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先生から特別なブレスレットをプレゼントしてもらえたんだが?
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「せっかくの休日なのに、呼び立てしちゃってごめんね」
「そんな、俺先生に会えて嬉しいです」
アトリエ内は、今日も甘い香りが漂っている。グレイ先生は、いつもと同じ柔らかい笑みで出迎えてくれ、俺の前にティーカップをそっと置いた。
カップから華やかな香り共に白い湯気が立ち昇っていく。
「私もシュン君に会えて嬉しいよ。今日は君に渡しておきたいものがあってね」
スーツジャケットの懐から何かを取り出す。そっとテーブルに置いてから、差し出されたのは手のひらサイズの黒い長方形の箱だった。
「開けてみてもいいですか?」
青い目を細め、先生が小さく頷く。許可を頂いた俺は早速、黒い蓋に手をかけた。
「わぁ……」
思わず上げてしまった感嘆の声。中にはそれぞれ形の異なる青い天然石を連ねた、ブレスレットが納まっていた。
「キレイですね」
指先で慎重につまみ上げると、窓からの日差しを受けてキラキラ輝く。
「ラピスラズリだよ。魔術に長けた友人にお願いしてね、特別な術を施してもらったんだ」
「特別な術、ですか?」
瑠璃色に光るそれを見つめながら、首を捻っている俺の側へ先生がゆっくり歩み寄ってきた。
跪き、男らしい手を俺に向かって差し出す。
「貸してごらん、つけてあげるよ」
「は、はい……お願いします」
つい、見惚れてしまっていた。いつもより近い距離にある堀の深い顔に、柔らかい微笑みに。
早鐘を打ち始めた鼓動のせいだ。少しだけ、手が震えてしまう。それでも、何とか手のひらの上にブレスレットを乗せると恭しく俺の手が取られた。
「……もし、君に万が一の事があった時、君の周囲に障壁が張られるようになっている。とはいえ、強い衝撃を受け続ければ壊れてしまうから……あまり過信はしないでね」
「……ありがとうございます、先生」
「本当は、私がずっと側に居られたらいいんだけどね……」
腕に巻かれた冷たい石の感触。どこか物悲しげに微笑みながら、節くれだった指先がブレスレットをそろりと撫でていく。
思わず手が伸びていた。添えるように頬に触れていた俺は、銀色のリングにラピスラズリをあしらったイヤリングが耳で輝いているのに気づく。
「グレイ先生、このイヤリング……」
「あぁ、君のブレスレットの石と同じものだよ。こちらにも魔術が施してあってね、障壁が展開した時に、光って報せてくれるようになってるんだ。勿論君の居場所もね」
「じゃあ、何かあったら先生が助けにきてくれるってことですか?」
「うん。だからこれだけは、肌身離さずにしていて欲しい。私が、すぐ君の元に駆けつけられるように」
俺の手を包み込み、手の甲に口付ける。懇願するみたいに、祈りを捧げるみたいに。
目の奥がジンと熱くなる。グレイ先生はいつも優しい。それは、骨身に染みるほど分かっていたつもりだ。でも、まさか先生が、こんなにも俺のことを心配してくれているなんて。
「……分かりました。俺、スゴく嬉しいです。先生が俺のこと、その、大事に思ってくれているみたいで……」
「おや……みたい、とは心外だね。私はずっとシュン君のことを大切に思っているよ? 君がいない毎日なんて、もう考えられないくらいにはね」
「そんな、俺先生に会えて嬉しいです」
アトリエ内は、今日も甘い香りが漂っている。グレイ先生は、いつもと同じ柔らかい笑みで出迎えてくれ、俺の前にティーカップをそっと置いた。
カップから華やかな香り共に白い湯気が立ち昇っていく。
「私もシュン君に会えて嬉しいよ。今日は君に渡しておきたいものがあってね」
スーツジャケットの懐から何かを取り出す。そっとテーブルに置いてから、差し出されたのは手のひらサイズの黒い長方形の箱だった。
「開けてみてもいいですか?」
青い目を細め、先生が小さく頷く。許可を頂いた俺は早速、黒い蓋に手をかけた。
「わぁ……」
思わず上げてしまった感嘆の声。中にはそれぞれ形の異なる青い天然石を連ねた、ブレスレットが納まっていた。
「キレイですね」
指先で慎重につまみ上げると、窓からの日差しを受けてキラキラ輝く。
「ラピスラズリだよ。魔術に長けた友人にお願いしてね、特別な術を施してもらったんだ」
「特別な術、ですか?」
瑠璃色に光るそれを見つめながら、首を捻っている俺の側へ先生がゆっくり歩み寄ってきた。
跪き、男らしい手を俺に向かって差し出す。
「貸してごらん、つけてあげるよ」
「は、はい……お願いします」
つい、見惚れてしまっていた。いつもより近い距離にある堀の深い顔に、柔らかい微笑みに。
早鐘を打ち始めた鼓動のせいだ。少しだけ、手が震えてしまう。それでも、何とか手のひらの上にブレスレットを乗せると恭しく俺の手が取られた。
「……もし、君に万が一の事があった時、君の周囲に障壁が張られるようになっている。とはいえ、強い衝撃を受け続ければ壊れてしまうから……あまり過信はしないでね」
「……ありがとうございます、先生」
「本当は、私がずっと側に居られたらいいんだけどね……」
腕に巻かれた冷たい石の感触。どこか物悲しげに微笑みながら、節くれだった指先がブレスレットをそろりと撫でていく。
思わず手が伸びていた。添えるように頬に触れていた俺は、銀色のリングにラピスラズリをあしらったイヤリングが耳で輝いているのに気づく。
「グレイ先生、このイヤリング……」
「あぁ、君のブレスレットの石と同じものだよ。こちらにも魔術が施してあってね、障壁が展開した時に、光って報せてくれるようになってるんだ。勿論君の居場所もね」
「じゃあ、何かあったら先生が助けにきてくれるってことですか?」
「うん。だからこれだけは、肌身離さずにしていて欲しい。私が、すぐ君の元に駆けつけられるように」
俺の手を包み込み、手の甲に口付ける。懇願するみたいに、祈りを捧げるみたいに。
目の奥がジンと熱くなる。グレイ先生はいつも優しい。それは、骨身に染みるほど分かっていたつもりだ。でも、まさか先生が、こんなにも俺のことを心配してくれているなんて。
「……分かりました。俺、スゴく嬉しいです。先生が俺のこと、その、大事に思ってくれているみたいで……」
「おや……みたい、とは心外だね。私はずっとシュン君のことを大切に思っているよ? 君がいない毎日なんて、もう考えられないくらいにはね」
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