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第五章
6.回避手段【3】
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「だが、ヴォルティ」
「父上。以前お願いしていた件、再度お考え下さいますよう」
「しかし……」
何かをなし得ようとするヴォルと、それを引き留めようとする皇帝様のように見えました。
「こうなってしまった以上、やむを得ないとは思いませんか。……俺の考えは変わりません」
「うむ……。分かった。だが、二度とこの地に足を踏み入れる事が叶わないかもしれないのだぞ」
「はい、重々承知しております」
な、何でしょうか。重々しい会話です。
皇帝様とヴォルの会話を聞いているだけの私ですが、二人の雰囲気からあまり良くない事のように思えました。
『この地』とは王都の事ですよね。それが、『二度と足を踏み入れられない』と続きます。
「そこまで言うのなら……、認めよう。対価は?」
「俺の左腕です」
「っ?!」
それまで大きく感情を現す事のなかった皇帝様が息を呑んだのが分かりました。
え──?私はその意味が理解出来ず、ただ瞬きをするばかりです。
「な、何を馬鹿な事を……」
「それくらいの対価は必要なのではありませんか」
驚く皇帝様とは対照的に、淡々と告げるヴォルでした。
対価って何ですか?必要って、何故ですか?
既に話が通っているからなのか、決定的な事は一切口にされません。
周囲の方々も何も口を挟まない事からも、知らないのは私だけといった感じです。
「しかし……」
「迷う時間はなく、必要なものも分かっているのです。それくらいの覚悟は出来ています」
「……うむ」
それ以上、皇帝様は口を開きませんでした。
ヴォルはそのまま私を無言で促すと、深く頭を下げて退室します。──えぇっ?良いのですか?
私の理解が追い付く前に、全ての問題が終わってしまったようでした。ただ大泣きしただけです。
どうなっているのですか?誰か私に説明してくださいよ!
「メルシャ様」
ヴォルと共に謁見の間を出た後、すぐにベンダーツさんから声を掛けられました。でも、とても難しい顔をされています。
「はい。……どうかしたのですか、ベンダーツさん」
「…………ヴォルティ様が暫く不在となるので、お迎えに上がりました」
理由が分からず首を傾げて問い掛けると、暫くの無言の後に告げられました。
不在──とはどういう事ですか?だって今、ここにいるではないですか。
「メル。二、三日ベンダーツの指示で過ごしてくれ」
混乱して動けない私に、後ろから追い討ちです。理由もなく、しかも三日も不在との事でした。
──はい?どういう事なのですか?
皆さんが私の知らないところで話を進めています。
「何故ですか?」
「……やる事がある」
更なる問い掛けも曖昧に返されてしまいました。
どうして──何故、何も私に話しては下さらないのですか。皇帝様もヴォルも、ベンダーツさんですら何かを知っています。
「嫌です」
私はハッキリと拒否しました。
頭の奥がズキズキと痛みます。胸の奥が苦しいです。──私はただ、嫌と言う事しか告げられませんでした。
「……メル」
ヴォルの瞳が痛そうに細められます。そしてその直後、私は光を見失いました。
「すまない」
そんな声が聞こえたような気がします。温かな知った体温に触れた気がしました。
重くなる意識の中で聞こえた、ヴォルの悲痛な声音。──苦しいです。何故だか分かりませんが、とても悲しい声でした。
どうしてそんなに悲しいのですか?何処か痛いのですか?何が苦しいのですか?
教えて下さい。ヴォルを苛めるものから私が守ります。そんな顔を──しないで下さい。
私には、見える筈もない辛そうなヴォルの表情が見えました。
「父上。以前お願いしていた件、再度お考え下さいますよう」
「しかし……」
何かをなし得ようとするヴォルと、それを引き留めようとする皇帝様のように見えました。
「こうなってしまった以上、やむを得ないとは思いませんか。……俺の考えは変わりません」
「うむ……。分かった。だが、二度とこの地に足を踏み入れる事が叶わないかもしれないのだぞ」
「はい、重々承知しております」
な、何でしょうか。重々しい会話です。
皇帝様とヴォルの会話を聞いているだけの私ですが、二人の雰囲気からあまり良くない事のように思えました。
『この地』とは王都の事ですよね。それが、『二度と足を踏み入れられない』と続きます。
「そこまで言うのなら……、認めよう。対価は?」
「俺の左腕です」
「っ?!」
それまで大きく感情を現す事のなかった皇帝様が息を呑んだのが分かりました。
え──?私はその意味が理解出来ず、ただ瞬きをするばかりです。
「な、何を馬鹿な事を……」
「それくらいの対価は必要なのではありませんか」
驚く皇帝様とは対照的に、淡々と告げるヴォルでした。
対価って何ですか?必要って、何故ですか?
既に話が通っているからなのか、決定的な事は一切口にされません。
周囲の方々も何も口を挟まない事からも、知らないのは私だけといった感じです。
「しかし……」
「迷う時間はなく、必要なものも分かっているのです。それくらいの覚悟は出来ています」
「……うむ」
それ以上、皇帝様は口を開きませんでした。
ヴォルはそのまま私を無言で促すと、深く頭を下げて退室します。──えぇっ?良いのですか?
私の理解が追い付く前に、全ての問題が終わってしまったようでした。ただ大泣きしただけです。
どうなっているのですか?誰か私に説明してくださいよ!
「メルシャ様」
ヴォルと共に謁見の間を出た後、すぐにベンダーツさんから声を掛けられました。でも、とても難しい顔をされています。
「はい。……どうかしたのですか、ベンダーツさん」
「…………ヴォルティ様が暫く不在となるので、お迎えに上がりました」
理由が分からず首を傾げて問い掛けると、暫くの無言の後に告げられました。
不在──とはどういう事ですか?だって今、ここにいるではないですか。
「メル。二、三日ベンダーツの指示で過ごしてくれ」
混乱して動けない私に、後ろから追い討ちです。理由もなく、しかも三日も不在との事でした。
──はい?どういう事なのですか?
皆さんが私の知らないところで話を進めています。
「何故ですか?」
「……やる事がある」
更なる問い掛けも曖昧に返されてしまいました。
どうして──何故、何も私に話しては下さらないのですか。皇帝様もヴォルも、ベンダーツさんですら何かを知っています。
「嫌です」
私はハッキリと拒否しました。
頭の奥がズキズキと痛みます。胸の奥が苦しいです。──私はただ、嫌と言う事しか告げられませんでした。
「……メル」
ヴォルの瞳が痛そうに細められます。そしてその直後、私は光を見失いました。
「すまない」
そんな声が聞こえたような気がします。温かな知った体温に触れた気がしました。
重くなる意識の中で聞こえた、ヴォルの悲痛な声音。──苦しいです。何故だか分かりませんが、とても悲しい声でした。
どうしてそんなに悲しいのですか?何処か痛いのですか?何が苦しいのですか?
教えて下さい。ヴォルを苛めるものから私が守ります。そんな顔を──しないで下さい。
私には、見える筈もない辛そうなヴォルの表情が見えました。
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