「結婚しよう」

まひる

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第九章

3.魔力の質は個性【3】

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 フワリと意識が戻りました。

「起きたのか、メル」

「あ……おはようございます、ヴォル」

 ヴォルから声を掛けられ、私も朝の挨拶をします。
 それにしても、あの後いつの間にか眠っていたようでした。何故だか私、いつもヴォルより早く寝て遅く起きている気がします。

「すみません、何だか私ばかり寝ています」

「問題ない。メルが休まれば良い。それに、俺もアイツも睡眠をとっている。気にする必要はない」

 頭を下げる私に、ヴォルは扉の方を指し示しました。
 アイツというのは、勿論ベンダーツさんです。──と言うかいつ戻って来たのか気付きもしませんでした。
 見たところ怪我などはされていないようでホッとします。

「おはようございます、ベンダーツさん。お帰りなさい、無事で安心しました」

「おはようございます。ありがたき御言葉、恐縮いたします」

 既に起きていたようで、入り口のところに立っていたベンダーツさんでした。
 壁の近くにシーツが折り畳まれているのを見る限り、床で休んだようです。確かにベッドは一つしかありませんが、私は爆睡していたので申し訳なく思ってしまいました。

「メル、船はすぐに出ないようだ。二日後にマグドリア大陸からの定期便が来るらしい」

「そうなのですか。では、それまではゆっくり休めますね」

 ベンダーツさんの件で内心反省していた私ですが、ヴォルが聞伝ききづたえの報告をくれます。
 そして私はその言葉を受け、安堵してしまいました。何しろ、セントラルを出てからほとんど休みなく旅を続けていますからね。
 ヴォルとベンダーツさんは魔物との戦いもおこなってきた訳ですから、のんびりした時間などは取れなかった筈です。

「そうだな。とりあえず動く先がない」

「ヴォルティ様。本日はヨルグト騎士団長との会談がございます」

「会談?尋問だろ」

 ベンダーツさんの言葉へ、わずかにヴォルが苦い顔を見せました。
 面倒だと口では言わなくても瞳が訴えています。

「そうかも知れませんが。昨夜ヨルグト騎士団長は言葉通り、宿周辺を数人の騎士に護衛させていました。私の出入りの際に尾行されたくらいです」

「動向を見張られているのか」

「いえ……。私が思うに、あれは純粋に護衛のつもりではないかと。何しろこの町は住人が新しい事もあり、治安自体が落ち着いていないようですからね」

 感情なく報告するベンダーツさんでした。
 私達は好意に慣れていないので、純粋に心配をされいても素直に受け取れない感じなのです。
 そして現在は自警団の発足まで至っていないらしく、騎士団の方々が見回りをしている状態のようでした。

「どうであれ、俺は行動を阻害そがいされなければ問題ない」

 もはや諦めたのか、ヴォルは鼻で笑うように言い捨てます。
 ヴォルのこういうところは、皇太子なのだと思い出すと納得してしまいました。普通に生活していたら、こんなにも自分を主張出来ないですから。──いえ、単にヴォルの精神が強いのかもしれないと思い直しました。
 小心者の私ではとても無理です。

「ヴォルティ様は自由にお過ごし頂いても構わないのでしょうが、メルシャ様がいらっしゃる事をお忘れなきよう」

「分かっている」

 ベンダーツさんの指摘に、ヴォルの腕の力が強まりました。
 ベッドから起き上がったものの、何故だかヴォルに抱き締められたままなのでした。
 ──えっと……、お腹が空きませんか?
 とりあえずヴォルに目で訴えます。 
 申し訳ありませんが、私は食い気の方が優先なのでした。
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