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第五章
≪Ⅱ≫そんな生活があった【1】
しおりを挟む「精霊がメルの言葉を聞き届けてくれたようだ。俺に回復魔法が掛けられた」
「回復、魔法?……でも、存在していないって言われてませんでした?」
確か、生命の精霊さんが──あれ?
ヴォルの言葉に反論した私でしたが、不意に研究室での出来事を思い出します。
そんな私の反応に気が付いたのか、ヴォルの口元に笑みが浮かびました。
「そうだ。以前、研究室で生まれたのを思い出したか?」
「はい、あの時の小さな精霊さん……」
私の手の上に乗ってくれた可愛い姿を思い出します。
「そうだ。今もここにいるのだが、その者がそう告げている」
「す……、凄いですっ。精霊さん、人を魔法で治す事も出来るのですか?」
「普通はしないがな。この生命の精霊がメルを気に入っている事と俺の研究室で生まれたって事で、今回は特別だそうだ」
精霊さんからの伝言をそのまま伝えてくれているのでしょうヴォルでした。
特別──、それも十分すぎる程のプレゼントです。
「ありがとうございますっ!!あ、今は精霊さんの姿が見えませんが……ありがとうございますっ」
精霊さんの居場所を探してキョロキョロ辺りを見回し、気付いたヴォルに指で場所を教えてもらってお礼を言いました。
もう、凄い感謝の気持ちで一杯ですから。
「そんなに礼を言われると困る、とさ」
ククッと笑いながら、ヴォルが今の精霊さん情報を教えてくれます。
精霊さんが困ってしまうのは困ってしまいますが、それでもお礼を言わずにはいられなかったのですよ。
「でも本当に……嬉しいんです」
先程までの事を振り返り、溢れてくる涙を止める事が出来ませんでした。
嬉し泣きをしながらお礼を言う私に、精霊さんがもっと困ってしまったかもしれないですね。
ヴォルは優しく私の肩を抱きながら、何も言わずに宥めてくれました。──そんな中で私のお腹が再び訴えます。
「泣いたら……余計にお腹が空きました」
ヴォルが手渡してくれたタオルで赤くなった鼻を押さえながら、自分の空気を読めないお腹が逆に羨ましく思えました。
どんな時でも自分の意思を主張するのですから、ある意味最強ですね。
「そうだな。キッチンにでも行ってみるか」
「勝手にあさったら怒られませんか?」
時間は分かりませんが、誰も呼びに来ないので夜が深いのかもしれません。
「その時はその時だ。行くぞ」
「はいっ」
怒られないかは心配でしたが、私も空腹に耐えられませんでした。
急いでヴォルの後を追い掛けます。そして初めて入るキッチンにドキドキしていました。
ちなみに朝使った食堂は立入禁止になってまして、そことは別の食堂に隣接するキッチンへ入ったのです。
「とりあえず、このパンは食べられそうだな。後は、これとこれと……」
ヴォルは次から次へと食料を物色し、手当たり次第にテーブルの上に広げていきます。
旅の中で彼の料理の腕を知っている私は、目の前に並べられる食材に自然と心を弾ませていました。
──って言うか、私も何か作れるのではありませんか?ここには道具もありますし……。
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