337 / 515
第七章
7.コレとは何の事だ【4】
しおりを挟む
「メル……。すまないが、少し力を緩めてくれないか」
不意にヴォルから告げられた言葉で、私は自分のしている事に漸く気が付きました。
私、ヴォルの頭を思い切り胸に抱き締めています。大した質量のない胸ですが、一応の柔らかさは装備されている筈でした。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて手を離して謝罪したのですが、ヴォルの様子が変です。片手で顔を覆い、呼吸を整えているようでした。
何でしょう──もしかして痛かったとか、苦しかったとかでしょうか。
「すまない、その……自分が抑えられなくなりそうだ」
首を傾げそうになった私ですが、ヴォルの逸らされた瞳に熱を見ました。
そんな気はなかったのですが、考えなしの行動ですみません。
「お~い、俺の事を忘れてはいないよねぇ?」
突然聞こえた声に振り向くと、いつの間にかベンダーツさんがいました。結界外の景色は相変わらず見えないのですが、出入りは可能のようです。
ですがベンダーツさんのその視線がいつもより細められていて、今の私達に不快感を示していました。
「そんなに密着して、今からナニを始める気だったのかな?」
ニコニコしているベンダーツさんは笑顔なのに目が笑っていなくて、とても怖く感じます。
既に身体の密着は解除されていた私達ですが、慌てて更に後退して離れます。──不機嫌そうなヴォルには申し訳ないですけど。
「煩い。……それより、アイツはどうした」
「何、俺の話を聞きたい?そうでしょう、聞きたいでしょう?本っ当に大変だったんだから、完全に自失状態でぇ。野郎なんて担ぎたくないけど動かないから仕方なくて、引き摺って辛うじて機能し始めていた自警団に連れていったよ」
胸を張って告げるベンダーツさんでした。
でもあの──ゼブルさんへの対応は大丈夫なのでしょうか。しかも担ぎたくないから引き摺ったなんて、これは事実ではなく揶揄であると思う事にしました。
「あ、何?心配なの、メル。大丈夫だよ、アイツはもう魔力を声に乗せる事が出来ないから。それに気付かないまま、自警団に着いた後に色々と自分を正当化させる為に叫んでいたけど」
「えっ?」
ベンダーツさんの言葉に驚きます。
でも『魔力を声に乗せる事が出来ない』の意味が分からず、思わず説明を求めてヴォルを見上げてしまいました。
「声帯と魔力を繋ぐ筋を切った。奴はただの魔力所持者だ」
視線だけで問い掛けの内容が伝わったのか、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
しかしながらそんな事も出来るのかと、感心するしかありませんでした。
「アイツは普通に喋る事は出来るけど、もう魔力を乗せられないからただの言葉にしかならないんだよ。結構危険な能力だったから、このまま放置する訳にもいかなかったんだよねぇ」
「そうですか……。あの、もう皆さんは元に戻ったのでしょうか」
「そうみたいだよ?自警団は状況が分からず慌てていたけど。この件の犯人だって言って突き出してやったから、さすがにアイツの言葉へ耳を貸す奴はいなかったな。って事でヴォル、外の人達はどうすんの」
「あれはまだ良い。だが、奴の犯罪が立証出来るのか」
ベンダーツさんの報告が終わり、ヴォルはそう告げた後で再び私を抱き締めます。
この町の人達は皆が魔法に操られていたのですが、その方法が言葉によるものなので証明が難しい事に気付きました。
セントラルに連れていけたとしても、誰もゼブルさんを犯人だと分からないのではないでしょうか。
「大丈夫さ、俺が証拠を置いてきたから。何の為に潜入してたと思ってんの。ちゃんと自警団には記録魔石を渡してきたよ。それに魔法操作を受けたとはいえ、全く記憶がなくなる訳じゃないからね。ほら……まだ良いとか言ってないで、早く外の処理をしてこいって。現時点で拘束しているのはヴォルの方なんだから、長引くとこっちが不利になるだろ?」
私の心配を予想していたのか、ベンダーツさんは楽しそうに告げました。
何やらベンダーツさんが捜査官のようです。忘れていましたが、彼は優秀なヴォルの秘書官の役割をしていました。状況を記録する魔石なんていうのも、お城では普通に使われていたのでしょうか。
不意にヴォルから告げられた言葉で、私は自分のしている事に漸く気が付きました。
私、ヴォルの頭を思い切り胸に抱き締めています。大した質量のない胸ですが、一応の柔らかさは装備されている筈でした。
「ご、ごめんなさいっ!」
慌てて手を離して謝罪したのですが、ヴォルの様子が変です。片手で顔を覆い、呼吸を整えているようでした。
何でしょう──もしかして痛かったとか、苦しかったとかでしょうか。
「すまない、その……自分が抑えられなくなりそうだ」
首を傾げそうになった私ですが、ヴォルの逸らされた瞳に熱を見ました。
そんな気はなかったのですが、考えなしの行動ですみません。
「お~い、俺の事を忘れてはいないよねぇ?」
突然聞こえた声に振り向くと、いつの間にかベンダーツさんがいました。結界外の景色は相変わらず見えないのですが、出入りは可能のようです。
ですがベンダーツさんのその視線がいつもより細められていて、今の私達に不快感を示していました。
「そんなに密着して、今からナニを始める気だったのかな?」
ニコニコしているベンダーツさんは笑顔なのに目が笑っていなくて、とても怖く感じます。
既に身体の密着は解除されていた私達ですが、慌てて更に後退して離れます。──不機嫌そうなヴォルには申し訳ないですけど。
「煩い。……それより、アイツはどうした」
「何、俺の話を聞きたい?そうでしょう、聞きたいでしょう?本っ当に大変だったんだから、完全に自失状態でぇ。野郎なんて担ぎたくないけど動かないから仕方なくて、引き摺って辛うじて機能し始めていた自警団に連れていったよ」
胸を張って告げるベンダーツさんでした。
でもあの──ゼブルさんへの対応は大丈夫なのでしょうか。しかも担ぎたくないから引き摺ったなんて、これは事実ではなく揶揄であると思う事にしました。
「あ、何?心配なの、メル。大丈夫だよ、アイツはもう魔力を声に乗せる事が出来ないから。それに気付かないまま、自警団に着いた後に色々と自分を正当化させる為に叫んでいたけど」
「えっ?」
ベンダーツさんの言葉に驚きます。
でも『魔力を声に乗せる事が出来ない』の意味が分からず、思わず説明を求めてヴォルを見上げてしまいました。
「声帯と魔力を繋ぐ筋を切った。奴はただの魔力所持者だ」
視線だけで問い掛けの内容が伝わったのか、ヴォルは事も無げに答えてくれます。
しかしながらそんな事も出来るのかと、感心するしかありませんでした。
「アイツは普通に喋る事は出来るけど、もう魔力を乗せられないからただの言葉にしかならないんだよ。結構危険な能力だったから、このまま放置する訳にもいかなかったんだよねぇ」
「そうですか……。あの、もう皆さんは元に戻ったのでしょうか」
「そうみたいだよ?自警団は状況が分からず慌てていたけど。この件の犯人だって言って突き出してやったから、さすがにアイツの言葉へ耳を貸す奴はいなかったな。って事でヴォル、外の人達はどうすんの」
「あれはまだ良い。だが、奴の犯罪が立証出来るのか」
ベンダーツさんの報告が終わり、ヴォルはそう告げた後で再び私を抱き締めます。
この町の人達は皆が魔法に操られていたのですが、その方法が言葉によるものなので証明が難しい事に気付きました。
セントラルに連れていけたとしても、誰もゼブルさんを犯人だと分からないのではないでしょうか。
「大丈夫さ、俺が証拠を置いてきたから。何の為に潜入してたと思ってんの。ちゃんと自警団には記録魔石を渡してきたよ。それに魔法操作を受けたとはいえ、全く記憶がなくなる訳じゃないからね。ほら……まだ良いとか言ってないで、早く外の処理をしてこいって。現時点で拘束しているのはヴォルの方なんだから、長引くとこっちが不利になるだろ?」
私の心配を予想していたのか、ベンダーツさんは楽しそうに告げました。
何やらベンダーツさんが捜査官のようです。忘れていましたが、彼は優秀なヴォルの秘書官の役割をしていました。状況を記録する魔石なんていうのも、お城では普通に使われていたのでしょうか。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる