「結婚しよう」

まひる

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第二章

2.メルは今のままで良い【4】

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「お帰りなさいです、ヴォル。急に後ろから声を掛けないでください、ビックリするじゃないですか」

「そうか」

 心臓がバクバクいっている私に、何でもない事のように答えるヴォルです。いきなりこんな近くに綺麗な顔があるなんて、多少は見慣れたとは言え本当に勘弁してください。心臓がもたないです。というか、買い物は終わったのですかね?

「何をしている」

「あ、今更なんですけど……旅の記録というかなんというか」

「記録」

「はい。私は村から出た事がなかった事もあるのですが、この旅が本当に最初で最後な感じかなと思いまして。せめて通ってきた場所の記録でも残しておけば、後で振り返ったり出来るような気がしたのです」

 ヴォルが都度通過点の名前を教えてくれていたのですが、どうも私は物覚えが良くなくて忘れてしまうのです。

「……そうか」

 本当はヴォルと二人で旅をしたのだと、夢ではなかったのだと自分に言い聞かせる為の証拠がほしかったのです。この旅は、婚前旅行なのだと……強引にでも思いたいのですね。愛がなくても、記憶は記録として残るのですから。

「通過点、覚えているのか」

「あ、すみません。全くです」

 恥ずかしい限りですが、素直に告げます。

「初めから教えよう」

「あ……、ありがとうございますっ」

 まさか、また教えてくれるとは思いませんでした。ヴォルは本当に優しいです。教師に向いているかもしれませんね。あ、この無表情は頂けませんが。

 そしてヴォルに教えてもらい、私の出身地であるマヌサワの農村からここサウルクの町までの通過点名を書き記します。それにしても、こんなにもたくさんの場所を通ってきたのですね。思えば遠くまでやって来たものです。

「そう言えば、ヴォルは地図などを見ている訳ではないのですよね。何処かに看板とか……、なかったですよ?」

 この大陸に幾つの森や湿地があるのかは分かりませんが、その全てを把握しているなんてないでしょうし。だいたい森とかですと、見た目もそんなに変わらないような気もします。

「記憶している」

 ……やっぱりこの人は普通じゃないですね。今思い出しましたが、初めて会った時のヴォルは言葉も違いました。

「あの……、今から行くセントラルって……」

 先程までのモヤモヤは、記録を書くという行為に没頭した為かスッカリ消えていました。えぇ、単純なんです。でも新たな問題発生です。

「どうした、メル」

 言葉を止めた私に、ヴォルが問い掛けてきます。今更な問題発覚なんですけど。
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