251 / 515
第五章
10.クスカムの人間は穴熊か?【3】
しおりを挟む
「よし、それなら三人まとめて一晩俺んとこ泊まっていけ。あ、言っとくけど狭いからなっ」
「本当か、ありがたいねぇ。殆ど毎日野宿だから、久しぶりに屋内で寝られそうだ。狭かろうと何だろうと、ヴォルに縮んでもらうから問題ないさっ」
ベンダーツさんと意気投合した、若い男性の家に宿泊出来そうです。
それにしても話の振り方が上手いですね、ベンダーツさん。こんなスキルがあるとは思ってもいませんでした。
「はははっ、その魔剣士は確かにデカイがなっ。さぁ、こっちだ。俺の後についてきな」
他の人達も手にしていた農具を完全に下ろしているので、特別反対意見等もなさそうです。
そしてその人の後に続きながら、私達はクスカムの奥へと誘われました。
「この集落はクスカムってんだが、外地からの来客が殆どないから宿屋自体ないんだ。食事処はあるから、飯はそこで食べてくれ。んで、ここが俺ん家。母ちゃ~ん、ちょっと友達泊めてくれ」
道すがら聞いたのですが、この男の人はネパルさんと言うらしいです。お母様と二人で暮らしているとの事でした。
そしてネパルさんは私達を玄関先に待たせ、中へと大声をあげながら入っていきます。
「んまぁ、冒険者かい?魔力がなければここには来られないから、その魔剣士とやらは余程の強者だねぇ。え?精霊つき?尚更、何をするか分かったものじゃないじゃないか。……ったく。一晩泊める事は構わないが、気を付けなよ?強者は常に力にものを言わせようとするからね」
奥で話しているようですが、どうやら壁があまり厚くはないのでしょう。お母様らしき女性の声が丸聞こえでした。そして当たり前の事ながら、私達を警戒しているようです。
いきなり知らない人達を自宅に宿泊させるのですから、普通は怖いと私も思いました。
「聞こえてるっての。わざとか?」
呆れたようにベンダーツさんが呟きます。
苛立っている訳ではないでしょうが、建家の周囲を観察しながらの言葉でした。それに対してヴォルは首肯しつつ、それでも善意を向けてくれたネパルさんのお母様を擁護します。
「間違ってはいない。力ある者が傲慢であるのは、いつの世も変わらない」
「でもヴォルは違うのに……」
「それ、計算?メルってば、本当にどうやってヴォルを落としたんだか」
何故か、ベンダーツさんに胡乱な視線を向けられてしまいました。
けれども言葉の意味が理解出来ず、私は首を傾げてしまいます。
「私、ヴォルを落としてなんかいないですよ?」
「……いや、それたぶん意味が違うから」
呆れたように溜め息を吐かれました。どうやらベンダーツさんと私は、この件に関して言葉が通じ合っていないようです。
「余計な事を言うな、マーク。メルが混乱するだろう」
「何、この馬鹿さ加減が良いの?」
「お前、口が過ぎるぞ。メルを貶めるような事をすれば、俺がお前を潰すからな」
そんなベンダーツさんにヴォルが鋭く口を挟みました。
急に怖い口調になったヴォルに、私の方が驚いてしまいます。──潰すって何をですか。
「はいはい、すみませんね~。ったく、コロッと性格が変わりやがって。……まぁ、今の方が人間らしくて良いけどな」
後半はかなり小声でした。でも、ベンダーツさんも今のヴォルが好きだと言ってくれましたよ。
何だかとても嬉しいです。
「はいは~い、お待たせっ。母ちゃんを説得するのに手こずってさ。本当に待たせて悪いな」
ネパルさんが家から頭を掻きながら出てきました。──いえ、話は聞こえていましたけれど。
「いや~、こっちの方が突然邪魔したもんだから。悪いね、本当。喧嘩にならなかったか?」
「良いって事さ。まぁ、風呂はないから泉で水浴びするくらいしか出来ねぇけど」
人懐っこい笑みでベンダーツさんが問えば、ネパルさんは少しだけ苦笑を浮かべます。
このような小さな集落でお風呂が各家庭にある事は稀なので、その辺りを私達は気にしていませんでした。──でも。
『泉』という単語に、私たち三人が思わず視線を交差させます。このクスカムに立ち寄った目的が『精霊の泉』なのですから。
「本当か、ありがたいねぇ。殆ど毎日野宿だから、久しぶりに屋内で寝られそうだ。狭かろうと何だろうと、ヴォルに縮んでもらうから問題ないさっ」
ベンダーツさんと意気投合した、若い男性の家に宿泊出来そうです。
それにしても話の振り方が上手いですね、ベンダーツさん。こんなスキルがあるとは思ってもいませんでした。
「はははっ、その魔剣士は確かにデカイがなっ。さぁ、こっちだ。俺の後についてきな」
他の人達も手にしていた農具を完全に下ろしているので、特別反対意見等もなさそうです。
そしてその人の後に続きながら、私達はクスカムの奥へと誘われました。
「この集落はクスカムってんだが、外地からの来客が殆どないから宿屋自体ないんだ。食事処はあるから、飯はそこで食べてくれ。んで、ここが俺ん家。母ちゃ~ん、ちょっと友達泊めてくれ」
道すがら聞いたのですが、この男の人はネパルさんと言うらしいです。お母様と二人で暮らしているとの事でした。
そしてネパルさんは私達を玄関先に待たせ、中へと大声をあげながら入っていきます。
「んまぁ、冒険者かい?魔力がなければここには来られないから、その魔剣士とやらは余程の強者だねぇ。え?精霊つき?尚更、何をするか分かったものじゃないじゃないか。……ったく。一晩泊める事は構わないが、気を付けなよ?強者は常に力にものを言わせようとするからね」
奥で話しているようですが、どうやら壁があまり厚くはないのでしょう。お母様らしき女性の声が丸聞こえでした。そして当たり前の事ながら、私達を警戒しているようです。
いきなり知らない人達を自宅に宿泊させるのですから、普通は怖いと私も思いました。
「聞こえてるっての。わざとか?」
呆れたようにベンダーツさんが呟きます。
苛立っている訳ではないでしょうが、建家の周囲を観察しながらの言葉でした。それに対してヴォルは首肯しつつ、それでも善意を向けてくれたネパルさんのお母様を擁護します。
「間違ってはいない。力ある者が傲慢であるのは、いつの世も変わらない」
「でもヴォルは違うのに……」
「それ、計算?メルってば、本当にどうやってヴォルを落としたんだか」
何故か、ベンダーツさんに胡乱な視線を向けられてしまいました。
けれども言葉の意味が理解出来ず、私は首を傾げてしまいます。
「私、ヴォルを落としてなんかいないですよ?」
「……いや、それたぶん意味が違うから」
呆れたように溜め息を吐かれました。どうやらベンダーツさんと私は、この件に関して言葉が通じ合っていないようです。
「余計な事を言うな、マーク。メルが混乱するだろう」
「何、この馬鹿さ加減が良いの?」
「お前、口が過ぎるぞ。メルを貶めるような事をすれば、俺がお前を潰すからな」
そんなベンダーツさんにヴォルが鋭く口を挟みました。
急に怖い口調になったヴォルに、私の方が驚いてしまいます。──潰すって何をですか。
「はいはい、すみませんね~。ったく、コロッと性格が変わりやがって。……まぁ、今の方が人間らしくて良いけどな」
後半はかなり小声でした。でも、ベンダーツさんも今のヴォルが好きだと言ってくれましたよ。
何だかとても嬉しいです。
「はいは~い、お待たせっ。母ちゃんを説得するのに手こずってさ。本当に待たせて悪いな」
ネパルさんが家から頭を掻きながら出てきました。──いえ、話は聞こえていましたけれど。
「いや~、こっちの方が突然邪魔したもんだから。悪いね、本当。喧嘩にならなかったか?」
「良いって事さ。まぁ、風呂はないから泉で水浴びするくらいしか出来ねぇけど」
人懐っこい笑みでベンダーツさんが問えば、ネパルさんは少しだけ苦笑を浮かべます。
このような小さな集落でお風呂が各家庭にある事は稀なので、その辺りを私達は気にしていませんでした。──でも。
『泉』という単語に、私たち三人が思わず視線を交差させます。このクスカムに立ち寄った目的が『精霊の泉』なのですから。
0
お気に入りに追加
404
あなたにおすすめの小説
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
王子殿下の慕う人
夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。
しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──?
「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」
好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。
※小説家になろうでも投稿してます
俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?
イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」
私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。
最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。
全6話、完結済。
リクエストにお応えした作品です。
単体でも読めると思いますが、
①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】
母主人公
※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。
②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】
娘主人公
を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる