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プロローグ、に
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泣いて。泣いて。涙が出ると、どんどん疲れてくる事に気付いた。
本当は歩き過ぎて。お腹が空きすぎて。泣いて。大声を出していたからかもしれないけど。
お父さんもお母さんも。ずっと大きな声で呼んでても、誰にもぼくの声が届かなくて。
寂しくて寂しくて寂しくて。ぼくは自分の身体をぎゅっと抱き締めて。少しずつ近付いてくる夜の空気が、心の中まで冷やしてしまいそうだった。
「……とう……さ……」
大声を出しすぎた為か。もう喉がガラガラしてて、まともな言葉が出てこない。
じっとしていても、どうにもならないだろうけど。もう今のぼくは、ここを動く気持ちが湧かなかった。
空が紅くなったから、すぐに暗くなる。夜が来る。
それが分かっているのに、寂しさに心が負けてしまって。動けないのだ。
「………………?」
そんなぼくの耳に。それまでとは違う、何かの音が届く。
森の中で、これまで聞こえて来ていた生き物達の音。鳴き声や動く物音とは違う、違和感。空気中に漂う嫌な感覚。
それに気付いたぼくは、木の穴から少しだけ恐々と外に顔を出してみた。
「っ?!」
ぼくが見てしまったのは。黒いもや。その中から幾つも突き出た、幾つもの──手。足。脚。髪の毛や尻尾。人も動物も。昆虫や植物まで。色々なものが入り雑じった、一つの塊。
それが紅くなった空を避けるように、暗く夜が入り込んできた部分へ向かって進んでいく。
アレに見つかったらダメだ。ぼくは本能的にそう思った。
今いる木の穴から。腰が抜けてしまったけど。ぼくは四つん這いで、ソレとは逆の方へ向かう。何となくこちらへ向かってきている気がしたから、近付いてくる前に遠くへ行きたかった。
でも薄暗くなってきた地面は良く見えなくて。右の掌に何か鋭い痛みが走って、叫びそうになる。
「っ~?!」
「静かに」
でも、声は出なかった。正確には、出せなかった。
ぼくの口を何かが覆って、耳元で囁かれる。
見開いたぼくの視界に入ったのは、ぼくと同じ年くらいの男の子。その子がぼくの口を手で押さえていて。ぼくの身体を包み込むように反対の手を回していた。
「気付かれちゃう。静かにしてて」
ぼくと目が合うと、その子はもう一度小さな声で呟く。さらりと、手触りの良さそうな黒髪が揺れた。
そりゃ、ぼくだってアレに見つかりたくはない。必死で頭を縦に振った。
その子はぼくの口から手を離してくれたけど、暫くそのままの格好で。ぼくとその子はアレの様子を伺う。
「お利口だね。……でも、それだけじゃ足りないみたい。少しだけ、おまじないしてあげる。のうまく、さんまんだ、ばざらだん、せんだ、まかろしゃだ、そわたや、うんたらた、かんまん。彼の者に近付く悪しき気を祓い、砕きたまえ」
その子の言ってる事は、良く分からなかったけど。
そう口にしたその子は、ぼくのおでこにちゅうをした。
本当は歩き過ぎて。お腹が空きすぎて。泣いて。大声を出していたからかもしれないけど。
お父さんもお母さんも。ずっと大きな声で呼んでても、誰にもぼくの声が届かなくて。
寂しくて寂しくて寂しくて。ぼくは自分の身体をぎゅっと抱き締めて。少しずつ近付いてくる夜の空気が、心の中まで冷やしてしまいそうだった。
「……とう……さ……」
大声を出しすぎた為か。もう喉がガラガラしてて、まともな言葉が出てこない。
じっとしていても、どうにもならないだろうけど。もう今のぼくは、ここを動く気持ちが湧かなかった。
空が紅くなったから、すぐに暗くなる。夜が来る。
それが分かっているのに、寂しさに心が負けてしまって。動けないのだ。
「………………?」
そんなぼくの耳に。それまでとは違う、何かの音が届く。
森の中で、これまで聞こえて来ていた生き物達の音。鳴き声や動く物音とは違う、違和感。空気中に漂う嫌な感覚。
それに気付いたぼくは、木の穴から少しだけ恐々と外に顔を出してみた。
「っ?!」
ぼくが見てしまったのは。黒いもや。その中から幾つも突き出た、幾つもの──手。足。脚。髪の毛や尻尾。人も動物も。昆虫や植物まで。色々なものが入り雑じった、一つの塊。
それが紅くなった空を避けるように、暗く夜が入り込んできた部分へ向かって進んでいく。
アレに見つかったらダメだ。ぼくは本能的にそう思った。
今いる木の穴から。腰が抜けてしまったけど。ぼくは四つん這いで、ソレとは逆の方へ向かう。何となくこちらへ向かってきている気がしたから、近付いてくる前に遠くへ行きたかった。
でも薄暗くなってきた地面は良く見えなくて。右の掌に何か鋭い痛みが走って、叫びそうになる。
「っ~?!」
「静かに」
でも、声は出なかった。正確には、出せなかった。
ぼくの口を何かが覆って、耳元で囁かれる。
見開いたぼくの視界に入ったのは、ぼくと同じ年くらいの男の子。その子がぼくの口を手で押さえていて。ぼくの身体を包み込むように反対の手を回していた。
「気付かれちゃう。静かにしてて」
ぼくと目が合うと、その子はもう一度小さな声で呟く。さらりと、手触りの良さそうな黒髪が揺れた。
そりゃ、ぼくだってアレに見つかりたくはない。必死で頭を縦に振った。
その子はぼくの口から手を離してくれたけど、暫くそのままの格好で。ぼくとその子はアレの様子を伺う。
「お利口だね。……でも、それだけじゃ足りないみたい。少しだけ、おまじないしてあげる。のうまく、さんまんだ、ばざらだん、せんだ、まかろしゃだ、そわたや、うんたらた、かんまん。彼の者に近付く悪しき気を祓い、砕きたまえ」
その子の言ってる事は、良く分からなかったけど。
そう口にしたその子は、ぼくのおでこにちゅうをした。
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