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第七章
≪Ⅹ≫契約を破棄している【1】
しおりを挟む「それ、体面上だから。当たり前でしょ?国の次期権力者とも言われる者に対して、悪い噂を流す事を許せる訳ないよね」
楽しそうにベンダーツさんが笑いました。
それはそれは悪そうな笑みです。ヴォルの実情を知っている私としては、ベンダーツさんの言わんとする事が分かりました。
「な……にを……言っているのかしら」
ユーニキュアさんは酷く動揺しているようでした。
でもこの楽しそうなベンダーツさんに勝てる人は中々いません。ちなみに私は無理でした。絶対に負ける自信があります。
「無駄に脅すな、マーク。面倒だ。不要ならば魔力器官を破壊した後に飛ばせ」
「わ、私には精霊が……っ」
「俺と敵対した時点で、既に精霊はお前との契約を破棄している」
相変わらず淡々と大切な事を告げるヴォルでした。
──と言うか、精霊さんが勝手に契約破棄とか出来るのですか。その前に、『面倒』とか『不要』とか不穏な言葉が並んでいました。
「そんな……っ」
ヴォルの言葉を受け、ユーニキュアさんが自分の両掌を見つめて愕然としています。
私には勿論見えないのですが、彼女には魔力の放出的なものが見える筈だったのでしょうか。
「そんな……、何でよっ?!」
「精霊は基本、人間を下等生物と見ている。魔力を持っていても自らでは魔法すら使えない、程度の低い生命体。精霊は精霊神を中心として独自の文化と知識を持っている。長命故、戯れに人の周囲に現れるだけだ。そしてその魔力を吸収し、次の命の糧とする。精霊の力で魔力を得ているのであれば尚更だ」
何だか不思議な精霊さん情報でした。
──ん?次の命の糧?
「あの、ヴォル?お話の途中、すみません。聞いても良いですか?」
「問題ない。メルが最優先だ」
疑問に思い、話を中断させてしまう事に謝罪する私です。でもヴォルの直球な御言葉に赤面してしまいました。
恥ずかしい言葉を惜し気もなく披露です。心の準備が出来ていないと心臓に悪いですが、今は質問を忘れてしまう前に聞かなくではなりませんでした。
「あの……精霊さんは、人の魔力から子供を……新しい命を作るのですか?」
「そうだ。人間だけとは限らないが、精霊族以外の生命体から魔力を吸収する事で新たな精霊を成す。繁殖とは違うが、これには魔力が多く溜まっている場所があればそれすら必要ない。要は必要なのは魔力なのだから」
ヴォルに言われて思い出します。
そうでした──以前ヴォルの研究室で、存在が消えてしまったと言われていた生命の精霊さんが誕生したのでした。あの時は研究中の魔法液が精霊さんの存在に変わったのです。
その精霊さんは今でもヴォルの傍にいる筈なのですが、残念ながら私は見える目を持たないのでした。
「私は……っ。精霊にその様な事を聞いていません!」
ユーニキュアさんが再び開き直ったかのように怒鳴ります。
でも、先程の様な強い意思は感じられませんでした。心の拠り所である精霊さんに見放されてしまったかもしれないからでしょうか。
「分かってるんだろ?もうどうにもならないところまで来てるんだよ。諦めて捕縛されるんだな」
ベンダーツさんは、両掌を上に上げた状態で告げます。──お手上げ、と言う事でしょうか。
ヴォルはそれ以上何も言いませんでした。ユーニキュアさんから魔力を感じなくなったのか、既に興味を失ったようです。
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