異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎

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990 エルウィンの報告

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「アラタさん、おはようございます!」

翌日、開店と同時に治安部隊のエルウィンが顔を出して来た。

知り合って一年と少し、協会で出会った時より身長も伸びて、体付きもしっかりとしてきた。
その顔には年相応のあどけなさが残っているが、毎日の訓練の成果もあってか、立ち方や雰囲気など、身に纏っている空気に自信が見える。

「おう、エルウィン!あれ、お前またちょっと筋肉付いた?」

防具コーナーで整備をしていたアラタは、カウンター越しにエルウィンを見て、体格の変化を感じ取った。

最後に会ったのはほんの数週間前、闇の巫女ルナを追って帝国兵が侵入して来た時である。
だが、そのほんの数週間でも、エルウィンからは成長の一端が見えた。

「え、そうですか?自分じゃあんまり分かんないですけど、毎日ヴァン隊長やフェンテスさんにしごかれてますからね」

右腕を曲げて力こぶを作って見せる。言葉通り、毎日しっかりと鍛えている証がそこにあった。

「お~、頑張ってんだな。ところで今日はどうした?防具買うなら、こないだ良いバックラーが買い取れたんだ」

カウンターから出て、コーナーへ案内しようとすると、エルウィンは顔の前で手を振った。

「あ、違うんです。今日は報告があって来たんです。俺、治安部隊の正規隊員になったんですよ!隊長に認められたんです!」

「え!マジか?やったじゃん!見習いは卒業かぁ、おめでとう!15歳以下で正規隊員ってのはなかなか難しいんだろ?エルウィン優秀だな」

ふわっとした金色の髪の頭をポリポリと掻いて、エルウィンは照れたように笑った。


アラタはエルウィンを弟のように思っていた。
協会に投獄された時、話し相手になってくれたり、レイジェスとの橋渡しになってくれたエルウィンの存在は大きかった。

そして今もこうして自分を慕い会いに来てくれる。アラタはそれがとても嬉しかった。

「・・・アラタさん、今、治安部隊も戦争に備えて、これまでよりずっと厳しい訓練をするようになりました。隊長もカリウスさんもフェンテスさんも、上の人達もピリっとして気を張ってて、前とは全然雰囲気が違うんですよ。毎日けっこうキツイですけど、俺ももっと頑張りますよ」

「・・・ああ、そうだな。俺ももっと強くならないとな」


確かに感じるエルウィンの強さ・・・それは心。

ウィッカーは帝国との決戦は冬と言っていた。それまでにできる限りの底上げをしなくてならない。
昨日のウィッカーの話し、そして目の前に立つ成長したエルウィンの姿に、アラタも自分の役目、すべき事をもう一度心に刻んだ。

そう、今のままではまだ届かない。
日本で自分を殺した男、デービスと呼ばれたあの男に、アラタは先の戦いで敗れた。

あの時はまったく相手にならずに一蹴されてしまった。
あの男に勝つ為にはもっと強く、今よりもっともっと強くならなければならない。



「あれ、エルウィンじゃん?」

「あ、ケイトさん!」

アラタとエルウィンが話していると、買い取った魔道具を両手に持ち、通りかかったケイトが声をかけた。

「なになに、今日は休み?それともなんかあった?」

明るいベージュ色の髪をなびかせ、ケイトは防具コーナーのカウンター前に立った。

「あ、実はですね、俺治安部隊で見習いから正規隊員になったんです。ヴァン隊長が認めてくれて。それで今日は、その報告に来ました」

「え!マジ?やったじゃん、エルウィン!あんた頑張ってたもんね。あ、じゃあレイチェルにも早く報告に行かなきゃ!」

「あ、いやそれは・・・」

レイチェルの名前に顔を赤くしたエルウィンを見て、ケイトはニヤリと笑った。

「・・・あれ~、なに赤くなってんの?まったくあんたは・・・ほら、行くよ!」

「あ、ちょ、ケイトさん!」

ケイトは両手に持っていた魔道具をカウンターに置くと、がしっとエルウィンの腕を掴んで、ちょっと借りてくよ~!と言い残し、エルウィンを引っ張って事務所へと連れて行った。


「お、おう・・・強引だなぁ・・・あ、そういや、エルウィンはレイチェルが好きなんだっけ・・・」

・・・うまくいくといいな。

ぐいぐいと引っ張られていくエルウィンの背中に、アラタは小さく呟いた。




その日の仕事終わり、アゲハがウィッカーに挑んだ。
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