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第三章──蟹(かに)──

なな

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※ ※ ※

「っめた……」
「スッとする系だからな。日焼けした肌に良いって、親父が持たせてくれたんだ。初めは何を言ってんだとか思ってたけど。マジ、潤之介じゅんのすけの為だったんだなぁ」
「え?天照てんしょうさんが?」
「あぁ。肌の白い潤之介が、確実に日焼けに困るとふんだんだろうな。くそっ、おれが先に気付くべきだったぜ」
「日焼けに気付いたのは、臥竜がりゅうが先じゃないか。ぼく、自分の事なのに鈍感だなぁ」

 水のシャワーを浴びた後、ぼくは臥竜に日焼け治療薬を塗ってもらっていた。肩は自分で塗れなくもないけど、背中はほとんど無理だから。
 臥竜を見たところ、焼けてはいるけどって感じ。ぼくみたいに、真っ赤にはなっていない。こんなに紫外線に弱かったなんて、海に来たのが初めてだから知らなかった。
 学校のプール授業では。こんなに長時間、太陽光にさらされる事はない。体育でも同じだ。

「ほら、塗り終えたぞ?頬とかも少し赤くなってるな。ついでだ、塗ってやる」
「うぅ……、少し目にみる」
「マジで?じゃあ、あぶねぇからもうやめとく」
「そうなの?ありがとう、ごめんね」
「大丈夫だ。ってか、みるのはダメだから……」

 そんな感じで、塗り終えた薬を鞄にしまっていた臥竜。けれども急に顔を上げたかと思うと、周囲を見渡し始める。
 服を着終わったぼくも、その様子が気になって周囲を見回した。──あぁ、分かってしまった。それまでいた人影が、一つもなくなっていたから。

「臥竜……」
「あぁ。『しろ』に入ったみたいだ」

 今なら分かる、『しろ』。これは、化け物あやかしの独自空間の事だ。亜空間、とでもいうのだろう。招き入れられたものしか、入る事が出来ない。
 今回の場合、対象は臥竜とぼく。先程の、海上にいた化け物あやかしだろうか。こんな招待、全然嬉しくない。

「……潤之介。波打ち際、見えるか?」
「え……あ、うん。アレは、かに?」

 臥竜に教えてもらって、初めて気付くぼく。視線の先に、二つの腕を上げた角張った存在があった。
 腕の片方は、ハサミのように鋭く鋭利。もう片方もハサミ形状だけど、異様に大きくて広がっている。左右の違いから、イメージはシオマネキだ。ただ脚は、気色悪い程にたくさん。しかも本来あるべき節状の蟹脚だけではなく、人の物と思える肉感のある足がざっているのだ。
 さらに、大型犬くらいの大きさがある。

「何、アレ……」
「キモッ。たぶん水死体を取り込んでるんだろう。随分と怨念を溜め込んでやがる」

 鳥肌が立つぼくとは違い。臥竜は冷静に化け物あやかしを分析している。蟹の周囲には黒いもやが湧いていて。たぶんこれが、臥竜のいう怨念の可視化された状態なのだろう。
 でもばれたぼくたちは、アレから解放されなければここから出られないのだ。
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