「結婚しよう」

まひる

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第九章

1.手が省(はぶ)ける【2】

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「魔物の体内から取れる魔法石は岩石状で、そのまま魔物の形はしていないよ。魔法石は基本的に加工して使うんだし」

 疑問符を浮かべていた私を見かねてか、ベンダーツさんが楽しそうに話してくれます。
 あの魔法石が元魔物だとすると、相当大きなサイズなのではないかと想像してしまいました。そして岩のような原石であれば、削って何かを形作りたくなる気持ちは分からなくもないです。

「魔法石は砕いた欠片すら様々な用途に使われる」

「そうだね。どちらかと言うと、加工する事の方がほとんどかな。だって大きいと高額だし、石像に見えても魔法石が生き物だった事を感じ取れない魔力所持者はいないからね。魔力を持っていない人の場合、本当に生きていた人間だった事を知っているのは王都なんかの極一部だけどさ。知らない人も本物過ぎるのは精神衛生上避けたいみたいなんだよねぇ。恩恵に預かっておいて勝手なんだけど」

 淡々と話すヴォルに続けるように、ベンダーツさんは手を振って大袈裟に告げました。
 でも、ベンダーツさんの言う事は分かります。私が始めて人形の石像を見たのはセントラルの地下でした。
 それは本当に生きている人かと思う程の精巧な石像で、怒りや苦しみなどの感情が手に取るように見えたのです。──まぁ、本当に元人間だったのですけど。

「メルは地下魔法石を見たから分かると思うけど、あれはそこらに置けないでしょ。だから加工するの。手を加えないのは強い魔法石だけで、大抵城の地下に安置されるんだよ。あ、加工すると力が濁るとか言われてるけど……真相はどうかな、ヴォル」

「俺に聞くな」

 ベンダーツさんの問い掛けに冷たく返すヴォルでした。
 魔力所持者だけではなく、魔法石も存在魔力を計測されるみたいです。話し振りからすると、大きさだけではなく質も関係してくるようでした。

「……魔法石って、何処にでもあるのですか?」

「ん~、これは難しいね。確かにあちらこちらにあるけど、俺もまさか地面から魔法石化させる光があふれて来るなんて知らなかったし。出回っている量を考えると、今回のような大きな周期の現象以外にも、案外小出しに魔法石化光が出ているのかもね。魔力協会が魔法石化させるのは、力のある魔力所持者だけだし」

 私の問いに首をすくめるベンダーツさんです。
 お互いに地下の魔法石安置所を知っているので、今回が初めて目にした訳ではないと分かっての話し方でした。
 でも、魔力協会が作った魔法石だけ──魔力所持者の魔法石だけがそのまま残されるのは不思議です。

「ん?おかしいかな。……だって、魔力協会職員だって魔力所持者なんだよ。精霊に好かれた者って、普通の魔力所持者何人分の魔力持ちだと思う?」

 納得していなさそうな私に、御者台から楽しそうにベンダーツさんが振り向きました。
 そんなに微笑まれても困ります。そもそも精霊さんに好かれた者と言われても、私はヴォルしか知りませんでした。

「それを大勢が取り囲んで魔法石化するんだ。そうやって魔法石となった精霊に好かれた者は、魔力所持者にとって最早もはや神的扱いだよ。実際には自分達でその命を奪ってるんだけど、そこは触れる事なく石像にしてあがたてまつるってやつだな。勿論、魔物や盗賊等の手から守る為に周囲に強固な結界を張り巡らせるって手間まで掛けてね」

 ベンダーツさんのそれは、呆れを含んだ口調に変わります。
 不思議ですが、実際にそうして成り立っている事も事実のようでした。魔力という特別な力とそれを扱う側の考えは、私のような魔力を持たざる者からしてみれば理解不能な問題でしょうか。
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