「結婚しよう」

まひる

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第六章

2.説明が面倒だ【5】

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「ここは……?」

「クスカムの集落から半日程離れた低木草地帯」

「戻ってるじゃないか」

 私の問いに答えてくれたヴォルです。しかしながらベンダーツさんが不満そうに告げた事で、現在地に見覚えがある事に気付きました。
 戻った──つまりは通った事のある場所なのですか。

「近いうちに結界を張った場所でなければ、遠距離転移が出来ない。何かの中に移動したいのであればいつでも飛ばしてやる。ただしお前だけだ」

 わずかに眉根を寄せるヴォルを見て、不愉快であると表現している事が分かります。本当に出会った頃と違い、感情表現が分かりやすくなりました。
 そして話の内容からして、以前に言われた事を思い出します。転移先の場所に何かがあったら『それ』の中に──って。ん?でも、結界を張った事がある場所ならと言う意味は……。

「あの、ヴォル?結界を張った事があれば、何処でも良いのですか?」

「いや、ある程度の距離感は必要だ。距離に応じた魔力と集中力が必要になる。基本的には俺が感知出来なければ飛べない」

 質問に対しての素敵な返答でした。
 どうやらヴォルは、離れた場所に自分の魔力を感じる事が出来るようです。

「で、何で結界歴が必要なんだよ」

「……説明が面倒だ」

 しかしながらベンダーツさんの問いには、プイッと他所を向いてしまいました。そんな態度のヴォルも何だか可愛いです。

「おい。ったく……メルは分かるか?」

「い、いいえ。あの、ヴォル。どうしてなんですか?」

 ヴォルが答えてくれなかったので、ベンダーツさんは私に問い掛けてきました。でもすみません、私も知らないのですよ。
 再び私はヴォルに問い掛けます。

「空間に魔法の痕跡があれば、それを起点に再度結界を張る事が出来る」

「へぇ~、つまりは転移箇所にも結界を張るって訳か。……ってか、何で俺が聞いたら説明しないんだよ。苛めか?」

 すんなり答えてくれたヴォルに、ベンダーツさんが乗り突っ込みをしていました。
 面白いです。思わず吹き出してしまい、ベンダーツさんにジロリと見られてしまいました。

「すみません」

「メルが謝罪をする必要は何処にもない」

 申し訳なさそうにした私をすぐさま庇ってくれるヴォルです。
 最近本当に良く感じますけど、ヴォルはベンダーツさんと私への対応が明らかに違いました。男性だからでしょうか。それとも、幼い頃から知っている間柄だからでしょうか。

「ったく、俺だけ仲間外れかよ。冷たいなぁ、ヴォルは」

「何故俺がお前に親切にしなくてはならない」

「今は仲間だろ?ってか、執事に戻って欲しければそう言えよ」

「何故俺がお前に乞わねばならない。従者が嫌なら指を落とせば良いだろ」

「嫌だ。親指がなかったら不便だろうが。しかも右手だし」

「ならばグダグダ文句を言うな」

「ハイハイっと」

 ポンポンとテンポ良く会話が交わされ、喧嘩になるかとも思われた二人のやり取りです。
 でもあれ?──何だか、とても穏やかに終わりました。もしかして二人共、少し前よりもずっと仲良くなっています?

「さてと、これからどうするよ」

「このままサガルットの町に行く」

「初めの予定通りか。メル、あそこの特産品は赤くて丸い野菜、マトトだからな」

「マトトは私がいた農村でも売っていたので知っています。生でも調理しても使える万能な野菜ですよね、ヴォル」

「あ、あぁ。……そうか、知っていたか」

 何だかベンダーツさんが楽しそうです。そんなにもマトトが好きなのでしょうか。
 でもヴォルに視線を向けると、何故だか不自然に目を逸らされました。心なしか元気がないような気もします。
 どうしたのでしょうか。
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