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第七章
≪Ⅴ≫何の権限が【1】
しおりを挟む「それで、セグレスト・ゼブル伯爵が逃げない保証は?」
食事を終え、片付けも終えたベンダーツさんがヴォルに問い掛けます。その言い方は妙に刺々しく、それまで穏やかに遅めの夕食を終えたとは思えない空気になりました。
──あぅ……、せっかく鎮まっていたヴォルの怒りが……。
内心で頭を抱える私に気付く事なく、再び空気がピリピリし始めます。
「それもお前の責任だ。人の仕事の邪魔をするなど、いったいお前に何の権限がある」
「俺はヴォルの補佐兼執事だから?権限なんて勿論ないし、主張する気なんかないさ。でもこの場のアフターケアがなってなかったのは俺の落ち度じゃない。火も水もないこの狭い結界の中に長時間閉じ込めておいて、何もするな?置物じゃないんだぞ」
目を細めたヴォルに対して、全く怯む事なく言い返すベンダーツさんでした。
ベンダーツさんも結構な勢いで怒っています。あの時に置いていかれたのが、余程気に入らなかったようでした。その迫力に圧されてか、ヴォルが僅かに瞳を見開いています。
「空腹も我慢しろって?俺一人じゃないんだけど。いつまでも帰ってこないし、こっちが確認する手段もないんだ。ちゃんと打合せしてから出ていけっての」
「………………すまなかった」
視線を逸らす事のない真っ直ぐなベンダーツさんの怒りに、押し黙っていたヴォルが渋々ながらも謝罪しました。
──ベンダーツさんってば、ヴォルに謝らせてしまいましたよっ。凄く間がありましたけど。
先程見せていた自らの怒りも押し殺し、ヴォルはご自分の非を認めたようです。怒らせると怖いのは、ベンダーツさんも同じでした。
「けどメルの事は別だ」
「あ、それは俺も悪かった。まさか本当に飛んでくるとは思わなかったけど、それよりも護身用の魔法アイテムに驚いたよ。暴風で吹き飛ばされたと思ったら洗濯されているみたいに回されて、マジ吐くかと思ったし」
でもすぐに低い声音で言い放つヴォルです。ベンダーツさんも素直に謝罪の言葉を紡ぎ、更に防御の魔法を誉め称えました。
私の左手首に視線を移すベンダーツさんでしたが、私も実際に目にしたのは初めてだったので驚いたのです。
「……大分改良したのだ。メル自身に危険があってはならないのは勿論だが、悪意に反応するようにしてある。あと、欲にもな」
鋭い視線がベンダーツさんに向けられました。
相手の感情に寄ってスイッチが入るなんて、凄く画期的な防御です。そして色々と改良をされたうえでの品なのだと改めて知りました。研究が好きなヴォルなだけはありますね。
「はいはい、冗談でもダメなのね。分かったって、もうしないからそんなに睨むなよ。……それより、こっちから呼ぶアイテムはないのか?今の俺は、従者である事よりも先に仲間だろ?」
「仲間?メルに手を出すような胡散臭い仲間など不要だ」
「だからそれは悪かったって。他にヴォルを呼ぶ方法が思い当たらなかったんだから仕方ないだろう」
それでもと言い募るベンダーツさんでした。
わ、私はヴォル専用の呼び鈴ですか。──確かにヴォルは来ましたけど。
「方法ならあるだろ。お前の頭は飾りか。何の為の主従のリングだ」
「あ……」
ヴォルの冷たい声にベンダーツさんが固まります。
そうでしたね、二人の親指にあるリングはヴォルとベンダーツさんを繋ぐものでした。
──これって私、襲われ損ですか?
凄く怖かったのも、もしかして受ける必要のなかった感情だったのです。でも私にも隙があるのは事実なので、突き付けられただけということでしょうか。
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