「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
394 / 515
第八章

8.魔力協会の人間だ【4】

しおりを挟む
「ご無沙汰しております、協会長殿」

 ヴォルが白ひげの協会長さんに応じました。
 二人の雰囲気を見る限り、ただの知り合いでは無さそうです。勿論私は初見ですが、この場の雰囲気も相まって緊張感が増していました。

「まさか御主おぬしが、査定さていでもないのにここへ足を運ぶとはな」

「俺にも色々と事情がありましてね」

 お二方の感情を見せない会話が続きます。
 査定さていとは何でしょうか、初めて聞きました。言葉通りの、調査をして評価をするアレ・・でしょうか。
 魔力協会の人の言葉ですから、想像するに魔力関連であろうとは思いました。けれども問い掛けられる空気ではないのです。

「して、そこの娘が御主おぬしの姫か」

「はい」

 話の流れから突然二人の視線が私に向けられた。
 私は思わず背筋を伸ばしてしまいます。

「ふむ。まさか、市井しせいたみから連れてくるとは……。話に聞いた時は驚いたが、御主おぬしらしいと思えば納得出来るな」

 協会長さんが私を見たまま告げました。
 わずかに瞳を細めてくれたので、悪感情を向けられた訳ではない事は何となく分かります。
 でも誉めていないのだとは分かりました。普通にヴォルの立場や血筋から考えれば、高位の貴族から妻をめとる筈ですから。

「ところで協会長。このたびの騒動は何故なにゆえに」

 ヴォルが話を変え、町の現象についての核心をついてきます。
 ここにいるのですから、知らない筈もありませんでした。そして旧知の仲とは言え、ヴォルは協会長さんと世間話をしに来た訳ではないのです。

「ここの魔法石か?ふむ。御主おぬしも感じているだろう。世界の魔力が大きく流れている事を」

「はい」

「それを食い止めるがゆえの措置だよ」

 再び感情の見えない会話を始めました。
 それは先程、あの怒っている魔力協会職員の人が言っていた事です。

「ではケストニアのたみに了承を得たのですね」

「それはない」

 ヴォルの問い掛けは直ぐ様否定されてしまいました。
 被害者の方達の了解なしとは、人の命を何だと考えているのでしょうか。

「……そうですか」

 ヴォルはそれだけ返しました。
 ──えぇっ?!怒らないのですか?
 驚いてヴォルの顔を見上げると、まぁ──かなり怒っています。近しい人にしか分からないかもですが、彼のこの無表情は相当怒っている時のものでした。
 ソロリと後ろを振り向いてみるとやはりというか、ベンダーツさんも腰が引けているように見えます。

「ここのたみは世界のかてとなったのだ。感謝こそされ、恨む筈もなかろうて」

 ヴォルの怒りに気付かないのか、協会長さんは話を続けました。
 何でこんな風に、勝手に皆の感情を答えられるのでしょうか。当たり前の事ですが、誰だって命を奪われたくはありません。
 世界の為だとか言われても、正直『ごめんなさい』って言いたくなると私は思いました。

「それが魔力協会のやり方なの?」

 陶酔したような協会長の言葉に、ベンダーツさんは真顔で問います。

「今までもそうしてきたのだ。新たに精霊に好かれた者が現れなければ、更にこれから幾らでも町や村を魔法石にしよう。それが世界を守る事である」

 自分達のおこないを、少しも間違っていると思っていない魔力協会の人達でした。
 今までもって事は、過去何度もこの凄惨せいさん史実しじつを残してきたと言う事ですよね。
 それ程までに魔法、魔力が必要なのですか?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...