「結婚しよう」

まひる

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第六章

3.ないと困るのだろ【3】

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 ともあれ翌日──。
 いつの間にか寝てしまっていた私です。ヴォルとベンダーツさんのやり取りがいつ終わったのかは知りませんが、声をあららげるような事態にはなっていなかったようでした。

 そしてクスカムの集落から半日離れた転移後の地点より、再び次なる目的地であるサガルットの町へウマウマさんを走らせています。

「ここからだと、まだ三日はかかるな。何だかんだでクスカムで食料を調達出来たから良かったが、移動距離が長すぎて嫌になるぜ」

「魔物が相手をしてくれるだろ」

 疲れたように溜め息をくベンダーツさんに、ヴォルは事も無げに返しました。
 確かに今日も移動中、既に何度か魔物との戦闘をおこなっています。

「あのなぁ。俺は魔物退治に来た訳じゃねぇの。ヴォル誰かさんのおりの為だろうが」

「俺はお前がいなくても問題ない。むしろいない方が良い」

 それに対してクワッと目と口を開いて即座に返すベンダーツさんでした。
 並走するウマウマさんの上で、こうして暇が出来ると口喧嘩のような事を始めるヴォルとベンダーツさんです。
 それでも本当に仲が悪いと言う訳ではなく、魔物との戦闘も中々のコンビネーションを取っているのでした。──男の人って不思議です。

「あの、サガルットでは何か注意する点はないのですか?」

「ん~?そうだなぁ。あそこは比較的セントラルにも友好的だし、魔力持ちに対する差別も軽いから大丈夫じゃね?」

 私の素朴な疑問に、少し考える素振りを見せてからベンダーツさんが答えてくれました。本当に色々な事を知っています。
 ほとんどお城から出ないと聞いた事がありますが、それでも情報は回ってくるのですね。

「別に感心する事はないぞ、メル。コイツは情報操作をおこなう事で大半の仕事をこなしている」

「何それ、俺が悪者な感じ?ってか、情報操作はあの場所で当たり前でしょ。そもそも結構激務なんだぜ、ヴォルの補佐役はさ。しかもアホな貴族が色々と手を替え品を替え近寄ってくるもんだから、その都度トゲのないように追い払わなくちゃならないんだ。何度後ろから蹴り飛ばそうと思った事か」

 ヴォルはベンダーツさんに対しての評価が厳しいのですが、一度お城に行った私はベンダーツさんの言葉が少しだけ理解出来ました。しかもそれって前にヴォルから聞いた事です。
 そしてベンダーツさんは自ら情報を集めていたようですね。

「それでも直接俺のところに来ていた」

「仕方ないだろ、奴等は黒い滑りを持つ甲虫ゴキムシの様にしつこいんだから。ってか俺が止めていなきゃ、その三倍じゃ済まなかったんだぞ?それも、メルと婚儀を行った後もときてる。ヴォルの変わり様を見ていないんだろうなぁ。いや、故意に見ないようにしてたのか?」

 ヴォルの声に振り返れば、本当に嫌そうに眉根を寄せていました。
 え──っと婚儀の後もですか、それは知らなかったです。あ、私への嫌がらせはなくなっていなかったですけど。
 でも、本当に些細な事だったのです。

 虫を送られたり、死んだ生き物を送られたり。──そりゃ驚きもしますけど、実害はないのですもの。
 足を引っ掛けられたりって事は婚儀の後からはなくなりましたし、困るのは置いたものが何処かにいってしまうくらいでした。
 それもしばらくすると出てくるので、単に私の記憶違いなのではと思う程です。

「アイツ等は俺を見ていない」

「知ってるって、そんなの。地位や名誉にがっているだけの腹黒い人間なんざ、腐る程いるんだ。いちいち構ってちゃ、こっちの身が持たないっての。だからこそ、情報操作はあの場所にいるには最低限必要な事なんだ。俺が悪役してる訳じゃないぞ?」

 フンッと苛立ちを隠そうともしないヴォルに、ベンダーツさんはなだめに入りました。
 ヴォルもベンダーツさんも、本当にあのお城の中では色々と大変だったようです。
 二人共今の方が生き生きしているように思えるのは、気のせいではないようですね。
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