「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
280 / 515
第六章

6.抑えが利(きか)なくなる【2】

しおりを挟む
 それにしても、あのまま眠ってしまう私ってどうなのでしょうか。──えぇ、気付いたら朝でしたよ。
 そうなのです。私はヴォルの腕の中で、一人だけ寝てました。

「すみません……」

「問題ない。俺も休んだ」

「本当ですか?」

 申し訳なく思い深く頭を下げると、妙にすっきりとした顔で返されます。
 しかしながら、私を抱き留めたままでしたよ?普通に考えてそんな体勢では寝られる筈がないと、私は疑わし気な問い掛けをしてしまいました。

「俺がメルに嘘を言った事はないだろ」

「はい、それはそうです……けど…………分かりました、はい」

 問い返すように小首をかしげられれば、首肯せざるを得ません。
 りとて納得した訳ではなく、ヴォルは私に『嘘』は言いませんが『隠し事』はしますよねと言いたくなりました。
 うぅ……っ、でもこれ以上の追求は良くありませんね。話を変えましょう。

「もうサガルットの町へ出発するのですか?」

「そうだ。アイツ等が先程灰を集めていたからな。そろそろ出られる頃だろ」

 私の話を変えよう作戦にすぐに同調してくれたヴォルでした。
 話ながらもウマウマさんの荷物を確認していたヴォルでしたが、不意に視線を向けた方を私も見ます。確かにそこにあったテントは片付けられ、修繕を施した馬車に怪我人が優先的に乗り込んでいるようでした。

「俺達はこのままウマウマで行く。単独行動の方が魔物との戦闘に利があるからな」

 それまであれこれと商団の世話を焼いていたベンダーツさんは、自らの荷物を肩に担いで歩み寄ってきます。
 そうでした。サガルットまではまだまだ距離があります。先程ベンダーツさんが後二日は掛かると言われていました。勿論魔物はそこらじゅうにいる訳で、全く戦闘なしでは町に辿り着く事が出来ないと思われます。

「ヴォル、行けるか?」

「あぁ」

 自分用のウマウマさんに荷をくくりつけたベンダーツさんの問いに答えたヴォルは、いつものように軽々と私をウマウマさんに乗せてくれました。
 その間にもサガルットの商団の方々は手際が良く、それぞれが馬車に乗り込んだり荷物を背負ったりしています。どうやら、馬車に乗れない人々は歩いて行くようでした。

「歩いて行く人もいるのですね」

 背後を振り返りながらヴォルに問い掛けます。既に手綱を握っているヴォルですが、周囲に警戒の視線を走らせていました。
 いまだ結界を解除してはいませんが、夜の間にも魔物は徘徊していたと聞いたので安心は出来ません。

「そのようだな。横にさせなければならない怪我人が多くいる為だろう。連れてきていたウマウマも多数逃げてしまったらしい。あの壱の姫とやらもさすがに歩くようだな」

 事も無げにヴォルが告げました。それを聞くと、荷馬車が幾つか修理出来ただけでも良かったのでしょう。
 ところで私は、ヴォルから『壱の姫』と言われて初めは首をかしげてしまいました。でもすぐにユーニキュアさんであると分かったと同時に驚きます。
 ──歩くのですか。

「ユーニキュアさんは大丈夫でしょうか」

 私は眉尻を下げ、商団の方々に視線を向けました。
 勿論女性の方は他にもいらっしゃいますが、彼女は貴族の方です。普段から長距離を自分の足で歩くなどした事がないでしょう事は、あの色白の肌を見ても分かりました。──と言うか、農村出身の私でも旅ではほとんどウマウマさんの上です。

「問題ない。俺達の受けた依頼はサガルットまでの護衛だ。他の事に気を回しやる必要はない」

 さらりと言って退けるヴォルでした。でもそうかと言って、こちら側もウマウマさんに余裕はありません。
 ──そんなものなのですかね。
 必要以上に気を回す事はしなくて良いでしょうが、二日は同行者なのでした。
 皆がそれぞれの役割をになって、この世界が成り立っているのです。
 私も可能な限りお手伝いをしたいと思います。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...