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第五章
≪Ⅶ≫俺の腕を拒否するのか【1】
しおりを挟む「本当にもう大丈夫なのですか?」
私は心配になってヴォルの顔を見上げます。今、彼の左腕には木製の固い腕がついていました。
それは魔力で操作するものらしく、魔力を持っていない人用のものと違ってこれでも繊細な動きが可能なのだそうです。
「問題ない」
リハビリに三ヶ月程を掛け、私達は今まさに旅立とうとしているところでした。
勿論お城の裏口から、誰にも知られないように早朝にひっそりと静にです。
「ほら、メル」
普通に腕を差し伸べ、ウマウマさんに乗せてくれようとするヴォル。
勿論右腕でしたが、左の義手はしっかりと手綱を握ってました。手袋をしているので、見た目だけは普通の手と変わりありません。
「だ、大丈夫です。私もウマウマさんに乗れるようになったのですから……、一人で乗れます」
そうなのです。旅立つ事が決まった私は、ヴォルのリハビリの最中にウマウマさんの乗馬トレーニングをベンダーツさんから受けていました。
乗り降りは勿論、『早足』までなら一人で乗れます。
「俺の腕を拒否するのか」
「そ、そうではないのですけどっ」
「それならば問題ない。ほら、メル」
も、もぅ──強引ですね。
結局私は、ヴォルの腕に抱かれるようにしてウマウマさんに乗りました。
「何をやっているのですか」
その時、背後から呆れたような声が掛けられます。
ヴォル越しに振り向くと、そこにはウマウマさんに乗ったベンダーツさんがいました。
「何の為に、私がメルシャ様に馬術を教えたと思っているのですか」
お互い馬上の人なので視線の高さは変わらないのですが、気持ちの問題なのかベンダーツさんの方が上から目線な感じです。
ヴォルも強く言い返しはしても無下には出来ないようで、最近では立場的にどちらが上とかないように思えました。──勿論公の場所以外で、ですが。
「煩い、ベンダーツ」
「煩い、ではありません。ヴォルティ様のご負担を少しでも軽減する為にですね?」
「メルは負担にならない」
ハッキリと断言するヴォルですが、私はそれが心配なのです。私自身が重荷になるのだけは避けたいのですから。
「ヴォルティ様が良くても、メルシャ様が気に病むかもしれないと何故分からないのですか。互いを思いやるのは構わないですが、押し付けるだけではなりません」
「……そうなのか?」
ベンダーツさんの言葉を受け、ヴォルが私に問い掛けてきます。あ~──、答えにくいですね。……でも。
「私は大した事は出来ませんが、少しでもヴォルの助けになりたいです」
伝えるべき言葉は隠してはダメだと嫌という程思い知らされました。省略もダメです。
きちんと伝わらないと意味がないですものね。
「……そうか。俺はメルがいるだけで良いが」
小さく呟き返されましたが、真後ろにいるのでハッキリと聞こえます。
──ま、また恥ずかしい台詞を……っ。
私は不意をついた言葉攻撃で、既に真っ赤になっているであろう顔を俯く事で隠そうとしました。
「のろけていないで、早く出発しますよ」
「お前はいらない」
「私はヴォルティ様の補佐兼執事です。義手のメンテナンスという重要な仕事もありますから、長期的に離れる訳には参りません」
ベンダーツさんが同行する事は既に決定のようです。嫌そうな顔をするヴォルに構う事なく、私達の乗ったウマウマさんの斜め後ろに続きました。
しっかりとウマウマさんに大きな荷物もくくりつけてありましたから、これは本気の行動なのですね。
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