「結婚しよう」

まひる

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第九章

7.共にありたい【3】

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 宿のお会計を済ませ、私達は船着き場までやって来ました。
 準備万端、いよいよ船に乗ってグレセシオ大陸を離れます。

「手続きは終了致しました。乗船をおこなっても構わないそうです」

「分かった。行こう、メル」

 それまで少しだけ離れていたベンダーツさんの言葉に、ヴォルが私の方を振り向きました。
 無く手を差し出してくれるヴォルに、私は照れながらも静かに自分の手を重ねます。

「はい」

 私は顔を上げてヴォルを見上げ、微笑み返しました。
 手荷物はベンダーツさんが持ってくれています。ヴォルと私はてぶらですが、この場には彼の地位を知っている方々かたがたがいるので立場上仕方がありませんでした。
 そしてベンダーツを含め、三人で連れ立って船に乗り込みます。視界のすみに、騎士団の集団が見送りの為らしく並んでいるのが見えました。あくまでも船の出港を見守っているていですが、確実に私達が対象だと思われて気が重くなります。
 ちなみにウマウマさん達は、馬車と共に既に荷物として乗船済みなのでした。

「メル、足元に気を付けて」

「はい、ありがとうございます」

 大きな船ですから、階段をのぼって行くだけでも労力をようします。ベンダーツさんが先を行き、私とヴォルの順に続きました。
 船室は三人で一室でしたが、とても豪華な作りで小さな個別の部屋が接しています。ベンダーツさんの説明だと、従者や侍女の方用の別室との事でした。──つまりは、そういう方々かたがたの使われる高価なお部屋という事です。

「こ、ここって高くないですか?何だか凄く立派なのですけど……」

「前回より良い部屋ではある」

 怖々とした私の言葉に続けるように、ヴォルも軽く部屋を見回して告げました。

「前回は身分を隠した上で、お二人でのご利用だったからです。ですがここなら私は別室で待機が出来ますので、二室確保するより有用なのですよ」

 ベンダーツさんは普通だと言わんばかりです。
 確かに、三人であの二人部屋は狭いかも知れませんでした。──と言うかユースピアの港町では二人部屋だった為、ずっと床で寝ていたベンダーツさんです。
 当たり前ですが、元々の身分は私よりもベンダーツさんの方が上でした。それを差し置いて私がベッドを使っていたので、拒否権は私にないですが精神衛生上あまり良くありませんでした。
 彼もきちんとベッドで寝てくれるなら、三人部屋でも特別室でも構わないと私は思う事にします。──ですがそれでも費用は気になります、中身は庶民ですから。

「メルシャ様、どうか料金の方は気になさらないで下さい。ヴォルティ様に同行するという理由で、私はそれなりの費用を預けられています」

 微笑みつつも、ベンダーツさんは『それなり』と言われました。
 聞きたくないですが、それって私にしてみれば『凄くたくさん』と言う事ではないでしょうか。

「初耳だな」

「今初めてお伝えしたのですから当たり前です。前回ヴォルティ様お一人で旅をなされた時はどうであれ、私はお二人がご不自由のないように取り計らう役目もあります」

 ベンダーツさんは胸に手をあて、嘘偽りのない言葉だと示しています。
 確かにここに至るまでの支払いは、全てベンダーツさんが担っていました。

「前は魔物討伐をしながらの旅だった。お前がいなくとも、ギルドを通じて報酬が得られたからな」

「今回の旅では、さすがに全ての場所で冒険者をよそおいきる事は出来ません。メルシャ様は戦闘能力が皆無かいむですからね」

 悪びれないヴォルの言葉と、事実のみを告げるベンダーツさんです。
 すみません、魔物との戦いに私は全く役に立ちませんでした。そればかりか他にも──、何にも役に立たないです。
 戦闘だけではなく──料理や他の手続きなどにしたって──、全てヴォルとベンダーツさんがおこなってくれていました。
 私、今更ですが足手まといでしかないです。
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