掻き抱く。そのまま無言でぎゅうぎゅうと抱き締められてしまった。
「ダン? ちょっ、苦しいんだけど……」
ホントにどうしたんだ? 元気がない……みたいだけど……
分厚い胸板を軽く叩くことで訴える。分かってくれたんだろう。ふっと腕の力が緩んだ。
自然と安堵の息が漏れていた。ダンの顔を見上げようとした時だ、太い指から顎を掴まれたのは。
「ダン? んんっ」
吐息を奪うように口づけられた。突然のことに逃げ腰になっていた身体は、瞬く間に強い力によって制圧された。
「んぅっ……はっ、ふ……ぁ、だ……んむぅ」
大きな手で後頭部を押さえつけられ、背を抱かれ身を捩ることも出来ない。
何度も唇を食まれて徐々に頭が霞んでいく。
「ふ……んっ、はふ、ん……」
全身の力が抜けて膝からかくんとずり落ちそうになる。流石にマズいと分かったのか慌てた様子で口を離し、俺を抱き支えてくれた。
「おまっ……俺を……はっ、は……ころすき、か……」
息も絶え絶えに抗議すると今にも泣きそうな赤い瞳と目が合った。
もう一言くらい言ってやろうかと思ったけれど、消え失せた。そんなことよりも圧倒的に不安の方が上回った。
「……本当にどうしたんだ? とりあえず中に入ろう? な?」
黙ったままの手を引いて促すと静かに頷いて俺の後を付いてきてくれた。ちょっとだけホッとした。
「……何か飲み物取ってくるから」
台所へ向かおうとしま俺の腕をダンが素早く掴んでくる。見つめる赤は透明な水の膜が張られていた。今にも溢れてしまいそうだ。
「行くな、何処にも行かないでくれ……」
弱々しく懇願する声。いつも明るく元気な彼とは真逆の姿に痛いほど胸が締め付けられる。
……こんなダンを置いていける訳がない。側に座り直しそっと手を取り握り締める。震えていた。
「大丈夫……俺は此処にいる。何処にも行かないから」
手を頬を頭を撫でたり。出来るだけ優しく大丈夫だよ、と声を掛けたり。しばらくの間そうしていると震えが止まり、涙が引いた。
少し冷静さを取り戻したんだろうか。ダンがぽつりぽつりと重い口を開き始める。
「急に、怖くなったんだ……俺の目の前からシュンがいなくなっちゃうんじゃないかって」
握っているダンの手が、また僅かに震えだす。
「……山頂でグレイ先生から他の先生に連絡が入って、シュンが何か危ない目にあってるって……そしたら凄い雄叫びが聞こえて」
喉から絞り出すような悲痛な声、苦しそうに歪んだ表情……滲んでいく眼差しに、俺の視界までボヤけていく。
「そんな事があったばかりだってのに……何度俺が呼んでも、揺すっても、全然目を覚まさなかった」
手の甲に不意に感じた熱さ。涙だった。赤い瞳から溢れた雫が頬を伝ってポタ、ポタと繋いだ俺達の手に降り注いでいる。
「嫌だ、嫌なんだ……シュンに何かあったら、俺……どうしたら」
「ん……ダンからか……『今部屋にいるか?』ってどうしたんだろう」
俺が返信をしようと端末の画面に触れた時、丁度玄関から来客を知らせるチャイムが鳴った。
こんな時間に誰だろう? 不思議に思いながら恐る恐るドアを開けた先で、赤い髪の青年が幅広の肩を落とし俯いたまま佇んでいた。
「ダン!? こんな時間にどうし」
俺が言い終わるより先に筋肉質な太い腕が伸びてきて俺の身体を掻き抱く。そのまま無言でぎゅうぎゅうと抱き締められてしまった。
「ダン? ちょっ、苦しいんだけど……」
ホントにどうしたんだ? 元気がない……みたいだけど……
分厚い胸板を軽く叩くことで訴える。分かってくれたんだろう。ふっと腕の力が緩んだ。
自然と安堵の息が漏れていた。ダンの顔を見上げようとした時だ、太い指から顎を掴まれたのは。
「ダン? んんっ」
吐息を奪うように口づけられた。突然のことに逃げ腰になっていた身体は、瞬く間に強い力によって制圧された。
「んぅっ……はっ、ふ……ぁ、だ……んむぅ」
大きな手で後頭部を押さえつけられ、背を抱かれ身を捩ることも出来ない。
何度も唇を食まれて徐々に頭が霞んでいく。
「ふ……んっ、はふ、ん……」
全身の力が抜けて膝からかくんとずり落ちそうになる。流石にマズいと分かったのか慌てた様子で口を離し、俺を抱き支えてくれた。
「おまっ……俺を……はっ、は……ころすき、か……」
息も絶え絶えに抗議すると今にも泣きそうな赤い瞳と目が合った。
もう一言くらい言ってやろうかと思ったけれど、消え失せた。そんなことよりも圧倒的に不安の方が上回った。
「……本当にどうしたんだ? とりあえず中に入ろう? な?」
黙ったままの手を引いて促すと静かに頷いて俺の後を付いてきてくれた。ちょっとだけホッとした。
「……何か飲み物取ってくるから」
台所へ向かおうとしま俺の腕をダンが素早く掴んでくる。見つめる赤は透明な水の膜が張られていた。今にも溢れてしまいそうだ。
「行くな、何処にも行かないでくれ……」
弱々しく懇願する声。いつも明るく元気な彼とは真逆の姿に痛いほど胸が締め付けられる。
……こんなダンを置いていける訳がない。側に座り直しそっと手を取り握り締める。震えていた。
「大丈夫……俺は此処にいる。何処にも行かないから」
手を頬を頭を撫でたり。出来るだけ優しく大丈夫だよ、と声を掛けたり。しばらくの間そうしていると震えが止まり、涙が引いた。
少し冷静さを取り戻したんだろうか。ダンがぽつりぽつりと重い口を開き始める。
「急に、怖くなったんだ……俺の目の前からシュンがいなくなっちゃうんじゃないかって」
握っているダンの手が、また僅かに震えだす。
「……山頂でグレイ先生から他の先生に連絡が入って、シュンが何か危ない目にあってるって……そしたら凄い雄叫びが聞こえて」
喉から絞り出すような悲痛な声、苦しそうに歪んだ表情……滲んでいく眼差しに、俺の視界までボヤけていく。
「そんな事があったばかりだってのに……何度俺が呼んでも、揺すっても、全然目を覚まさなかった」
手の甲に不意に感じた熱さ。涙だった。赤い瞳から溢れた雫が頬を伝ってポタ、ポタと繋いだ俺達の手に降り注いでいる。
「嫌だ、嫌なんだ……シュンに何かあったら、俺……どうしたら」
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