「結婚しよう」

まひる

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第四章

5.疲れているだろう【2】

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「今日はゆっくりしておけ」

 ──はい?
 朝食が終わり、食後のティータイムをしていた時です。ヴォルの突然の言葉に、私はキョトンとしてしまいました。

「ベンダーツに言っておく」

「あ、あの……っ」

 何もするなと言われると、私の事を不要だと言われているようで不安になります。
 いつもは様々な勉強をしているのですから。

「……疲れているだろう」

 少しだけ視線をらし、言いにくそうにヴォルが告げました。あ、顔がわずかに赤いです。

「え……、その……っ」

 私も顔が熱くなったのが分かりました。何と言えば良いのか戸惑います。

「メルシャ様。ご都合が宜しいのでしたら、私とお話をなさいませんか?」

 二人して赤くなってしまい、言葉を続けられなくなっているのですから仕方がないですよね。
 私達のやり取りを見かねたのか、ガルシアさんが申し出てくれます。

「……はい」

 ありがたいです。でもこれって、甘え──ではないですかね?

「では、ガルシア。メルを頼む」

「はい、承知致しました」

 ヴォルも心なしか安心したように微笑んでいます。
 私もあまり心配をかけてばかりではダメですからね。忙しいヴォルの邪魔をしないようにしなくてはなりません。

「いってらっしゃいです」

 執務室へ出掛けるヴォルの背を見送ります。今日は午前中は執務室でお仕事、午後から研究室との事でした。
 ヴォルは一度だけ私の頬を撫でていきました。その時、青緑色の瞳の中に熱い何かが見えましたよ。何でしょうか。

「メルシャ様?」

「あ、はい。行きます」

 仕事が片付いたガルシアさんが声を掛けてくれました。
 私は慌てて立ち上がり、彼女に歩み寄ります。

「そんなに急がなくても大丈夫ですよ、メルシャ様。今日はお天気も宜しいので、お庭にでも行きますか?」

「あ、はいっ。私、このお城のお庭好きですっ」

 ガルシアさんのお誘いで、私達は中庭と思われる場所へ行きました。

 手入れの行き届いた庭は見ているだけで心が休まります。ガルシアさんと一緒に少し庭を散歩して、屋根のついたベンチで一休みです。
 いつの間に用意したのか、お茶セットが出ていました。恐らく侍女の方に運んでおいてもらったのでしょうが、さすがに手際が良いです。

「あ、あの……。今更ですが、ガルシアさんのお仕事は大丈夫ですか?」

 目の前に出されたお茶を見つめながら、私はガルシアさんに問い掛けました。
 何か無理を言って付き合ってもらった感があるのですよ。

「大丈夫ですよ、メルシャ様。私は普段休みなく働いているので、案外好きな時に休憩を取れるものなのです」

 にっこりと微笑むガルシアさんは、本当に心優しい方なのです。私に気を遣わせまいと、色々考えて下さっているようなのでした。

「私の事より、メルシャ様のお話を聞かせて下さいませんか?ここまで旅をなさったのですよね。慣れない長旅で大変だったのではありませんか?」

 ガルシアさんはヴォルから、私が農村の出だと聞いているのです。それでもそれに触れる事なく、旅の話を聞いてくれました。

「はい、色々な町に立ち寄りました。初めて見る品物や食べ物がたくさんあって、とても興味深かったです」

 私はガルシアさんに問われるまま、ヴォルとの半年に渡る旅を話して聞かせたのでした。
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