「結婚しよう」

まひる

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第六章

6.抑えが利(きか)なくなる【4】

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「そんな不機嫌になるなって。俺への好きはメルの場合、恋愛対象外だからさ。対象なのはヴォルだけだろう?」

「……別に怒ってなどない」

 からかいを含んだベンダーツさんの言葉に私が後ろを振り返ると、ヴォルはあからさまに視線をらしました。
 こう言うときのヴォルって、可愛いのですよ。口に出しては言えませんが。

「なぁ、メル。嫉妬してくれるのは、存外嬉しいものだろう?」

「えっ?あ……はい、嬉しいです」

 ベンダーツさんの問いに、私は素直に頷きました。
 だってそういう時しか、ヴォルの可愛いところが見られないですし。

「無駄口はそれくらいにしておけ、マーク。また来たぞ」

「え~、またぁ?本当に、サガルットまでこっちの身が持たないんじゃないか?」

 などと愚痴ってはいますが、既に剣を手にしているベンダーツさんです。私が前に向き直ると、前方から砂埃をあげながら接近中の魔物が視認出来ました。
 どのくらい結界が大きいか分かりませんが、後ろに続く商団を全て覆っているだろう事から想像します。確かにこのサイズでは、散らばる魔物達から完全にノーマークでというのは難しいと判断出来ました。

「あの……、このまま進んでも問題ないのでしょうか」

 後ろに続く商団から、ユーニキュアさんが不安げに問い掛けてきす。
 先程から続く魔物討伐で、ヴォル達が戦闘中は同じように足止めされていました。だからこそ、進行がいちじるしく遅れているのです。
 歩みの遅さに加えて、進行を妨げる魔物との戦闘ですから無理もありませんでした。

「問題ない。メル、商団を頼む」

 その言葉に驚いて振り返ります。
 既にヴォルはウマウマさんから降りていて、近くには同じ様にウマウマさんから降りているベンダーツさんが控えていました。

「結界はメルに掛けてある。共にいてくれ」

 不安げな顔をしている事に気付いたのか、ヴォルが言葉を続けてくれます。──あ、そう言う事でしたか。
 当たり前ですが私は戦闘向きではないので、ここを頼むとか言われて焦ってしまいました。そうですよね、そんな事ヴォルも知っています。

「分かりました。ヴォルも気をつけ下さいね」

「あぁ。行ってくる」

 私は辛くとも見送る事しか出来ません。
 それでもヴォルは優しく私の頭を撫でてくれました。こういう時、自分の無力さが歯痒いです。

「ヴォル、ウマウマを」

「不要だ。あれだけの魔物の数では、連れていくだけ危険だ。メル、頼まれてくれるか」

「あ、はい!勿論ですっ。ベンダーツさんも気を付けて下さいね」

 ベンダーツさんが差し出すウマウマさんを断ったヴォルは、更に私へお仕事の依頼をしてくれました。
 お留守番とウマウマさんの世話(小)くらいしか出来ませんが、それでヴォルが安心して魔物討伐に向かえるなら喜んでやります。
 私はベンダーツさんからウマウマさんの手綱をもらい、自分の乗っているウマウマさんと共に握り締めました。

「行くぞ」

「了解っ。ありがとう、メル。んじゃ、ちょっくら行ってる」

 目前に迫る魔物の群れと、それの討伐に向かう二人の背中を交互に見ます。
 私は小さく手を振る事しか出来ませんでした。

「行ってしまわれましたね」

「あ、はい。でも私達が足を引っ張る訳にも行かないですから。進みましょう、ユーニキュアさん」

 声を掛けてきたユーニキュアさんに笑顔で告げます。
 そりゃ私だって、ここでずっとヴォルを待っていたいですけど。

 今は少しでも先に進まなければなりませんでした。馬車の中の怪我人の方々も、今はまだ十分な治療が出来ていないままですから。
 そして現状では、私が商団の結界のかなめなのです。立ち止まってなんていられませんでした。
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