331 / 515
第七章
6.胸の辺りが重い【3】
しおりを挟む
するとどうでしょうか。
先程まで神父さん(仮)と私の間に見えない壁があったようでしたが、難なく私に触れる事が出来ました。
あれ?触れないと思ったのは私の気のせいですか?
先程の言葉の意味もよく分かりませんでしたが、目の前で起きた現象に疑問符が湧き出るばかりです。
──って言うか、私はいつまで自分をこんな離れたところから見ているのでしょうか。でも意識が肉体を見ているのって、何だか不思議な感じです。
幽体離脱とか言うのでしょうか──なんて、現実逃避的な思考が浮かびました。
そうこうしている間に、私が連れていかれてしまいます。
待ってください、それは私なんですから。
いつの間に表れたのか隠し通路があって、教会の紋章があった筈の壁に出来ていた道の奥へと神父さん(仮)が足を進めていました。
そしてその連れられていく私を、少し離れたところから私が追いかけます。しかしながら今更気付きましたが、私はまさかの空中浮遊して移動していました。
何だかもうそんな程度の事は怖くない感じです。それよりも連れられていく自分の行方が心配でした。勿論、抵抗は出来ないのですけれども。
「さすがにここまですぐには来ないだろうが、念の為だ」
呟いた後、神父さん(仮)は器用に私を片腕で支えつつ内側の壁に手を触れます。
本当に男の人って力持ちですよねなんて、感心してしまいました。けれども悠長に見ている場合ではありません。なんと、先程の神父さん(仮)の行為で壁が塞がってしまいました。──私、取り残されてしまいましたけど?
突然閉ざされた壁に、私は茫然と瞬きを繰り返します。そして姿の見えなくなった私自身と神父さん(仮)を追うように、慌てて私は壁に手を伸ばしました。──っ?!
心臓が縮まった気がします。
でも今の私って、心臓があるのでしょうか。まぁ、それは置いておきましょう。と言うか、ある事にします。怖いですから。
結論として、私が驚いたのは自分の手が壁をすり抜けたからでした。
これは驚きます。固い筈の壁ですもの。でも痛くありません。それどころか、ゆっくりとそのまま進んでいくと──はい、壁の向こう側に出ました。えぇ、勿論引き返して元の場所を見ましたから確かです。
私、壁をすり抜けました。やっぱり幽体になってまっていたようです。
アワアワ、どうしましょう。って言うか、私の身体っ?!
何故だか胸の辺りが重い。何だ、この違和感は。
先程一瞬メルの腕輪から警戒が飛んできたがすぐに静まった。精霊からも声がかからない。
「どうした、のっ……!注意力が……散漫だよっ?!」
中型の、それでも己より大きな体躯を持った魔物の討伐をしながらベンダーツが声を掛けてきた。
周囲は人と魔物に取り囲まれ、全てがこちらへ攻撃の手を向けてきている。敵意や殺意といった感情は感じられないのだが、鬱陶しい事に代わりはなかった。
「……何でもない」
そう答えつつも、消えない胸部の違和感に眉根を寄せる。だが魔物は待ってはくれない。
サガルットの民は凍り付いた足元目掛け、互いが騒ぎ立てながら無駄な攻撃を繰り返していた。人間ごときの攻撃力で俺の氷魔法が砕ける筈ないだろ。
「ヴォル、……本当に……何でもない?」
煩い奴だ。
魔物討伐に忙しいなら、わざわざ俺に息を切らしながら問い掛けてくる必要もないだろ。剣を振りながら俺を気にするベンダーツ。
何だ、俺がどうしたという。
「ただ……胸の辺りが重いだけだ」
煩わしくて投げやりに答える。魔物もひっきりなしに襲い掛かってくる。
あぁ、煩い。早くメルに触れたい。
先程まで神父さん(仮)と私の間に見えない壁があったようでしたが、難なく私に触れる事が出来ました。
あれ?触れないと思ったのは私の気のせいですか?
先程の言葉の意味もよく分かりませんでしたが、目の前で起きた現象に疑問符が湧き出るばかりです。
──って言うか、私はいつまで自分をこんな離れたところから見ているのでしょうか。でも意識が肉体を見ているのって、何だか不思議な感じです。
幽体離脱とか言うのでしょうか──なんて、現実逃避的な思考が浮かびました。
そうこうしている間に、私が連れていかれてしまいます。
待ってください、それは私なんですから。
いつの間に表れたのか隠し通路があって、教会の紋章があった筈の壁に出来ていた道の奥へと神父さん(仮)が足を進めていました。
そしてその連れられていく私を、少し離れたところから私が追いかけます。しかしながら今更気付きましたが、私はまさかの空中浮遊して移動していました。
何だかもうそんな程度の事は怖くない感じです。それよりも連れられていく自分の行方が心配でした。勿論、抵抗は出来ないのですけれども。
「さすがにここまですぐには来ないだろうが、念の為だ」
呟いた後、神父さん(仮)は器用に私を片腕で支えつつ内側の壁に手を触れます。
本当に男の人って力持ちですよねなんて、感心してしまいました。けれども悠長に見ている場合ではありません。なんと、先程の神父さん(仮)の行為で壁が塞がってしまいました。──私、取り残されてしまいましたけど?
突然閉ざされた壁に、私は茫然と瞬きを繰り返します。そして姿の見えなくなった私自身と神父さん(仮)を追うように、慌てて私は壁に手を伸ばしました。──っ?!
心臓が縮まった気がします。
でも今の私って、心臓があるのでしょうか。まぁ、それは置いておきましょう。と言うか、ある事にします。怖いですから。
結論として、私が驚いたのは自分の手が壁をすり抜けたからでした。
これは驚きます。固い筈の壁ですもの。でも痛くありません。それどころか、ゆっくりとそのまま進んでいくと──はい、壁の向こう側に出ました。えぇ、勿論引き返して元の場所を見ましたから確かです。
私、壁をすり抜けました。やっぱり幽体になってまっていたようです。
アワアワ、どうしましょう。って言うか、私の身体っ?!
何故だか胸の辺りが重い。何だ、この違和感は。
先程一瞬メルの腕輪から警戒が飛んできたがすぐに静まった。精霊からも声がかからない。
「どうした、のっ……!注意力が……散漫だよっ?!」
中型の、それでも己より大きな体躯を持った魔物の討伐をしながらベンダーツが声を掛けてきた。
周囲は人と魔物に取り囲まれ、全てがこちらへ攻撃の手を向けてきている。敵意や殺意といった感情は感じられないのだが、鬱陶しい事に代わりはなかった。
「……何でもない」
そう答えつつも、消えない胸部の違和感に眉根を寄せる。だが魔物は待ってはくれない。
サガルットの民は凍り付いた足元目掛け、互いが騒ぎ立てながら無駄な攻撃を繰り返していた。人間ごときの攻撃力で俺の氷魔法が砕ける筈ないだろ。
「ヴォル、……本当に……何でもない?」
煩い奴だ。
魔物討伐に忙しいなら、わざわざ俺に息を切らしながら問い掛けてくる必要もないだろ。剣を振りながら俺を気にするベンダーツ。
何だ、俺がどうしたという。
「ただ……胸の辺りが重いだけだ」
煩わしくて投げやりに答える。魔物もひっきりなしに襲い掛かってくる。
あぁ、煩い。早くメルに触れたい。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる