414 / 515
第九章
2.認めている【4】
しおりを挟む
「すみません、ヴォルティ様。こちらの騎士団の方々がどうしてもお迎えをと仰るので断り切れませんでした」
深く頭を下げるベンダーツさんでした。
私の怯えに気を悪くしたのか、ヴォルがベンダーツさんへ鋭い視線を向けたからのようです。
でもそこはベンダーツさんですから、ヴォルの不機嫌な視線にも何のそのでした。すぐに言葉を返して来たのは元より用意していた台詞だからでしょうし、ヴォルの視線が鋭いくらいでベンダーツさんは怯まないのです。
「……部屋は」
「はい、この宿の二階でございます。町長邸は例の物の安置場所になっておりまして、市井の宿しかございませんでした」
「問題ない」
ヴォルの問い掛けにベンダーツさんが腰を低く答えました。
市井の宿などと言われましたが、旅の宿泊は野宿か民間の宿です。何の問題もありませんでした。そして『例の物の安置場所』と言葉を濁して言ったのは、知っていても口外してはならないのだという事のようです。
そしてヴォルは周囲の人に一切の関心を向ける事なく──人に囲まれる事に慣れているのもあるかもしれませんが──ベンダーツさんと言葉を交わした後、宿屋へ足を向けました。
「あの、ツヴァイス様。申し訳ございませんでした」
突然横から声が掛かり、私達の足が止められます。
「……スマクトブ様、今は」
ベンダーツさんが制しましたが、足を踏み出した男性は止まりませんでした。──そしてお名前からしてどうやらこの人、先程ベンダーツさんと言葉のやり取りをしていた方のようです。
見た目は他の人達同様に銀色の鎧で全身を包んでいました。そして彼だけ今は頭部の装備を外し、何故だか片膝をついています。俯けているので顔は見えませんが、その金色の髪は短く整えられていました。
「先程は貴方様の従者に失礼な事を申しました」
無言で見下ろすヴォルに構わず、スマクトブさんは弁解の言葉を綴ります。
「申し訳ございません、ヴォルティ様。スマクトブ様、今はどうかお引き取りください。主は長旅で大変お疲れです」
再度ベンダーツさんが間に入り、ヴォルに頭を下げつつスマクトブさんに引くように告げました。
ベンダーツさんが言っている事は状況から不思議ではありませんが、スマクトブさんは何だか物凄くおかしな事になっている気がします。
「私の話を……」
「煩い。ヨルグト騎士団長殿。貴殿の騎士団での教育はこれか」
それでも食い下がるスマクトブさんでしたが、ヴォルは一人の騎士さんに視線を向けて問い掛けました。
流れからするに、この人がヨルグト騎士団長さんのようです。スマクトブさんと比べると、二まわりは大きな体つきの男性でした。
その筋肉質の肉体には無駄な脂肪分がなさそうで、鎧は同じですが彼一人だけ金色の飾りが肩についています。
「申し訳ございません、ツヴァイス様。スマクトブ、引け。見苦しい」
ヨルグト騎士団長さんはスマクトブさんを一瞥すると、鋭い声で命じました。
それは大きな声という訳でもないのですが、スマクトブさんはびくりと身体を震わせます。
「申し訳……ございません」
小さく呟いた後、漸くスマクトブさんが立ち上がりました。
そして項垂れた姿勢のまま、他の騎士の人達とこの場から立ち去っていきます。力関係が分かりました。
「訪問の詳細は明日、私がこちらに伺います。どうか本日はごゆるりとお休みくださいませ。なお、こちらの警護は私達の方で務めさせて頂きます」
「……好きにしろ」
深々と頭を下げたヨルグト騎士団長さんでしたが、ヴォルは全くの信頼のない言葉を返します。
そもそも警護なんて必要ないですし、誰かがいる事の方が緊張してしまうのですが──この場では言えませんでした。
深く頭を下げるベンダーツさんでした。
私の怯えに気を悪くしたのか、ヴォルがベンダーツさんへ鋭い視線を向けたからのようです。
でもそこはベンダーツさんですから、ヴォルの不機嫌な視線にも何のそのでした。すぐに言葉を返して来たのは元より用意していた台詞だからでしょうし、ヴォルの視線が鋭いくらいでベンダーツさんは怯まないのです。
「……部屋は」
「はい、この宿の二階でございます。町長邸は例の物の安置場所になっておりまして、市井の宿しかございませんでした」
「問題ない」
ヴォルの問い掛けにベンダーツさんが腰を低く答えました。
市井の宿などと言われましたが、旅の宿泊は野宿か民間の宿です。何の問題もありませんでした。そして『例の物の安置場所』と言葉を濁して言ったのは、知っていても口外してはならないのだという事のようです。
そしてヴォルは周囲の人に一切の関心を向ける事なく──人に囲まれる事に慣れているのもあるかもしれませんが──ベンダーツさんと言葉を交わした後、宿屋へ足を向けました。
「あの、ツヴァイス様。申し訳ございませんでした」
突然横から声が掛かり、私達の足が止められます。
「……スマクトブ様、今は」
ベンダーツさんが制しましたが、足を踏み出した男性は止まりませんでした。──そしてお名前からしてどうやらこの人、先程ベンダーツさんと言葉のやり取りをしていた方のようです。
見た目は他の人達同様に銀色の鎧で全身を包んでいました。そして彼だけ今は頭部の装備を外し、何故だか片膝をついています。俯けているので顔は見えませんが、その金色の髪は短く整えられていました。
「先程は貴方様の従者に失礼な事を申しました」
無言で見下ろすヴォルに構わず、スマクトブさんは弁解の言葉を綴ります。
「申し訳ございません、ヴォルティ様。スマクトブ様、今はどうかお引き取りください。主は長旅で大変お疲れです」
再度ベンダーツさんが間に入り、ヴォルに頭を下げつつスマクトブさんに引くように告げました。
ベンダーツさんが言っている事は状況から不思議ではありませんが、スマクトブさんは何だか物凄くおかしな事になっている気がします。
「私の話を……」
「煩い。ヨルグト騎士団長殿。貴殿の騎士団での教育はこれか」
それでも食い下がるスマクトブさんでしたが、ヴォルは一人の騎士さんに視線を向けて問い掛けました。
流れからするに、この人がヨルグト騎士団長さんのようです。スマクトブさんと比べると、二まわりは大きな体つきの男性でした。
その筋肉質の肉体には無駄な脂肪分がなさそうで、鎧は同じですが彼一人だけ金色の飾りが肩についています。
「申し訳ございません、ツヴァイス様。スマクトブ、引け。見苦しい」
ヨルグト騎士団長さんはスマクトブさんを一瞥すると、鋭い声で命じました。
それは大きな声という訳でもないのですが、スマクトブさんはびくりと身体を震わせます。
「申し訳……ございません」
小さく呟いた後、漸くスマクトブさんが立ち上がりました。
そして項垂れた姿勢のまま、他の騎士の人達とこの場から立ち去っていきます。力関係が分かりました。
「訪問の詳細は明日、私がこちらに伺います。どうか本日はごゆるりとお休みくださいませ。なお、こちらの警護は私達の方で務めさせて頂きます」
「……好きにしろ」
深々と頭を下げたヨルグト騎士団長さんでしたが、ヴォルは全くの信頼のない言葉を返します。
そもそも警護なんて必要ないですし、誰かがいる事の方が緊張してしまうのですが──この場では言えませんでした。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる