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二章

二十六話

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 ギルド【救済の手】
 ギルド名に【救済】と含めるだけあって数多のプレイヤーを助ける事を信条とした新規ギルドである。
 しかし、実情は【救済】という文字を盾にした様々な悪質行為が所々で横行している現状であった。
 もちろん、一部の話である。だが、得てして悪い部分にスポットライトが当てられるのが世の常であった。


 我々は多くのか弱いプレイヤーを助けている。


 この言葉を免罪符にし、強いプレイヤーに対してやれ、力を貸せ。やれ、お金を渡せ。手伝えと強要してくる輩も少なからずいるのだとか。


 そして運悪くも【silky】がそんな輩に目を付けられ。
 上等な装備を身につけていた事もあってか、装備に関してのいちゃもんをつけられたことに対し、【silky】はあえて彼らを挑発。


 果ては場外乱闘まで発展し、追加で絡んできた【救済の手】メンバー計8名を【silky】1人の独壇場により万事抜かりなくPK執行。
 クレルダン大聖堂送りにしたところまではほんの少し程度しか問題がなかったのだが、その後、憂さ晴らしにとそれなりに【救済の手】内において立場のあるプレイヤーに向けて煽ったらしく、目を付けられたのだとか。


 これはもう更に恥をかかせ、嫌がらせをするしかない。
 と、思ったはいいものの、歯ごたえがなくて消化不良になる気がしたらしく。


 何を思ったのか、これを口実に困ってる風を装って【RAIN】を呼んじゃおう。【愛紗】任せた!


「————と、言う事っすね」
「なら、雪を無理に呼ぶ必要はないと思うけど……」


 隠し事はすんなよと視線でひたすらに訴え続けた結果、【愛紗】は見事に全てゲロってくれていた。
 話を一通り聞いた後、最もな返答を誰よりも早く楓が返し、指摘してくれる。
 その通り、俺は聞く限りどう考えても無理矢理に巻き込まれただけであった。


「ふっ、我らが silkyさんに常識なんてものは通用しないっす! なにせ、常識を説いても知るかバカって叩かれるだけっすから!!」


 ふふんっ。
 どうだと言わんばかりに胸を張る。
 膨よかな凹凸のある膨らみが、それに合わせて存在感を強調しながら大きく揺れた。


「…………」


 説得力のカケラもない返しに、楓が向ける感情は呆れ。
 しかし視線は揺れる双丘に釘付けだった。
 楓はすらりとした均整のとれた身体つきをしており、間違いなく美人なのだが、そんな彼女にもただ1つ、足りていないものがあった。


「貧乳お姉さんの言う通りだよ。ボク達があえて赴く必要があるとは到底思えないね」
「ねえ、死にたいの?」


 神速の拳撃と共にゴスッ、と鈍重な音が言葉に続くように響き渡る。遅れてくぐもった悲鳴のようなものが聞こえてくるが、誰1人として鼻を抑えて悶絶するバランを同情する事はなかった。


「まあ、バカバランは置いておいて。俺1人の時なら兎も角、今はこの通りパーティーを組んでる。悪いが、俺1人の意見で決めるつもりもねえし、そもそも silkyの思い通りってのが気にくわない。ぶっちゃけ逃げてやりたい」
「レインっち、本音がだだ漏れっす」


 おそらく、俺が無理強いをすれば楓とレクス。オマケでバランは納得してくれるだろう。
 でも俺はそれよりも silkyの思い通りに行動するという部分が何となく気に入らなかった。


「まあ、 silkyさんもレインっちが素直に来るとは思ってないと思うんすけど、アタシ個人の意見としても来て損は無いと思うっす!」
「その心は」
「ズバリ! レインっちはきっと街に長い事訪れていないからっすね!!」


 裏表のない性格と言うべきか。
 【愛紗】は質問すれば大抵答えてくれる。
 もちろん、人は彼女も最低限選ぶ。というより、 silkyと仲が良い人限定でアホみたいに口が軽くなる。
 本来であれば silkyと仲が良いなんてふざけるなと叫んでやりたいところだが、【愛紗】はツンデレだと言って聞かないし、口が軽くなるならこのままで良いかと放置している現状だ。


「街?」
「ですです! 街って言うと、移動制限関連っすね! 街でちょっと気になる掲示板のカキコがあって、きっとアイツ無駄に警戒心高いし街とかあんま入ってないって。これでレイン釣っちゃおう。てか、釣って来て? って3回くらい脅されたっす!! 手ぶらで帰ると間違いなくしばかれるんでレインっち、ここはどうかアタシを助けると思って!!」


 パンっ。
 両手を合わせ、突き出し頭を下げる。


 未だ一度も発言をしていないレクスはといえば、全て俺の意思に任せるようで、口を挟む気配は一切感じられない。
 楓は困ったように渋面を見せ、既に回復を遂げていたバランは街……、街、と口ずさみながら思案を続けていた。


「……掲示板、か」


 【愛紗】の口から飛び出したその言葉が頭に強く残る。
 1つの街に必ず1つは設置されている掲示板。
 本来それは【イニティウムオンライン】の運営からプレイヤーへ向けてのお知らせ告知などに使われていたものである。


「もしかして、運営が首でも突っ込んできたか?」


 であるならば、きっと掲示板が動いた。
 イコール、運営が干渉してきたと睨むのが当然の帰結であるのだが、当然とも言える俺の質問に対し、返ってきたのは


「それが、っすね……」


 【愛紗】にしては珍しい苦笑いだった。


「…………?」
「あー、いや、掲示板に関しては結構分からないところが多かったりしてアタシからは上手く言えないんすけど……そ、そういう事もあって! その事情も含め、レインっちには来てもらえると助かるっす!」
「相変わらず隠し事下手だなおい」


 じとーっと猜疑心丸出しに、【愛紗】を見つめると目を合わしたくはないのか、頻りに瞬きをしながら視線をそらす様は明らかに何かを隠している証左でもあった。


「あの、1つ宜しいでしょうか?」


 そんな中。
 1つの声が場に響いた。


 バランの先程の発言により、不気味なまでに和やかな笑顔で殺意を飛ばしていた楓とは対照的に静謐。
 この場において恐らく一番冷静だろう常識人、レクスが伺いたてるように顔色を確認しながら発言をした。
 空気を汲み取り、言葉を続けて問題はないと踏んだのか、簡潔に意見を述べ始める。


「結論から言わせて頂くと、私は赴くべきだと愚考致します」


 すぐ側で、おぉー!! と感激するヤツが1人いたがそれを度外視して言葉を待つ。
 どうして? と視線で訴えかけた事が通じたのか、どこか微笑を浮かべつつレクスは付け加えるように声を発した。


「夕凪さん、でしたっけ……。確か、居場所探知のスクロールを交換していたと思うんですが、その方同様、やはり可能な限りスクロールの交換を行うべきと思ったのが1つ。それと、やはり情報不足、ですかね。私たちはこの通り、街とはあまり縁がありませんでしたし、良い機会かなと」
「……ん」


 レクスの発言は理に適っている。
 が、【愛紗】の発言から察するに、既に夕凪と彼女らは顔を合わせている筈だ。
 余分に居場所探知のスクロールを夕凪に渡していた事もあり、気を利かせて渡してくれている可能性も無きにしも非ず。
 違うなら今ここで【愛紗】に渡せば——


「いや、ダメだろ」
「へっ?」


 我に返り、何血迷ってたんだと数秒前の己の考えを一蹴した。
  silkyに居場所探知のスクロールを渡してもみろ。
 きっとアイツなら自身の手下である【愛紗】を使って俺にちょっかいをかけに来る……は、ず?


「……んん?」


 ここで漸く1つの仮説が浮かび上がる。
 どうして【愛紗】が天鷲グリフォンで俺の下まで来れた?
 そして夕凪と silkyたちは既に会っていて……。


 ……。


 ………。


 …………。


 俺の居場所探知のスクロールをよりにもよって silkyに渡しやがったなあの夕凪中年オヤジ!!


「そう、いう事、かよ……ッ」
「ど、どうしたんすか? レインっち」


 絶対にわざとだ。
 意図的だ。闘神バランの件を絶対根に持ってたに違いない。
 現に、精々苦しめと言いながら笑う夕凪の表情が幻視してしまった。


「よし、行くわ。俺、 silkyのところに行くわ」
「おおおおお!! 流石はレインっち! 最後はやっぱりそう言ってくれるって信じてたっすよ!!」


 狂喜乱舞する【愛紗】が居たが、そんな彼女が視界に入らない程に俺の思考はある一点に向けられていた。


(ふざけんじゃねぇ……!!  silkyだけ俺の居場所探知スクロール持ってるとかずるいだろ! チートだろ! 反則だろ!! アイツから逃げるためにも俺も silkyの居場所探知スクロール持ってねえと公平じゃない……。というか、じゃないと良いようにこき使われる未来しか見えねえっつーの……)


 ——マジで恨むぞ夕凪さん……ッ!!


 そもそもの原因は俺にあるのだが、既にその出来事は俺の中では消え去っており、次会ったらマジで覚えとけよと恨みを募らせた。
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