「結婚しよう」

まひる

文字の大きさ
上 下
169 / 515
第四章

≪Ⅳ≫我が儘ではない【1】

しおりを挟む

「……どうしましょう」

 あれからガルシアさんに私の部屋──婚儀の前まで使っていた場所です──まで案内してもらいましたが、彼女はまだ片付けがあると言うので御一人様な私です。
 ですが既に、ヴォルへの先程の態度に後悔しているのでした。

「あぅ~……ヴォル、怒ってますよね……」

 一人項垂うなだれます。──本当に私、もう少し考えて行動しましょうよ。
 ベッドに腰掛けていましたが、ポテンとうつぶせに倒れてみます。このベッドも、ここに来てからずっとヴォルと寝ていました。

 寂しい……です。

 おかしいですよね、これ。いえ、ヴォルの事は好きなんですけど……私は彼に依存しすぎてません?このままじゃ、ヴォルなしではいられない身体になってしまいそうです。──もう既にその兆候が現れている気がしなくもないですが。

 そんな感じで一人で悶々としていると、静かなノックの音が響きました。

「あっ、はいっ!」

 勢い良く起き上がって扉を見ます──が、誰も入って来ません。
 あれ?気のせいではないです……よねぇ。しばらくしても何の応答もないので、私は扉に近付きます。

「どちら様……ですか?」

 再度声を掛けてみましたが、誰からの反応もありません。私は外が気になって、ソッと扉を開けてみました。
 あれ?やっぱり正面には誰もいな……いっ?!

「警戒心が足りないな、本当に。良くそれで今まで無事だったと感心するぞ」

 呆れた様な声を掛けられました。
 ビックリしましたよ、ベンダーツさんではないですか。壁際に立っていたベンダーツさんを見つけたのですが、驚きのあまり扉を閉めようとしてしまいました。いえ、閉まらないように扉に足を挟まれましたが。

「あの……、すみませんです」

「何度も言うが、『とりあえず』で頭を下げるな。俺はお前より下の者だぞ」

 閉められないままの扉を固定するように手で押さえ、ベンダーツさんが私の顔を覗き込みます。
 この片眼鏡モノクルなしバージョンはいつもと違った迫力があって恐いのですよ。口調も荒いですし。

「あ……あの……っ」

「ったく、何で俺がケツを拭いて回らなきゃならんのだ」

 は、はい?何故か分からないですけど怒っていますね。
 廊下の奥の方を見ながら、人が来ないかをさぐっているようなベンダーツさんでした。
 ──あ、頬がさらに青くなっています。先程ヴォルに叩かれたところですよね。痛そうです。

「何してる」

「えっ?あの、痛そうだなと思いまして……」

 視線がれてるとそれほど怖くないので、感情のおもむくままに青くなった頬に触ろうとしていました。勿論、その途中で手首を掴まれて止められましたけど。

「……状況を見る力も養え。今のこの状況はかなり危険なんだぞ。部屋にはお前一人、廊下に人影なし。目の前に男。襲われて対処が出来るのか?」

 あからさまな溜め息をき、すぐに視線を真っ直ぐ向けて告げられます。
 えっと……、どう言うことですか?

「アイツの事をうとましく思っている輩は多い。いくら婚儀を挙げたとは言え……いや、だからこそお前を狙って来るんだろうが」

 いつの間にか両の手首を掴まれていて、鋭い視線を向けられます。
 怖い──ですけど、やっぱりこれは心配して下さってます……よね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。

バナナマヨネーズ
恋愛
 とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。  しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。  最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。  わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。  旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。  当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。  とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。    それから十年。  なるほど、とうとうその時が来たのね。  大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。  一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。 全36話

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

勘違い令嬢の心の声

にのまえ
恋愛
僕の婚約者 シンシアの心の声が聞こえた。 シア、それは君の勘違いだ。

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王子殿下の慕う人

夕香里
恋愛
エレーナ・ルイスは小さい頃から兄のように慕っていた王子殿下が好きだった。 しかし、ある噂と事実を聞いたことで恋心を捨てることにしたエレーナは、断ってきていた他の人との縁談を受けることにするのだが──? 「どうして!? 殿下には好きな人がいるはずなのに!!」 好きな人がいるはずの殿下が距離を縮めてくることに戸惑う彼女と、我慢をやめた王子のお話。 ※小説家になろうでも投稿してます

俺の妖精すぎるおっとり妻から離縁を求められ、戦場でも止まらなかった心臓が止まるかと思った。何を言われても別れたくはないんだが?

イセヤ レキ
恋愛
「離縁致しましょう」 私の幸せな世界は、妻の言い放ったたった一言で、凍りついたのを感じた──。 最愛の妻から離縁を突きつけられ、最終的に無事に回避することが出来た、英雄の独白。 全6話、完結済。 リクエストにお応えした作品です。 単体でも読めると思いますが、 ①【私の愛しい娘が、自分は悪役令嬢だと言っております。私の呪詛を恋敵に使って断罪されるらしいのですが、同じ失敗を犯すつもりはございませんよ?】 母主人公 ※ノベルアンソロジー掲載の為、アルファポリス様からは引き下げております。 ②【私は、お母様の能力を使って人の恋路を邪魔する悪役令嬢のようです。けれども断罪回避を目指すので、ヒーローに近付くつもりは微塵もございませんよ?】 娘主人公 を先にお読み頂くと世界観に理解が深まるかと思います。

処理中です...