「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
509 / 515
第十章

11.どうだと思っている【4】

しおりを挟む
 食事を作り終えたベンダーツさんはヴォルへ声を掛けに行っていたのですが、何故か再び一人でこちらへ戻ってきました。

「……寝ちゃってた」

「そうですか……、やはりまだ身体がつらいのでしょうか」

「まぁ、ね。ってか、普通はもっとうるさい程わめくんだけどねぇ。……俺が義手の勉強の為に行った医院ではさ。それこそ良い年した大人が、ギャアギャアとみっともなく泣いて叫んでたよ。それで気絶しちゃうなんてのもざらだし」

 ヴォルが心配で仕方がない私の気をまぎらす為か、笑って話すベンダーツさんです。
 でも大人の男性が涙すると言う事は、それ程の苦痛を受けるという事でした。
 あの時のヴォルを見ていた限り、皮膚の下でおこなわれる義手との戦いだったと想像出来ます。
 私では我慢というレベルではなく、ショックで死んでしまうかもしれないものでした。それを耐えられるだけで凄いです。

もとはと言えば、ヴォルが勝手に腕を魔法石にしちゃうからダメなんだけどさ。……あぁ。でもこれからは、あの魔物が変じた大きな魔法石があるから大丈夫かなぁ」

「それだけではない」

 突然聞こえたヴォルの声に、ベンダーツさんと私は肩を跳ねさせて驚きました。
 私達は馬車の裏手にいたので、ヴォルが横になっていた場所からは死角になっています。近付いて来るのも分かりませんでした。
 しかしながらヴォルには、ベンダーツさんを手伝いに行く事は伝えてあります。それなので身体を動かすのに支障がないのならば、こちらへ来てもおかしくはありませんでした。

「な、何……起きたの?ってか、もしかして立ち聞き?」

「……に落ちない。お前だけがメルと楽しそうに話している」

 驚きから逸早いちはやく立ち直ったベンダーツさんは、からかいを含みつつ問い掛けます。
 けれどもそれに返すでもなく、ムッとした表情を浮かべるヴォルでした。
 そしてまだ顔色が悪いので、体調が万全とはいかないようです。

「何、嫉妬?悋気りんきって言った方が分かる?」

「嫉妬……」

 ベンダーツさんの言葉にヴォルが眉を寄せました。
 その意味をどう考えたのか、続けられた言葉に私は一気に顔が熱くなります。

「それでも良い。体裁ていさいの悪さなどは構わない。マーク。メルに変な気を起こしたら、ただでは済まさないぞ」

 真面目な顔でベンダーツさんへ言い放つヴォルでした。
 その視線が鋭いので、牽制の意味も含んでいるようです。
 しかしながら、相手はベンダーツさんなのでした。

「……はい、はい。分かってるって、そんな事。大体、メルが俺に振り向きもしないから。良かったね、メル。ヴォルが嫉妬してるんだって。愛されてるねぇ」

 呆れ顔をヴォルへ向けるベンダーツさんです。
 更には、既に顔が真っ赤になってるだろう私に、柔らかく微笑んだのでした。

「で、何がそれだけじゃないって?……何だよ、メルに笑い掛けてもダメなのか?」

 改めて問い掛けたベンダーツさんですが、ヴォルの表情は固いままです。
 この三角形的な立ち位置だと、互いの表情が全て確認出来るのでした。
 最早もはや取り繕う余裕が私にはないので、情けない表情ですみませんと謝りたくなります。

「……良い。魔法石の事だ。戦ってみて分かった事だが……あれは魔物であり、この世界の魔力の坩堝るつぼだった」

 小さく溜め息をついたヴォルは、それで気持ちを切り替えたのか話始めました。

「ヴォルの言うその坩堝るつぼって、ずっと探してたやつだろ?結局魔物だったの?」

坩堝るつぼとは、言葉からしたら種々しゅじゅのものが入りまじっている状態やその場所の事だ。そしてこの世界の魔力は、全てを支える精神力でもある」

 先に坩堝るつぼの説明をしてくれます。
 以前にも少し聞いた事があるかも知れませんが、ヴォルは先程『魔物が坩堝るつぼだった』と言われました。

「協会が言っていた魔力の吸放出の件も、その呼吸と考えれば納得もいく。そしてあの巨大な魔物は、単体でありながら全ての魔力を吸放出していた。俺はそれを利用して魔法石化し、大地から魔力が放出される現象を制御する為の窓口に変えた」

 複雑な感情を隠さずに問い掛けるベンダーツに、ヴォルは淡々と説明をします。
 けれども私には内容が難し過ぎました。そもそも、窓口とはどういう意味なのでしょうか。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...