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第三章
2.恐れるな【2】
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不思議です。左手首の婚約の腕輪に触れた途端、私の中の不安が溶けていきます。先程までのザワザワと鳥肌が立つ程の恐怖も、フワリと温かなものに包まれているように消えていくのです。
私は自然と前へと視線を向ける事が出来ました。
「行くぞ」
そんな私を見て、ヴォルが耳元で小さく告げました。視線を向けると、いつもの無表情は心なしか表情が柔らかい──気がします。
「はい」
頷き返し、ヴォルと共に歩みます。しかしながら、実際は何処をどう歩いているのか分からない緊張の中にありました。先程とは違う緊張ですが。だって、お城ですよ?見たのも初めてなら、勿論入るのだって初めてなのです。広いです、床がピカピカですっ。
そのまま私はお城の一室に連れていかれました。周りにあるもの全て、高級品であるのが一目で分かる程の艶と輝きをしています。触るのが怖いです。ですがそんな私をよそに、周りを何人かの女性が取り囲みます。えぇっ?!どうなっているのですかっ?しかもいつの間にかヴォルがいないではないですかっ。
あれ……部屋に入ったのはもしかしなくても私だけだったのですね?
「あ、あのっ?!」
「身なりを整えて頂きます。このままのお姿では謁見など認められません」
「あの……、ヴォルはっ?!」
「……ヴォルティ様は別の部屋でお召し替えをされています」
淡々と返され、私は言葉をなくしてしまいました。何でしょうか。私の意思は……関係ないのですよね、やっぱり。
そうしてあれよあれよと言う間に、お風呂から着替えまでされてしまいました。しかもドレス。
淡い水色の布地をたっぷりと使ったドレスは、裾へいく程に色が濃くなっていますね。豪奢なのですけれど、着なれなさすぎて恥ずかしすぎます。しかもこの歳になって人にあれこれされるなんて……。
「メル」
入り口のところで待つよう指示されて茫然と立っていたら、同じく着替えが終わったらしいヴォルに声を掛けられました。
……ぅわ~、王子様ですかっ?いつも見慣れている冒険者の装いではなく、高級な白いフリルをあしらったようなツルツルした生地で出来たシャツと同じく真っ白なパンツです。しかも、マントまでしているではありませんか。全身が白一色のヴォルを見るのは初めてです。
そんな風に私が不躾な視線を送っていたのと同じ様に、ヴォルも私をジッと見ていたようです。不意に後ろから声を掛けられてしまいました。
「お二方とも、お互いに見つめ合いすぎです。謁見のお時間が迫っておりますので、お早めにお願い致します」
「……分かった。行くぞ、メル」
「えっ……あ、はい」
ヴォルに手を取られ、アタフタしながら振り返ります。
今声を掛けてくれたのは私の着替えを手伝ってくれた方の一人で、私の質問に淡々とですが答えてくれた侍女長と呼ばれている女性でした。
少し年配なのでお母さんくらいの年齢なのかなと思っていましたが、他の侍女さん達にキビキビと指示をしていてとても格好良かったです。
私は彼女にペコリと頭を下げ、そして改めてヴォルと同じ方向へ視線を移しました。
私は自然と前へと視線を向ける事が出来ました。
「行くぞ」
そんな私を見て、ヴォルが耳元で小さく告げました。視線を向けると、いつもの無表情は心なしか表情が柔らかい──気がします。
「はい」
頷き返し、ヴォルと共に歩みます。しかしながら、実際は何処をどう歩いているのか分からない緊張の中にありました。先程とは違う緊張ですが。だって、お城ですよ?見たのも初めてなら、勿論入るのだって初めてなのです。広いです、床がピカピカですっ。
そのまま私はお城の一室に連れていかれました。周りにあるもの全て、高級品であるのが一目で分かる程の艶と輝きをしています。触るのが怖いです。ですがそんな私をよそに、周りを何人かの女性が取り囲みます。えぇっ?!どうなっているのですかっ?しかもいつの間にかヴォルがいないではないですかっ。
あれ……部屋に入ったのはもしかしなくても私だけだったのですね?
「あ、あのっ?!」
「身なりを整えて頂きます。このままのお姿では謁見など認められません」
「あの……、ヴォルはっ?!」
「……ヴォルティ様は別の部屋でお召し替えをされています」
淡々と返され、私は言葉をなくしてしまいました。何でしょうか。私の意思は……関係ないのですよね、やっぱり。
そうしてあれよあれよと言う間に、お風呂から着替えまでされてしまいました。しかもドレス。
淡い水色の布地をたっぷりと使ったドレスは、裾へいく程に色が濃くなっていますね。豪奢なのですけれど、着なれなさすぎて恥ずかしすぎます。しかもこの歳になって人にあれこれされるなんて……。
「メル」
入り口のところで待つよう指示されて茫然と立っていたら、同じく着替えが終わったらしいヴォルに声を掛けられました。
……ぅわ~、王子様ですかっ?いつも見慣れている冒険者の装いではなく、高級な白いフリルをあしらったようなツルツルした生地で出来たシャツと同じく真っ白なパンツです。しかも、マントまでしているではありませんか。全身が白一色のヴォルを見るのは初めてです。
そんな風に私が不躾な視線を送っていたのと同じ様に、ヴォルも私をジッと見ていたようです。不意に後ろから声を掛けられてしまいました。
「お二方とも、お互いに見つめ合いすぎです。謁見のお時間が迫っておりますので、お早めにお願い致します」
「……分かった。行くぞ、メル」
「えっ……あ、はい」
ヴォルに手を取られ、アタフタしながら振り返ります。
今声を掛けてくれたのは私の着替えを手伝ってくれた方の一人で、私の質問に淡々とですが答えてくれた侍女長と呼ばれている女性でした。
少し年配なのでお母さんくらいの年齢なのかなと思っていましたが、他の侍女さん達にキビキビと指示をしていてとても格好良かったです。
私は彼女にペコリと頭を下げ、そして改めてヴォルと同じ方向へ視線を移しました。
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