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4章
43話 迫る時間
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アリフィアから栄養剤を受け取り、摂取したはいいものの、師匠から受け取っていた薬の影響で微かな眠気に襲われる羽目になり、結局メイドの勧めもあって俺は1人仮眠を取る事になった。
本来、部屋を提供されたものの寝るつもりは無かった。
しかし、身体を横にしていると眠気の波は次第に大きくなっていく。そして俺の意識はいつの間にか、
闇にのまれていた。
1つの、夢を見る。
夢に限りなく近い追憶。
日常化した師匠とのやり取りだ。
「なぁ、ナガレ。君は何の為に戦う?」
たまに聞かれるこの質問。
俺はいつも、同じ答えを師匠に返していた。
それはその時も変わらず。
「守りたいヤツらを守る為」
「うん、オレもそうなんだろうなって思ってた。けど、どうしてかその答えに引っかかってさ。だからこうして質問を繰り返していた」
「それで、答えは見つかったか」
本人である俺自身ですら、凡その理由しか自覚出来ていないというのに、それを師匠が探していたという。
だけれど、俺にとっては答えなぞどうでもいい。
認識する守りたいヤツら。そいつらを自分の手の届く限り守ってやれればそれで——。
「ああ、見つかったとも。オレが考えるに、ナガレは自分の世界を守りたいのさ」
「僕の世界?」
「そう、ナガレの世界だ。シヴィスちゃんがいる。オレがいる。領民がいる。両親がいる。ナガレの周りにいる人間全てがナガレの世界の住民だ。それを壊される事を酷く嫌う。だからそこまで必死になれるのさ」
「……僕の答えと変わらなくないか?」
師匠の言葉が理解できなくて。
怪訝顔で尋ねてしまう。
仮に、俺の世界を師匠のいう言葉で定義したとして、目に届く限り守る行為と何が違うのか。答えは一向に浮かばない。
「変わる。オレの言葉とナガレの言葉は大きく異なっているとも。ナガレの行為は無償の奉仕であり、仮に助けたとして、それは見返りを求める事なく一方的に人に捧ぐ事だろう? その過程で自己欲求を満たしているかもしれない。けれど、他の人間からすればその行為はただの不気味なものでしかない」
「それが?」
「それが間違いだって事さ」
隻腕の腕を俺の胸付近にまで伸ばす。
そして、心臓部を軽く小突く。
「ナガレを突き動かすのは不気味な思考回路じゃない。深く重い独占欲だ。君は独占欲の塊なんだよ」
「僕が、独占欲を?」
「そうだ。ナガレはオレ達を自分の世界の一部として考えている。難しい言い方ではあるが、これ以上の独占欲は無いと思うよ。それ程までにナガレの独占欲は強い。で、それが壊される事を恐れ、剣を今この瞬間とっている」
「……成る程な」
ストンと、どうしようもないまでに理解してしまう。
だが、わざわざその事を伝えた理由。
それがわからず渋面を見せたところで師匠が俺の頭にポンと手を置く。
「要するに、ナガレも人間って事だ。人間らしく、もっと自分の生にしがみ付け。もっと人間らしく生きろ。君も、一端の人間なんだから」
笑う。
慈愛に満ちた笑みを浮かべて笑う。
「楽しい事も人並みに味わうんだ。全ての行為、全ての言動はナガレの求める強さに繋がるのだから」
そこまでいったところで、気恥ずかし気にぽりぽりと師匠が頬を掻く。
あからさまな仕草がなくとも俺でもわかる。
そんなセリフは師匠本来の柄じゃないと。
「まぁ、こういった話をするのも師匠の役目かなと思ってね。今日の鍛錬は中止だ。シヴィスちゃんも呼んである。3人でたまに遊ぶのも悪くないとは思わないかい?」
「僕は……、僕はそんなに危ういか」
「ふふはっ」
師匠が俺に向けて忠告をする際。
それは決まって意味を持つ。
「危ういよ、とても。ナガレは周りの人間を死なせたくないと思っている。けれど、自分はその中に入ってはいない。つまるところ、自分は死んでも良いと考えてる。だからこそ、無類の強さを発揮出来たりもするかもしれない。でもオレはナガレには生きて、少しでも生きやすい世界を作り上げて欲しいよ」
「……師匠は凄いな相変わらず」
俺自身、死なないで欲しいと思う事はあれど。
死にたくないと心の底から思えた事はナガレとして生きる中で一度たりとて思えた試しがない。
願望はある。
こうしたいとか、ああしたいとか。
でもやっぱり、胡蝶の夢なのかもしれない。
最後はいつもどこかでそう思ってしまう。
「成り上がりたいとか、そんな考えを持ててたら苦労はしなかっただろうにな」
そう言って俺は笑う。
「個人的には、俗物な考えは好むところじゃないんだけど」
「でも、如何にも人間らしいだろ?」
「まぁ、違いない」
貴族にあまりいい思い出のない師匠は俗物な考えを嫌っている。しかし、それが人間なのだと理解もしている。
だからこそ、笑わざるを得なかった。
「さ、話はこれくらいにしておこうか。シヴィスちゃんを待たせるのも悪いからね」
「あぁ、そうだ……な」
ふと、違和感を感じる。
いつも鍛錬、鍛錬とまるで急かすように俺に鍛錬を積ませようとする師匠がどうして珍しくも鍛錬の時間を潰して休みにしようとしたのか。
はじめは俺のことを思ってなのだと考えていた。
でも、何かが違う気がする。
そう思い始めたが最後、芋づる式に違和感がどんどん溢れ出す。
心なしか、師匠の顔色もいつもより悪い気がする。
「なぁ、師匠」
俺は、以前から抱いていた疑問をぶちまける。
「師匠は誰と、」
俺の知る中で最強は師匠だ。
貪狼と呼ばれるローレン=ヘクスティアに敵う存在がいるとは思えない。ボルグとグレイスが二人掛かりで殺しにきたとしても師匠なら隻腕でも軽く捌けると思う。
そこに俺が加わったとしても、結果に変化はない。
これは断じれる。
そんな師匠は一体、誰に。
「誰と戦って腕を落としたんだ?」
隻腕でも、一生勝てない気を覚えてしまうローレン=ヘクスティア相手に、両腕が健在していた際、誰が彼の腕を失わせたのか。
そこだけが俺は疑問に思えて仕方がない。
そんな折。
ヒュゥと、俺の言葉を遮るように風が吹く。
「ごめんナガレ。風で聞こえなかった」
振り向いて俺に笑顔を向ける。
言外に、まだ教えるわけにはいかないと言われているようで。
「……いや、なんでもない。独り言だ。気にしないでくれ」
「そっか」
腕を失った他にまだ、後遺症があるんじゃないのか。
それを聞く事は、その時はまだ叶わなかった。
本来、部屋を提供されたものの寝るつもりは無かった。
しかし、身体を横にしていると眠気の波は次第に大きくなっていく。そして俺の意識はいつの間にか、
闇にのまれていた。
1つの、夢を見る。
夢に限りなく近い追憶。
日常化した師匠とのやり取りだ。
「なぁ、ナガレ。君は何の為に戦う?」
たまに聞かれるこの質問。
俺はいつも、同じ答えを師匠に返していた。
それはその時も変わらず。
「守りたいヤツらを守る為」
「うん、オレもそうなんだろうなって思ってた。けど、どうしてかその答えに引っかかってさ。だからこうして質問を繰り返していた」
「それで、答えは見つかったか」
本人である俺自身ですら、凡その理由しか自覚出来ていないというのに、それを師匠が探していたという。
だけれど、俺にとっては答えなぞどうでもいい。
認識する守りたいヤツら。そいつらを自分の手の届く限り守ってやれればそれで——。
「ああ、見つかったとも。オレが考えるに、ナガレは自分の世界を守りたいのさ」
「僕の世界?」
「そう、ナガレの世界だ。シヴィスちゃんがいる。オレがいる。領民がいる。両親がいる。ナガレの周りにいる人間全てがナガレの世界の住民だ。それを壊される事を酷く嫌う。だからそこまで必死になれるのさ」
「……僕の答えと変わらなくないか?」
師匠の言葉が理解できなくて。
怪訝顔で尋ねてしまう。
仮に、俺の世界を師匠のいう言葉で定義したとして、目に届く限り守る行為と何が違うのか。答えは一向に浮かばない。
「変わる。オレの言葉とナガレの言葉は大きく異なっているとも。ナガレの行為は無償の奉仕であり、仮に助けたとして、それは見返りを求める事なく一方的に人に捧ぐ事だろう? その過程で自己欲求を満たしているかもしれない。けれど、他の人間からすればその行為はただの不気味なものでしかない」
「それが?」
「それが間違いだって事さ」
隻腕の腕を俺の胸付近にまで伸ばす。
そして、心臓部を軽く小突く。
「ナガレを突き動かすのは不気味な思考回路じゃない。深く重い独占欲だ。君は独占欲の塊なんだよ」
「僕が、独占欲を?」
「そうだ。ナガレはオレ達を自分の世界の一部として考えている。難しい言い方ではあるが、これ以上の独占欲は無いと思うよ。それ程までにナガレの独占欲は強い。で、それが壊される事を恐れ、剣を今この瞬間とっている」
「……成る程な」
ストンと、どうしようもないまでに理解してしまう。
だが、わざわざその事を伝えた理由。
それがわからず渋面を見せたところで師匠が俺の頭にポンと手を置く。
「要するに、ナガレも人間って事だ。人間らしく、もっと自分の生にしがみ付け。もっと人間らしく生きろ。君も、一端の人間なんだから」
笑う。
慈愛に満ちた笑みを浮かべて笑う。
「楽しい事も人並みに味わうんだ。全ての行為、全ての言動はナガレの求める強さに繋がるのだから」
そこまでいったところで、気恥ずかし気にぽりぽりと師匠が頬を掻く。
あからさまな仕草がなくとも俺でもわかる。
そんなセリフは師匠本来の柄じゃないと。
「まぁ、こういった話をするのも師匠の役目かなと思ってね。今日の鍛錬は中止だ。シヴィスちゃんも呼んである。3人でたまに遊ぶのも悪くないとは思わないかい?」
「僕は……、僕はそんなに危ういか」
「ふふはっ」
師匠が俺に向けて忠告をする際。
それは決まって意味を持つ。
「危ういよ、とても。ナガレは周りの人間を死なせたくないと思っている。けれど、自分はその中に入ってはいない。つまるところ、自分は死んでも良いと考えてる。だからこそ、無類の強さを発揮出来たりもするかもしれない。でもオレはナガレには生きて、少しでも生きやすい世界を作り上げて欲しいよ」
「……師匠は凄いな相変わらず」
俺自身、死なないで欲しいと思う事はあれど。
死にたくないと心の底から思えた事はナガレとして生きる中で一度たりとて思えた試しがない。
願望はある。
こうしたいとか、ああしたいとか。
でもやっぱり、胡蝶の夢なのかもしれない。
最後はいつもどこかでそう思ってしまう。
「成り上がりたいとか、そんな考えを持ててたら苦労はしなかっただろうにな」
そう言って俺は笑う。
「個人的には、俗物な考えは好むところじゃないんだけど」
「でも、如何にも人間らしいだろ?」
「まぁ、違いない」
貴族にあまりいい思い出のない師匠は俗物な考えを嫌っている。しかし、それが人間なのだと理解もしている。
だからこそ、笑わざるを得なかった。
「さ、話はこれくらいにしておこうか。シヴィスちゃんを待たせるのも悪いからね」
「あぁ、そうだ……な」
ふと、違和感を感じる。
いつも鍛錬、鍛錬とまるで急かすように俺に鍛錬を積ませようとする師匠がどうして珍しくも鍛錬の時間を潰して休みにしようとしたのか。
はじめは俺のことを思ってなのだと考えていた。
でも、何かが違う気がする。
そう思い始めたが最後、芋づる式に違和感がどんどん溢れ出す。
心なしか、師匠の顔色もいつもより悪い気がする。
「なぁ、師匠」
俺は、以前から抱いていた疑問をぶちまける。
「師匠は誰と、」
俺の知る中で最強は師匠だ。
貪狼と呼ばれるローレン=ヘクスティアに敵う存在がいるとは思えない。ボルグとグレイスが二人掛かりで殺しにきたとしても師匠なら隻腕でも軽く捌けると思う。
そこに俺が加わったとしても、結果に変化はない。
これは断じれる。
そんな師匠は一体、誰に。
「誰と戦って腕を落としたんだ?」
隻腕でも、一生勝てない気を覚えてしまうローレン=ヘクスティア相手に、両腕が健在していた際、誰が彼の腕を失わせたのか。
そこだけが俺は疑問に思えて仕方がない。
そんな折。
ヒュゥと、俺の言葉を遮るように風が吹く。
「ごめんナガレ。風で聞こえなかった」
振り向いて俺に笑顔を向ける。
言外に、まだ教えるわけにはいかないと言われているようで。
「……いや、なんでもない。独り言だ。気にしないでくれ」
「そっか」
腕を失った他にまだ、後遺症があるんじゃないのか。
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