「結婚しよう」

まひる

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第四章

7.喉が乾く【4】

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 おかしいですね。いえ、朝食までは普通だったんですけど。
 私は小首をかしげて記憶を辿ります。

 でも、いくら考えても思い付きません。私は朝食後、いつものようにベンダーツさんの待つ勉強部屋に向かっていた筈なのですけどね。

「ちょっと、聞いてますの?」

 鋭い声が掛かります。
 えぇ、とりあえず聞いてはいるのですよ。ただ、理解が出来ないだけでして。

「婚儀を挙げても、貴女の立場なんていくらでも潰せるのですからね」

 サーファさん、再登場です。──私の目の前にはサーファさん他、お付きの女性陣が五人程見えまして。何故か私、通路の空いてる部屋に押し込められてしまったのですよ。
 まぁ彼女は侍女をされているので、空き部屋の事なんかは把握されているのでしょうけど。

「貴女になんて、ヴォルティ様は不釣り合いよ。そんな貧相な身体じゃすぐに飽きられて、どうせお子だって授かりはしないわ。そうなったら別の側室候補がたてられて、そちらにヴォルティ様が掛かりきりになるわね。それでお子を授かれば、正妃にはなれなくても立場は確立されるもの。あ、そうそう。私達も側室候補だから宜しくお願いしておきますわ」

 一気にまくし立てられた感じです。
 私は何の反応も出来ないまま、ただまばたきを繰り返すばかりでした。

「本当に何の反応もない人ね。聞いているのかしら」

「あら、ショックのあまり口が聞けないのではなくて?」

「正妃になったら大丈夫なんて、そんな甘い考えでも持っていたのかしら。お子を授かる為にあるのよ、貴女の立場なんて」

「でもヴォルティ様がやたらお構いになるって聞いたわ?」

「あら、関係ないわよ。他の官僚が納得しなければ、いくらヴォルティ様でも従わざるを得ない筈だわ」

「そうね。私のお父様も、側室でも良いからってプッシュしていらしたもの。あの方の血を引いたお子を授かる為なら、何したって価値はあるわね」

 ウフフ、アハハと会話が飛び交います。そして唖然としたままの私を部屋に残し、言いたい事を言い終えた彼女達は去っていきました。
 何て言いましょうか。しかも、全くヴォルの事を無視した内容でした。

 しばらく呆然と扉を見つめていましたが、不意に今の状況を思い出しました。
 私、ベンダーツさんのところに行かなくてはなりません。行方不明だなんて事になったら、またヴォルに迷惑を掛けてしまいます。──私はいつもの私でなくてはならないのですから。

 こんな不安な顔をしていてはダメですね。壁に掛けてある鏡に映った自分を叱咤しつつ、私はベンダーツさんの待つ勉強部屋に向かって歩き出しました。
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