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第7話 今日も従者はため息を吐く

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「それで、それらをイアリス様がなされた証拠はあるのですか?」

 私が尋ねるととブッシュ男爵令嬢が不思議そうに目をパチクリさせています。

 いや、不思議なのはあなたの頭の中ですよ。

「え? だから私の証言が……」
「それは証拠にならないでしょう」

 まったく、証言を証拠だなんて主張しないでください。

「イアリスは彼女を虐めたのか?」
「いいえガトー様、私は虐めなんてしておりません」
「ほら、イアリスはやってないと証言しているぞ」

 …………えっ!?

「そっちも証言だけじゃないですかぁ!?」
「イアリスが嘘をつくはずがないからな」
「何でそっちだけ!?」
「私とイアリスの真実の愛の前に嘘はないからだ」

 殿下が勝ち誇っておられますが……もうどこから突っ込んでいいのか。

「何で何で? 配役がおかしいですぅ。イアリス・クームは氷の『悪役令嬢』なのにぃ!」
「イアリスを悪役とは聞き捨てならん!」

 イアリス様を侮辱されて怒り狂う殿下……最初の目的を忘れていますよね?

「いいもん、いいもん。まだ私にはアレク君がいるんだからぁ。ガトーさまなんて知らない!」

 プンプン怒ってブッシュ男爵令嬢が去って行きました。

「殿下、けっきょく何も分かりませんでしたね」
「あ……忘れてた」

 殿下の作戦はこうして失敗で幕を閉じたのでした。

 足を捻挫したイアリス様をお姫様抱っこできたのだけは、殿下にとっての収穫だったようです。もうこうなってはと、できるだけ長い時間をかけて医務室へ運ばれておりました。

 よっぽど嬉しかったようで、執務室に帰った後もその話題ばかりするんですよ。うるさいんで途中から耳栓をしましたが。

「こら、ちゃんと私の話を聞け!」
「ご安心ください。殿下と私は以心伝心なので耳栓をしても話は伝わっております」

 まあ、ぜんぜん伝わってませんが。

「それで、ノエル・ブッシュの件はどうされます?」
「今日の失敗は痛かったが、あの天然娘が他国のスパイとは思えんから緊急性はないだろう」

 まあ、あんな頭のゆるい女スパイもないでしょう。ハニートラップの線はまずありませんか。

「ですが、殿下の側近が二人もダメにされましたし、現在進行形でアレク・エコーチョ様が篭絡しかかっているのですよね?」
「前二人に関してはむしろ迂闊な奴らと分かって良かったと思おう」

 確かにブッシュ男爵令嬢に引っ掛かるようなのを側近にはしたくないですよね。

「アレクに関しては先ほど彼から報告があった」
「えっ!」

 いつの間にアレク様と接触していたんですか。

「実はアレクもベニエとブレストの件でブッシュ男爵令嬢を疑っていたらしい」
「それじゃあもしかして殿下と同じで?」
「ああ、他国のスパイではないかと調査する為に彼女に近づいたようだ」
「でもスパイではなかった」
「ああ、だが令嬢二人が婚約破棄の被害を受けているし野放しにもできんから、今度キルシュ・テトル嬢と示し合わせてブッシュ男爵令嬢を嵌めるそうだ」

 あの男爵令嬢も年貢の納め時ですかね。

「それではブッシュ男爵令嬢の件はアレク様にお任せするとして、残す問題はイアリス様のお気持ちだけですか」
「ああ、イアリス、イアリス、イアリスゥゥゥ!!」

 やべっ、この話題は出すべきではありませんでした。

「イアリス、君は私をどう思っているんだぁぁぁ!!!」

 当分この問題は解決しそうにありませんね。

 ハァ……
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