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第六章 剣仙の皇子と窮奇の行方

六の陸.

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「言われてみれば、そう考えるのが妥当でありますな」

 結界や蘭華の件について情報を隠蔽できる人物として一番怪しいのは月門の邑令長だ。刀夜は邑令長が泰然を裏切っていると睨んでいる。そうでないとしても現状を黙認はできない。

「しかし、疑い出すと全てが怪しく思えてきますな」
「もしかしたら方士院の内部にも手が回されているのやもしれんぞ」
「確かに森の結界や蘭華への工資の事を聞くと陰謀であってもおかしくありませんな」

 何もかもが陰謀ではないだろうが、思い起こせば不自然な点は数多くある。

「よく考えてみれば蘭華の件には作為的なものを感じる」
「作為でございますか?」
「もともと蘭華は月門の爪弾き者のようだが、ここまで特徴が食い違っていながら殆どのまち人が蘭華を犯人と疑うのには違和感がある」

 先程の夏琴が指摘したように方術による目眩しと考える者が一定数いるのは分からなくもない。しかし、翠蓮や斉周以外みなが口を揃えて蘭華を犯人と断定しているのはおかしい。

「今にして思えば魔女の噂も奇妙だ」
「奇妙と言いますと?」
「これ程まで情報が食い違っていながら『常夜の魔女』が犯人だとまことしやかに流れていた。しかも、伝わってくるのも早過ぎる」

 一ヶ月前に月門に窮奇が出現したのとほぼ同時に常陽で噂が広まっている計算になる。

「誰かが蘭華に濡れ衣を着せようと噂を誘導していると?」
「ああ、裏で糸を引いている者がいるのは確実だ」
「ですが、彼女を嵌めていったい何の得があると言うのですか?」

 夏琴にも刀夜の違和感は理解できるが、ただの一導士でしかない蘭華を貶める意味が分からない。

「蘭華は生贄にされたのだ」
「生贄?」
「俺は泰然兄上が蘭華を匿っていると踏んでいる。それを知った誰かが蘭華に罪を着せ、匿っている兄上にその責任を取らせる算段ではないだろうか?」

 刀夜は窮奇の事件と蘭華の周囲に渦巻く悪意に関連があるように思えてならない。

「つまり、蘭華を窮奇失踪と月門での襲撃事件の犯人に仕立て、その責任を泰然様に負わせるつもりだと?」
「ああ、もともと常夜の魔女と蔑まれていた蘭華に冤罪を被せるのは容易だろう」

 月門のまち人に聞き込みをすれば、口を揃えて蘭華を犯人だと証言するだろう。

「その後、機を見て窮奇の失踪や森の結界の怠慢の責任を追求する算段だと俺は睨んでいる」
「もし刀夜様の推測が正しければ陰謀はかなりの所まで進んでいるのではありませんか?」

 既に月門は泰然の政敵に掌握されつつある。陰謀の中核となる妖虎の噂もかなり広まっており、刀夜の推測が正しければもはや一刻の猶予もない。

「早急に蘭華と情報隠蔽の件を調査する必要がありますな」
「そちらは儀藍ぎらんに任せよう」

 刀夜と夏琴の剣の師でもある儀藍は剣の達人にして人格者。彼を慕う弟子も多く、調査を依頼すれば彼らが立ち所に調べ上げてくれるだろう。

「さようですな。儀藍殿なら泰然様へも上手く伝えてくださるでしょう」
「ああ……」

 早速、刀夜は儀藍宛てに文を認めると「ピーッピッピッ、ピーッ」と高い口笛を吹いた。
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