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第八章 常夜の魔女と差別の壁

八の捌.

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 駆け付けた子雲達は虎の姿になった芍薬に目を剥いた。

「なんて巨大な妖虎だ!?」
「やっぱり魔女が妖魔あやかし使いだったんだな!」

 そして、状況を良く確かめもせず武器を蘭華達に向けた。

「子供相手に妖虎を嗾けるとは!」
「この邪悪な魔女め!」
「俺達が来たからにはもう大丈夫だ」

 それに対して芍薬が蘭華を庇うように前に出た。

「また現れたな蘭華を虐げる慮外者共!」
「何をこの化け物が!」
「俺達がまちを守る!」

 芍薬が咆え、子雲達が殺気立ち、睨み合う両者。

「芍薬、止めなさい!」

 蘭華は何とか騒動を収めようと声を張り上げた。

「知るか、こんな恩知らずなまちぶっ潰してくれる!」
「そうよ! やっちゃえ芍薬」

 だが、芍薬は聞く耳を持たず、それを翠蓮が煽り立てた。
  
まちを脅かす邪悪な妖魔あやかしめ!」
「我らが成敗してくれる!」

 子雲達が武器を手に応戦の構えだ。

「何よ、蘭華さんへの恩も忘れて乱暴狼藉を働くあんたらの方こそ邪悪じゃない!」
「おうよ、もっと言ってやれ」

 翠蓮、芍薬が子雲達と舌戦を繰り広げ、周囲のまち人まで含んで剣呑な空気にこの場が支配されていく。

 いつ乱闘になってもおかしくない一触即発の状況。

「お願いだからもう止めて!」

 堪らず蘭華は悲鳴にも似た声を張り上げた。

「何が止めろだ!」
「貴様らがまちを脅かすからだろうが!」
「何よ良く調べもせずに分からず屋!」
「我の力を思い知れ!」

 だけど蘭華の声は届かない。もはや双方の戦意は高く、衝突を回避できる状況ではなくなっていた。

「牡丹、止めるのを手伝って!」
「承知じゃ」

 もう言葉では止められないと判断した蘭華は強硬手段に出た。

「芍薬、伏せ!」
「うみゃ!」

 突然の強制待てに芍薬は体勢を崩す。

「ま、またやったな蘭華!」
「この馬鹿者、自分から騒ぎを大きくしてどうするのじゃ!」

 奇異な格好で地面にうつ伏せ不平を漏らす芍薬を牡丹が一喝した。そして、顎をしゃくって前方を示す。

「あれを見よ!」
「――ッ!?」

 その方向を見て芍薬は目を見開いた。

「我が頭上に天を拝し、我が足下に地を拝す、もって各位に五行を配す――」

 蘭華が虚空に指を走らせ何かぶつぶつと呟いたかと思うと地面が光り出す。

「こ、これは!?」

 その光は規則性のある図形を描いていき、芍薬は目を大きく見開いて驚愕した。だが、その間も蘭華の方呪まじないは続く。

「――天帝をまつりて天子天権を拝し、以て現世うつしよに天命を顕現す。庶幾こいねがわくは我が八方に神界に通ずる道を敷かん――開け八門!」

 蘭華が力強く最後の方呪を唱えれば周囲の地面から光が一気に溢れ出した。
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