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第2章──少年期5~10歳──

055 ヤんでしまう前に話題を変えよう

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「ガウ兄ガウ兄、魔法石の魔力、切れちゃう」
『あぁ、そうでしたね。せっかく愛おしい可愛いシアとお話しているのですから、もっともっとシアの可憐な声が聞きたいです。……話す事にすら制限があるなんて、本当に何度この学園を潰そうと思った事か分かりませんが通信魔法石トホァンの性能も考え直さなくてはなりませんね全く技師は何をしているのやら』
「ねぇ、ねぇ。ガウ兄、バンガクタヴテの休みには帰って来るんだよね?」
『えぇ、勿論ですシア。ロミに二回しか長期休暇がないなんて、本当にどうなっているのでしょうか。しかも二ワイア間しかないかなんて、わたしにとって苦痛でしかないですもう学園滅ぼして良いですよねあと一ロミもあるなんてシアが足りない』
「シアモガクエンニイキタイナ~」

 最終学年になったガウリイルは、生徒会ヴィデアン会長ヴィートになっていると聞いている。
 それなのに率先して学園を『存在しないもの』にしようとする考えに、フェリシアは思い切り心の中でつっこんだ。あきれるどころではない。

 だがここで、『ダメに決まってる』と言ったところで通じないのがガウリイルだ。
 フェリシアは何度も繰り返し言い続けた事で棒読みになるセリフを、再び口にする。この三ロミの間、本当に本当に幾度となくガウリイルに告げているのだ。

『あぁ、そうでした。シアも学園に行きたいと言っていましたね。それでは仕方がないので、今しばらく形を保っていて貰わねばでした残念ですが仕方がないのですいえ本当に仕方がないでしょうか』
「ガウ兄が会長ヴィートしてる生徒会ヴィデアンって、どんな事をしてるところ?」
『そうですね。学園は言わば小さな領地のようなものなので、将来の領地運営の勉強にはなります。第二学年になったマルが会計セガンになったので、更に協力して回しています。基本的には風紀を守る役割りですが、行事や様々な役員アマーソナという役割りをもった人員を使っての……』

 ここでブチッ、と突如音声が途切れる。
 通信魔法石トホァンと呼ばれる魔道具は蓄魔力式だが、満タンに魔力を貯めたところで三十分が限度なのだ。稼動可能時間が短く、いまだ要改良点が多い。

「はぁ、やっと切れた」
「いつもながら、素晴らしい御手前でございますシア様」

 溜め息をくフェリシアに、ミアの心からの称賛が送られた。
 ガウリイルはフェリシアと会話をする為に通信してくる筈なのだが、会えない時間サッドが長くなってくるとこうして度々たびたびダークモードになる。それを何とか言葉巧みに誘導し、方向修正していく事で現状を維持しているのだった。

 とはいえ、結局ガウリイルの言いたい事は分からなかった訳で。フェリシアに関する事で暴走するのはいつもの事なのだが、何かをこちらへ送った事しか伝わらなかった。

「……ん?」
「どうなさいましたか、シア様」
「ちょっと考え事」

 新しい紅茶を入れてくれたミアが、小首をかしげたフェリシアに声を掛ける。
 だが、フェリシアは先程の思考の中に引っ掛かりを覚えたのだ。

<グーリフ、もしかして……っ>
<あぁ、フェル。今ちょうど、チビ銀の魔力を纏ったリスを捕獲した>

 ハッとしてグーリフにスキル【以心伝心】テレパシーで聞こうとして、既に結論が出ていた。
 チビ銀ガウリイルの魔力を纏っているならば、魔力個人認証を突破出来て当然である。そしてガウリイルが対価なしに他者へ魔力を渡す筈もなく、更にあの性格からして易々と奪われるなんて事も有り得ない。

 きょうだいいち、魔力操作が得意なのだ。
 ラングロフ邸が魔力での個人認証をする理由を一番分かっているガウリイルなので、その辺りへの警戒心は半端ない。──『極端なフェリシア至上主義者』とも言える人物なのだ。

<そのリス、もしかしてタイ?>
<んあぁ?……頷いてやがる。何だ、まだ生きてたのか。とりあえず他には異常がなさそうだし、そっちに戻るぜ>
<うん。ありがとう、グーリフ>

 かなり記憶が曖昧になっているが、確かに人化するリス──否、獣化するリス種の少年、タイが昔ラングロフに侵入して来た事があった。
 あの時は最終的にガウリイルが彼の身柄を拘束した筈で、その後の経緯を聞かされていなかった為、フェリシアは完全に忘れていたのである。

「ミア。グーリフが男の子連れてくるって。あ、違うかな?リスかも」
「かしこまりました、シア様。お茶の準備をしつつ、警戒致します」

 フェリシアの言葉に首肯しつつ、周囲へ意識を配った。
 護衛の役割りでもあるミアは、グーリフの次に彼女のそばにいる時間サッドが長い。戦闘向きではないものの、魔力の高さからおもに防御を求められている事もあった。
 回復魔法の使い手でもある為、攻撃主体のグーリフと並び、フェリシアの護りなのだ。
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