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一章

十二話

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 パチパチと音を立てて飛び交う火花が、夜闇を物色する。
 散らばっていた枯れ木による焚き火。
 動物と同じ要領で、砂漠にもいるであろうモンスター避けになるのかは定かではないが、月明かりだけでは不自由なので火を起こす。


 朧月夜の下、使い魔たる八咫烏は数羽程、一定のルートをひたすら円を描くように上空を飛び回っていた。


「まさに幻想的、ってな」


 現実リアルであれば絶対にお目にかかれない景色を背景に呟きつつ、岩に腰掛け、斑鳩いかるがの街で大量に買い込んでいた串付き三色団子を頬張った。


 視線の先には雁字搦めにロープでこれでもかという具合にぐるぐる巻きにされたミイラ風簀巻すまき。
 少し前までプレイヤーだったソレに向けて漸く話し掛ける。


「で。一応、俺達を襲ってきた理由を聞こうか……」


 PK厨にまともなヤツはいない。
 そんな事はsilky知り合いから何度も聞かされてきたし、俺自身も理解してたが、それでも一応と思って尋ねておく。
 ミイラ風簀巻き男——つい数分前まで【セツリ】という名前のプレイヤーだった人物に。


「えぇ? いやぁ、そりゃあ相手が悔しがる顔を見たいからに決まってるでしょー」
「…………」
「で、そんな折に使い魔が僕を監視してたから鬱陶しくなってとりあえずナイフ投げて。嗚呼、警戒に警戒を重ねた人が結局、僕に負けた事で折角の警戒も無駄になって、キミたちは身ぐるみを剥がれながら僕は優越感に浸りたかったってところかな」


 ——現実は僕が返り討ちにされて簀巻きにされてるけど。
 なんて言葉も付け加える。


「清々しいまでにクズいな」
「PKする連中なんてそんなんばっかだってば。むしろ僕はぬるい方」
「ま、そんな事は知ってるしぶっちゃけ、どうでも良いんだけどな」


 もし、【セツリ】が別の。
 違う理由で襲ってきた場合を想定して尋ねるものの、結局、在り来たりな理由。であればこれ以上この話は無用。
 やられたらやり返すを信条とする俺は別に独自の正義論を持ち合わせているわけでもなく。
 無情に話を進める。


「じゃ、とりあえずこの世界について知ってる事全部吐け? 俺が満足出来たら身ぐるみ剥いでからどっかに捨ててやるからさ」
「酷い!? 情もクソもあったもんじゃ無いじゃん!」
「ふっ」


 思い起こすはギルド【sacred】に所属する以前。
 俺をPKしようと襲い掛かってきたドエス女を返り討ちにして逆に、運営が定める倫理なんとかギリギリを狙って身ぐるみを剥いでやった俺に情を求める方が間違ってる。


「PK厨に向ける温情は捨ててきた。別に温情をかけて寝首かかれたとかそんな体験はないし、初っ端から身ぐるみ剥いだけどな。俺は」
「う、うわあ……キミ、PKの方が向いてるんじゃ……」
「まあそれは置いといて。情報だ情報。単刀直入に聞くが、この世界で蘇生地点ポイントがあるとかそんな話、聞いた事あるか?」
「いや、置いといちゃだめでしょ……」


 蘇生地点ポイント
 その有無がなによりも重要だった。
 PK厨であるならば、その情報は知ってる可能性が極めて高い。
 こうして簀巻きにして転がしてるのだって情報を聞き出すためだ。真偽は自分で判断しなきゃならないが、聞けるだけ聞くハラだった。


「でも、蘇生地点ポイントかあ」


 顔を顰める。


「まあ、僕が実際に死んで復活地点ポイントで復活した経験があるわけじゃないけど復活自体は出来るらしいよ。それなりのデスペナルティを課されるらしいけど。あ、これ僕が強奪した人達の言ってた事ね。間違ってても僕のせいじゃないから」
「で、その復活地点ポイントの場所は」
「クレルダン大聖堂」


 間髪いれずに返答。
 渋った様子はなく、嘘をついている可能性も薄い。
 真実味を帯びたその言葉を聞いてから、少し距離をとって控えていた楓とレクスに視線をやる。


「聞いた事も無い場所です……」
「……だよな」


 大聖堂、というくらいだから神殿なんかに似た場所か。
 たしかに、蘇生地点ポイントとしてはこれ以上なくマッチしている。


「ま、でも。クレルダン大聖堂が本当に存在するとして。その場合、クレルダン大聖堂にだけは近づかない方がいいと思うけどなあ」
「どうして?」
「だってさあ、ほら、気付かない? ログアウトしようにも出来ない状況で。だけど街には復活地点ポイントは存在しない。そんな人達はある仮説を立てる。この世界では、死ねばログアウト出来るんじゃないかって」


 あぁ、なるほど。
 そういう事かと理解が及ぶ。


「けど、実際はデスペナルティを負うけれど、復活が出来た。この未知の世界に閉じ込められたんだと理解した彼らの溜まり場、それがクレルダン大聖堂って解釈は出来ないかなあ? 僕よりもよっぽど病んだ人がたっくさんいるよ、絶対さ」
「イかれてるって自覚あるんだな」
「もっちろん! それすらスパイス! 色んな意味でPKは最高だからね! あははははは!」
「だーめだコイツ。どこまでも救えねえわ」
「PKする事で救われるような人だしね僕。で、まあ、話は続くんだけど」


 これ解いてくれない? 話し辛いんだけど。
 なんてほざいてくる。


 襲ってきた分際で何調子に乗ってるんだか、と。
 焚き火で炙っていた三色団子を顔に当てて自分の立場を今一度理解させてやろうと、俺は熱々のお団子を掴んで【セツリ】の下へと向かう。


「お! もしかして本当に解いてくれたり、アッツ?! 熱い熱い!! 熱いから!! ほっぺに当てんな!! おい!! 熱いって言ってんじゃん!!!」
「言ったろ。全部話したら身ぐるみ剥いで捨ててやるって。今の時点なら、あの情報で熱々のお団子一本ってところだ。良かったな」
「むしろ罰じゃん?! いらないよ! むぐっ?!」


 とりあえず熱々のお団子を【セツリ】の口に突っ込んでから元の場所へ戻る。
 熱いものの、三色団子は美味しかったらしく少し声が上ずっていた。


「でえ、まあ話を続けるんだけども、そんな中とある街の盟主がこんな事を言い出してね。『【イニティウムオンライン】に酷似した世界なんだから今まで通り、ストーリーをクリアしていけば良いんじゃないか』ってね」
「まあ、筋は通ってるが……」


 【イニティウムオンライン】では、毎月ゲーム内のストーリーが更新されていき、新たな街なりミッションボスがストーリーに沿って登場する。
 だからこれまで通りそれをこなしていけば、いつかログアウトできるのでは無いか、と。
 だが、今のストーリーボスは確か


「堕天バージョンの女神ティルナを倒すメンツなんてこの状況下で集まるとは思えないが」
「メンツ集めようと使い魔飛ばして連絡を取ろうとしてるらしいけど、誰かしらに10割その使い魔は撃ち墜とされてるからねえ。まあ僕も無理だと思うよ」



 と、重要そうな話を何気なく話す【セツリ】を見つめながら疑問に思う。なんで、コイツがこんなに物知りなんだろうかと。


「ちなみに情報元は」
「もちろん強奪を仕掛けた相手が見逃して下さいーって勝手にベラベラと話してた内容だね」
「だよなあ」


 ここは素直に感謝をしておくべきだ。
 【セツリ】がどれだけクズな存在でも。
 情報に罪はないのだから。


「重要そうな話は聞けたし、矛盾点も特に見つからない。まあ、確証はないが一切合切を否定する程ではないくらいには理解出来る」
「なら!」


 一縷の希望の光をそこに見たのか。
 目を輝かせる【セツリ】に俺は微笑む。
 女神のように慈悲深い笑みを向けて言ってやる。


「仕方ない。身ぐるみを剥いで捨ててやろう」
「そこは変わらないのかよ!! くそ!!」


 そして俺は。
 数分後。宣言通り、【セツリ】の身ぐるみを剥いでから少し遠くの砂漠にポイっと捨ててきた。


 楓とレクスは当然の処置だとばかりに俺の行動を肯定してたのでおそらく、行動は正しかったんだと。
 いい事をした、なんて思いながら【セツリ】の喚き声を無視して野営の準備にと、戻るのだった。
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