「結婚しよう」

まひる

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第三章

5.危険、か【3】

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「そうですね」

 にこやかに答えた私に、ヴォルも柔らかな瞳を向けてくれます。
 不思議ですね。本来なら出会う事のない二人であったでしょう。だって、皇帝様の息子と農村出身の田舎娘──それが今、こうして隣に立っています。

「だが、この魔力液は危険か」

 あ、私の言った事を気にされています?先程の赤い液体を掲げ、ヴォルが考え込みます。
 炎の魔力の具現化物ですね。

「えっと……、それ自体が危険とかではなくてですね。魔法を使えない人にも魔法を使えるようになるならって事で、便利なんですけど危ない事もあるのではと思う訳でして……。あぁ~、私は何を言っているのでしょうか」

「力を誇示する者が増えると言う事か」

 私の言葉をヴォルがまとめてくれます。

「魔法は本来、魔力を持った人だけの力なのですよね?それを力だけ分けられてしまうと、人のいない場所で魔法が使える事になってしまいます」

 単純に思うに、悪い事が簡単に出来るようになってしまうのではないでしょうか。

「成る程。メルの言いたい事は分かった」

 私の曖昧な意見にも真っ直ぐ向き合ってくれるヴォルは、小さく頷いていました。
 道具の善し悪しを決めるのは人です。例え調理道具であっても、実際に人の命を奪う事が出来るのですから。
 でもこれって、便利を追い求める人に非があるって事ですか?あ、違いますね。人の心に非があるのですね。理由なく命を奪う事をするのは、人だけなのですから。

「俺が魔法の研究をするのは、魔物との関係性を知りたいからだ。他者へ魔力を便利道具として分け与える事が理由ではない」

 暗い思考に沈んでいた私に、ヴォルの言葉が響きました。あ、私は人間否定派ではないのですけど。

「魔物と言うのは、動物とは違うのですか?」

「違う。生命を持たず、魔力で生きている」

 今更ながらの問い掛けにも、ヴォルはきちんと答えてくれました。
 魔力で生きているというのは、初めて聞いたような気がします。でも『命』がないと言うのは、どう言う事でしょうか。首をかしげてしまう私です。

「簡単に言えば心臓がない。代わりに核を持っている」

「血が出ないのですか?」

「体液は出る。この魔力液と同じ様な、凝縮された魔力だ。だが、それ自体には意思がない。魔法としての反応をしない」

 私が理解していない事を察したようで、ヴォルが続けて説明をしてくれました。
 魔力と言うのは複雑で難しいものなのですね。『意思』が必要なのですか?あ、魔法っていう現象にする為には言葉でしたね。精霊との契約で──とか聞いたような気がしますよ?

「魔法を使える魔物もいるのですか?」

「いる」

 簡潔なお言葉です。
 今回の旅では出会わなかった気がしますね。でも実際に戦っていたのはヴォルですから、私が気付かなかっただけなのかもしれません。

「知能の高い魔物は精霊言語を使える。精霊もまた、人でも動物でもないモノだ。言葉を変えるなら、人に酷似した形の魔物」

 続けられたヴォルの言葉に、私はギョッとしてしまいました。
 人に酷似した魔物?私は思わず、周囲を漂う羽根を持った精霊さんひと達を見上げます。
 でも彼等──彼女達?──のふわりふわりとした動きを見ていると、とてもそのような危機感は感じませんね。
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