「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
386 / 515
第八章

7.仲間を救ってほしいと【2】

しおりを挟む
「精霊は危険回避の手段を取っただけだ」

 目を細めているベンダーツさんに、ヴォルが淡々と告げます。
 私の意見と同じだったので、一人で首肯してしまいました。

「何、俺の顔が怖いって?」

「そう言う事だろ」

「あっ、ケンカはダメですよ?……ほら、精霊さんが怖がってしまいますからっ」

 ヴォルとベンダーツさんの言い合いが始まりそうだったので、早々に止めに入る私です。
 二人は仲が悪い訳ではないのに、どうしてすぐに言い合いを始めるのか不思議でした。
 ──もしかしたらこれは遊びの一つなのかもです。

「……それで、どうして仲間の救出依頼?元々精霊ってば、人間の存在を認めていないでしょ。魔力の供給源かもしくは玩具おもちゃとしか思ってないのに、何でそんな下等な生命体である人間にお願いしに来るの?」

 不満が抜けきらない表情のベンダーツさんは、大袈裟に両手を上に向けて問い掛けてきました。
 言葉はキツいのですが、ベンダーツさんの言い分は分からなくもないです。私も今まで聞いた精霊さん情報では、明らかに優位に立っているのは精霊さん側でした。
 魔法は精霊さんから力を借りて使わせてもらっているのですし、人の持つ魔力だけではなし得ないものだとも聞いて知っています。そんな理由から、精霊さんは何でも出来ると思っていました。

「現状の敵が人間だからだ」

 またしても淡々と告げるヴォルです。
 ──はい?
 まばたきだけを繰り返して、ヴォルの言葉の意味を考えました。『精霊さん』の『敵』が『人間』です。何度か頭の中でリピートした結果、聞き間違えではなさそうでした?

「えっ?それなら尚更、人間に依頼するなんておかしくない?」

 ベンダーツさんの驚きは私と同じです。思わず二人して顔を見合わせてしまいました。
 しかも『敵』ってどういう意味なのでしょう。普通に考えれば、戦い争う相手── 害を与える存在なのでした。悪い意味です。

「俺も実際の状況を見た訳ではない。精霊いわく、魔力協会がケストニアを魔法石に変えたらしい」

 真っ直ぐにベンダーツさんへ視線を向けるヴォルは、精霊さんから与えられた情報を伝えているだけのようでした。
 しかも、『町』を『魔法石』にときました。魔力所持者ではなく、町なのです。生き物ですらありませんでした。
 最早理解の範疇はんちゅうを越えており、私はそれらの単語しか頭に入って来ません。

「何、それ」

 同じ様にベンダーツさんもヴォルに問い直しました。
 見えるならば、ベンダーツさんと私の頭の上にたくさんの疑問符が浮いている筈です。

「…………説明が面倒だ」

「おいおい」

 無言の間があった後、ヴォルに溜め息までかれました。
 それを受けてベンダーツさんは呆れ顔です。

「あのさぁ……俺にはこの精霊自体も青い光にしか見えないんだから、会話なんてもってのほかだよ?それを見聞き出来るヴォルが、説明拒否ってどう言う事よ。何、イジメ?」

 明らかな不満を顔に出したベンダーツさんは、腰に手を当てて追求の姿勢を見せました。
 えぇ、普通はそうなります。でも私の経験上、ヴォルは長々と説明をするのが苦手と言うか嫌いと言うか……なのでした。
 そう言えば初めの旅では私、色々と聞きたくても聞けなかったです。強引に村から連れ出された事もあって誘拐犯的な目で見てましたし、何より彼の無表情が怖いと感じていました。
 だからこそ、長く説明してくれると逆に驚いてしまったのを思い出します。今となっては良い思い出の一部でした。

「拒否はしていない。面倒だと言ったまでだ。………………ケストニア全域が魔力協会の計略により魔法石になった。それに精霊も巻き込まれている。それを助けてほしいとの依頼だ。受けるかいなか」

 ベンダーツさんに言い返したヴォルは、少し間を置いて簡潔に纏めて話してくれます。
 それに対してベンダーツさんはわずかに眉を寄せましたけど、精霊さんの依頼内容は把握したようでした。

「分かった。どうせ受ける気なんだろう、ヴォルは。俺等としてもこの先に行く必要もある訳だし、それなら結果的についでだよね」

  とうとう諦めたようにベンダーツさんが視線をらします。
 溜め息混じりに聞こえなくもなかったですが、確かに現在の目的地は大陸の南端まで確認する事でした。
 ベンダーツさんが渋々であろうが、それでもその言葉を受けて精霊さんはクルクルと嬉しそうに舞い上がります。銀髪が身体の動きに伴ってキラキラと舞い躍り、とても綺麗でした。
 そして何より──か、可愛いのですっ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...