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第六章
5.魔の性質を帯びる【2】
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「ヴォル……あの、お願いがあるのですけど……」
商団の方々と合流し、ベンダーツさんは彼等と一緒に荷馬車の修理をしています。
私はヴォルと食事の用意をしているのですが、まぁいつもの事ながら殆ど役には立っていませんでした。
「何だ、メル」
魔法で調理をしながら、ヴォルはいつものように優しく問い掛けてくれます。
二人でいるのは久し振りなので、こんな時ではありながらも少し嬉しく感じてしまいました。──ダメダメですね、自分勝手に気持ちを盛り上げている私って。
「あの方々を町へ飛ばせませんか?」
私は自分の気持ちに脳内でダメ出しをしつつ、離れた場所をヴォルに視線で指し示します。それはこの場所で無念にも亡くなってしまった方々を並べたところでした。
今は生存者達とは別に離れた場所でヴォルの結界の中に安置されています。魔物に襲われた事もあって肉体的損傷が酷く、とりあえず並べてたとベンダーツさんが言っていました。遺体の上には荷馬車に使っていた幌をかけて見えなくなっていますが、誰しも親族や大切な人が町で帰りを待っているであろう人達の筈です。
ヴォルが作り終えた料理を受け取る為に私は大皿を差し出しながらも、見上げるようにして更なる視線での訴えかけをしました。
「……やめた方が良い」
しかしながら返ってきた言葉に一瞬、私の思考が止まります。
幾度か瞬きを繰り返し、彼の答えを噛み砕きました。でもまさか、ヴォルに反対されるとは思わなかったです。
そしてそれは表情なく告げられたので、彼の言葉に含まれた真意は分かりませんでした。
「何故……ですか?」
「泣くな、メル」
私は普通に問い掛けたつもりです。でもヴォルに言われて気付きました。
私はいつの間にか涙を浮かべたようです。──だ、ダメですよね。こんなことで泣くなんて、ヴォルにも迷惑じゃないですか。
「ご、ごめんなさい。泣くつもりはなかったのですっ」
慌ててお皿を置いて目を擦りました。ですがすぐにヴォルに止められてしまいます。
「擦るな」
手首を掴まれ、目元に唇を寄せられます。──こんな所でっ。
当たり前ですが、もがいても力で敵う筈がありません。そのまま目尻に溜まった涙を奪われ、私は身体の力も抜けてしまいました。
「すまない」
「何か……理由があるのですね?」
静かなヴォルの声に、私は漸く冷静さを取り戻しました。そしてその問いに、彼はゆっくりと頷きます。
「魔物に命を奪われた人間は、魔の性質を帯びる。死した肉体は……時が経つと魔物に生まれ変わる」
僅かですが、珍しく言いにくそうに告げられました。ヴォルは私の質問に大抵何でも答えてくれるのですが、いつも事実のみを淡々と教えてくれる感じなのです。
そんな事もあり、私は驚きに目を見開きました。驚愕の情報です。まさか──魔物になってしまうなんて……。
「火葬をするしか、それを避ける事は出来ない」
真っ直ぐ向けられるヴォルの視線でした。
そう言えば、この世界では火葬が一般的です。土葬は勿論、他の埋葬方法を行う事がありません。まさかそういった意味があるなんて知りませんでした。
「魔物は……大丈夫なのですか?」
「あれは『核』を壊せば活動を止める事が出来る。活動を止めた魔物の身体は、時と共に大地を潤す糧となる」
初めて知った事実に動揺しながらも、私は不意に思い浮かんだ質問をします。ですが答えは少し予想と異なりました。
ヴォルは普段、魔物討伐には天の剣を使います。『浄化』をしているのだと聞いていたのですが、どうやら光に変えなくても最終的には問題がないようでした。
でも──人は魔物になり、魔物は大地を潤す。
どうやらこの世界のシステムは、魔物を必要なものとして取り込んでいるようでした。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
私が落ち着いた事を見計らってか、ヴォルは静かに身体を離してくれます。謝意を告げながら彼を見上げれば、少しだけ瞳を細めてくれました。
知らなかった事、知りたくなかった事があります。でも、知るべきなのでしょう。この世界で生きていく私達は、皆が実情を知るべきなのだと思いました。
「あの、それはどのくらいの猶予があるのですか?」
「一晩だ。本来はすぐに荼毘に伏した方が良いが、あの商団の者達からそう乞われた。別れをする時間が欲しいのだそうだ。今晩、火葬を行う」
「そう……ですか。あまり時間がないのですね」
ヴォルは淡々と答えてくれます。それに対して私は視線を落とす事しか出来ませんでした。
商団の方々は皆、遺体をご家族に会わせる事が出来ない事を知っているのですね。本当に──私は何も出来ないです。
商団の方々と合流し、ベンダーツさんは彼等と一緒に荷馬車の修理をしています。
私はヴォルと食事の用意をしているのですが、まぁいつもの事ながら殆ど役には立っていませんでした。
「何だ、メル」
魔法で調理をしながら、ヴォルはいつものように優しく問い掛けてくれます。
二人でいるのは久し振りなので、こんな時ではありながらも少し嬉しく感じてしまいました。──ダメダメですね、自分勝手に気持ちを盛り上げている私って。
「あの方々を町へ飛ばせませんか?」
私は自分の気持ちに脳内でダメ出しをしつつ、離れた場所をヴォルに視線で指し示します。それはこの場所で無念にも亡くなってしまった方々を並べたところでした。
今は生存者達とは別に離れた場所でヴォルの結界の中に安置されています。魔物に襲われた事もあって肉体的損傷が酷く、とりあえず並べてたとベンダーツさんが言っていました。遺体の上には荷馬車に使っていた幌をかけて見えなくなっていますが、誰しも親族や大切な人が町で帰りを待っているであろう人達の筈です。
ヴォルが作り終えた料理を受け取る為に私は大皿を差し出しながらも、見上げるようにして更なる視線での訴えかけをしました。
「……やめた方が良い」
しかしながら返ってきた言葉に一瞬、私の思考が止まります。
幾度か瞬きを繰り返し、彼の答えを噛み砕きました。でもまさか、ヴォルに反対されるとは思わなかったです。
そしてそれは表情なく告げられたので、彼の言葉に含まれた真意は分かりませんでした。
「何故……ですか?」
「泣くな、メル」
私は普通に問い掛けたつもりです。でもヴォルに言われて気付きました。
私はいつの間にか涙を浮かべたようです。──だ、ダメですよね。こんなことで泣くなんて、ヴォルにも迷惑じゃないですか。
「ご、ごめんなさい。泣くつもりはなかったのですっ」
慌ててお皿を置いて目を擦りました。ですがすぐにヴォルに止められてしまいます。
「擦るな」
手首を掴まれ、目元に唇を寄せられます。──こんな所でっ。
当たり前ですが、もがいても力で敵う筈がありません。そのまま目尻に溜まった涙を奪われ、私は身体の力も抜けてしまいました。
「すまない」
「何か……理由があるのですね?」
静かなヴォルの声に、私は漸く冷静さを取り戻しました。そしてその問いに、彼はゆっくりと頷きます。
「魔物に命を奪われた人間は、魔の性質を帯びる。死した肉体は……時が経つと魔物に生まれ変わる」
僅かですが、珍しく言いにくそうに告げられました。ヴォルは私の質問に大抵何でも答えてくれるのですが、いつも事実のみを淡々と教えてくれる感じなのです。
そんな事もあり、私は驚きに目を見開きました。驚愕の情報です。まさか──魔物になってしまうなんて……。
「火葬をするしか、それを避ける事は出来ない」
真っ直ぐ向けられるヴォルの視線でした。
そう言えば、この世界では火葬が一般的です。土葬は勿論、他の埋葬方法を行う事がありません。まさかそういった意味があるなんて知りませんでした。
「魔物は……大丈夫なのですか?」
「あれは『核』を壊せば活動を止める事が出来る。活動を止めた魔物の身体は、時と共に大地を潤す糧となる」
初めて知った事実に動揺しながらも、私は不意に思い浮かんだ質問をします。ですが答えは少し予想と異なりました。
ヴォルは普段、魔物討伐には天の剣を使います。『浄化』をしているのだと聞いていたのですが、どうやら光に変えなくても最終的には問題がないようでした。
でも──人は魔物になり、魔物は大地を潤す。
どうやらこの世界のシステムは、魔物を必要なものとして取り込んでいるようでした。
「……教えてくれて、ありがとうございます」
私が落ち着いた事を見計らってか、ヴォルは静かに身体を離してくれます。謝意を告げながら彼を見上げれば、少しだけ瞳を細めてくれました。
知らなかった事、知りたくなかった事があります。でも、知るべきなのでしょう。この世界で生きていく私達は、皆が実情を知るべきなのだと思いました。
「あの、それはどのくらいの猶予があるのですか?」
「一晩だ。本来はすぐに荼毘に伏した方が良いが、あの商団の者達からそう乞われた。別れをする時間が欲しいのだそうだ。今晩、火葬を行う」
「そう……ですか。あまり時間がないのですね」
ヴォルは淡々と答えてくれます。それに対して私は視線を落とす事しか出来ませんでした。
商団の方々は皆、遺体をご家族に会わせる事が出来ない事を知っているのですね。本当に──私は何も出来ないです。
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