125 / 515
第三章
5.危険、か【3】
しおりを挟む
「そうですね」
にこやかに答えた私に、ヴォルも柔らかな瞳を向けてくれます。
不思議ですね。本来なら出会う事のない二人であったでしょう。だって、皇帝様の息子と農村出身の田舎娘──それが今、こうして隣に立っています。
「だが、この魔力液は危険か」
あ、私の言った事を気にされています?先程の赤い液体を掲げ、ヴォルが考え込みます。
炎の魔力の具現化物ですね。
「えっと……、それ自体が危険とかではなくてですね。魔法を使えない人にも魔法を使えるようになるならって事で、便利なんですけど危ない事もあるのではと思う訳でして……。あぁ~、私は何を言っているのでしょうか」
「力を誇示する者が増えると言う事か」
私の言葉をヴォルがまとめてくれます。
「魔法は本来、魔力を持った人だけの力なのですよね?それを力だけ分けられてしまうと、人のいない場所で魔法が使える事になってしまいます」
単純に思うに、悪い事が簡単に出来るようになってしまうのではないでしょうか。
「成る程。メルの言いたい事は分かった」
私の曖昧な意見にも真っ直ぐ向き合ってくれるヴォルは、小さく頷いていました。
道具の善し悪しを決めるのは人です。例え調理道具であっても、実際に人の命を奪う事が出来るのですから。
でもこれって、便利を追い求める人に非があるって事ですか?あ、違いますね。人の心に非があるのですね。理由なく命を奪う事をするのは、人だけなのですから。
「俺が魔法の研究をするのは、魔物との関係性を知りたいからだ。他者へ魔力を便利道具として分け与える事が理由ではない」
暗い思考に沈んでいた私に、ヴォルの言葉が響きました。あ、私は人間否定派ではないのですけど。
「魔物と言うのは、動物とは違うのですか?」
「違う。生命を持たず、魔力で生きている」
今更ながらの問い掛けにも、ヴォルはきちんと答えてくれました。
魔力で生きているというのは、初めて聞いたような気がします。でも『命』がないと言うのは、どう言う事でしょうか。首を傾げてしまう私です。
「簡単に言えば心臓がない。代わりに核を持っている」
「血が出ないのですか?」
「体液は出る。この魔力液と同じ様な、凝縮された魔力だ。だが、それ自体には意思がない。魔法としての反応をしない」
私が理解していない事を察したようで、ヴォルが続けて説明をしてくれました。
魔力と言うのは複雑で難しいものなのですね。『意思』が必要なのですか?あ、魔法っていう現象にする為には言葉でしたね。精霊との契約で──とか聞いたような気がしますよ?
「魔法を使える魔物もいるのですか?」
「いる」
簡潔なお言葉です。
今回の旅では出会わなかった気がしますね。でも実際に戦っていたのはヴォルですから、私が気付かなかっただけなのかもしれません。
「知能の高い魔物は精霊言語を使える。精霊もまた、人でも動物でもないモノだ。言葉を変えるなら、人に酷似した形の魔物」
続けられたヴォルの言葉に、私はギョッとしてしまいました。
人に酷似した魔物?私は思わず、周囲を漂う羽根を持った精霊さん達を見上げます。
でも彼等──彼女達?──のふわりふわりとした動きを見ていると、とてもそのような危機感は感じませんね。
にこやかに答えた私に、ヴォルも柔らかな瞳を向けてくれます。
不思議ですね。本来なら出会う事のない二人であったでしょう。だって、皇帝様の息子と農村出身の田舎娘──それが今、こうして隣に立っています。
「だが、この魔力液は危険か」
あ、私の言った事を気にされています?先程の赤い液体を掲げ、ヴォルが考え込みます。
炎の魔力の具現化物ですね。
「えっと……、それ自体が危険とかではなくてですね。魔法を使えない人にも魔法を使えるようになるならって事で、便利なんですけど危ない事もあるのではと思う訳でして……。あぁ~、私は何を言っているのでしょうか」
「力を誇示する者が増えると言う事か」
私の言葉をヴォルがまとめてくれます。
「魔法は本来、魔力を持った人だけの力なのですよね?それを力だけ分けられてしまうと、人のいない場所で魔法が使える事になってしまいます」
単純に思うに、悪い事が簡単に出来るようになってしまうのではないでしょうか。
「成る程。メルの言いたい事は分かった」
私の曖昧な意見にも真っ直ぐ向き合ってくれるヴォルは、小さく頷いていました。
道具の善し悪しを決めるのは人です。例え調理道具であっても、実際に人の命を奪う事が出来るのですから。
でもこれって、便利を追い求める人に非があるって事ですか?あ、違いますね。人の心に非があるのですね。理由なく命を奪う事をするのは、人だけなのですから。
「俺が魔法の研究をするのは、魔物との関係性を知りたいからだ。他者へ魔力を便利道具として分け与える事が理由ではない」
暗い思考に沈んでいた私に、ヴォルの言葉が響きました。あ、私は人間否定派ではないのですけど。
「魔物と言うのは、動物とは違うのですか?」
「違う。生命を持たず、魔力で生きている」
今更ながらの問い掛けにも、ヴォルはきちんと答えてくれました。
魔力で生きているというのは、初めて聞いたような気がします。でも『命』がないと言うのは、どう言う事でしょうか。首を傾げてしまう私です。
「簡単に言えば心臓がない。代わりに核を持っている」
「血が出ないのですか?」
「体液は出る。この魔力液と同じ様な、凝縮された魔力だ。だが、それ自体には意思がない。魔法としての反応をしない」
私が理解していない事を察したようで、ヴォルが続けて説明をしてくれました。
魔力と言うのは複雑で難しいものなのですね。『意思』が必要なのですか?あ、魔法っていう現象にする為には言葉でしたね。精霊との契約で──とか聞いたような気がしますよ?
「魔法を使える魔物もいるのですか?」
「いる」
簡潔なお言葉です。
今回の旅では出会わなかった気がしますね。でも実際に戦っていたのはヴォルですから、私が気付かなかっただけなのかもしれません。
「知能の高い魔物は精霊言語を使える。精霊もまた、人でも動物でもないモノだ。言葉を変えるなら、人に酷似した形の魔物」
続けられたヴォルの言葉に、私はギョッとしてしまいました。
人に酷似した魔物?私は思わず、周囲を漂う羽根を持った精霊さん達を見上げます。
でも彼等──彼女達?──のふわりふわりとした動きを見ていると、とてもそのような危機感は感じませんね。
0
お気に入りに追加
406
あなたにおすすめの小説
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
有能なメイドは安らかに死にたい
鳥柄ささみ
恋愛
リーシェ16歳。
運がいいのか悪いのか、波瀾万丈な人生ではあるものの、どうにか無事に生きている。
ひょんなことから熊のような大男の領主の家に転がりこんだリーシェは、裁縫・調理・掃除と基本的なことから、薬学・天候・気功など幅広い知識と能力を兼ね備えた有能なメイドとして活躍する。
彼女の願いは安らかに死ぬこと。……つまり大往生。
リーシェは大往生するため、居場所を求めて奮闘する。
熊のようなイケメン年上領主×謎のツンデレメイドのラブコメ?ストーリー。
シリアス有り、アクション有り、イチャラブ有り、推理有りのお話です。
※基本は主人公リーシェの一人称で話が進みますが、たまに視点が変わります。
※同性愛を含む部分有り
※作者にイレギュラーなことがない限り、毎週月曜
※小説家になろうにも掲載しております。
婚約者を友人に奪われて~婚約破棄後の公爵令嬢~
tartan321
恋愛
成績優秀な公爵令嬢ソフィアは、婚約相手である王子のカリエスの面倒を見ていた。
ある日、級友であるリリーがソフィアの元を訪れて……。
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
転生した貴族令嬢は、辺境の森で魔女となる
椎名さえら
恋愛
「お前との婚約は今ここで破棄する!」
幼い頃からの婚約者だった公爵嫡男に舞踏会の最中に
婚約破棄された 私ーーユリアーナ。
彼の後ろには、か弱く震える貴族令嬢の姿が。
そしてその時に気づいてしまったのは、
「あ、これ、前世で読んでいた恋愛小説の一部分と同じだ」
前世で好んで読んでいた、転生もの恋愛小説と
まったく同じ導入部分と気づき、仕方なく婚約破棄に同意した。
その後、貴族のしきたりに絡めとられて辺境の森へ追放となった。
ついてきてくれたのは、幼馴染みの公爵三男テオドールのみ。
6年後、誰からも忘れ去られた存在の私は魔女となるーー
____________________________
魔女って書いてるけど、魔法は使いません(ゴメン)
長編と書いてるけど、たぶん短編(あいまい)
ざまあ、を書いてみたい。
テンプレあるあるになったらゴメンナサイ。
皆さま、脳内に「ご都合主義」の魔法処理を先に
済ませてからお読みください。
「誤字脱字」「矛盾点」のスルースキルを磨く
良い修行になると思われます…
✴︎不定期更新ですが、朝と夜2回更新したい✴︎
大嫌いな令嬢
緑谷めい
恋愛
ボージェ侯爵家令嬢アンヌはアシャール侯爵家令嬢オレリアが大嫌いである。ほとんど「憎んでいる」と言っていい程に。
同家格の侯爵家に、たまたま同じ年、同じ性別で産まれたアンヌとオレリア。アンヌには5歳年上の兄がいてオレリアには1つ下の弟がいる、という点は少し違うが、ともに実家を継ぐ男兄弟がいて、自らは将来他家に嫁ぐ立場である、という事は同じだ。その為、幼い頃から何かにつけて、二人の令嬢は周囲から比較をされ続けて来た。
アンヌはうんざりしていた。
アンヌは可愛らしい容姿している。だが、オレリアは幼い頃から「可愛い」では表現しきれぬ、特別な美しさに恵まれた令嬢だった。そして、成長するにつれ、ますますその美貌に磨きがかかっている。
そんな二人は今年13歳になり、ともに王立貴族学園に入学した。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる